季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 1992年冬季号
発行年月 平成4年01月 判型 B5 頁数 32
目次分類テーマ著者
巻頭言長期的、構造的な住宅政策を稲葉秀三
研究論文地価上昇と地域所得の変動坂下昇
研究論文住居費負担の統計的一考察高木新太郎
研究論文地価の国際マクロ経済分析工藤和久
時事展望「地価バブル」の実証は可能か?金本良嗣
連載講座住宅供給の実証分析森泉陽子
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 本号の3つの論文は、いずれも最近話題になっている問題を理論的あるいは実証的に説明している。坂下論文では、大都市圏を中心とした地価の高騰が地域間所得格差にどのような影響を及ぼしたのかを分析している。高木論文では、住宅のフロー・サービス価格(家賃など)の国際比較から、都市別データでは住居費用は日本が低いが、マクロ・データからは逆の関係を見出している。最後に工藤論文では、国土の狭い日本の地価が高く、対外資産を増やしている理由を理論的に導出する。
 本号でとりあげられているトピックは、いずれもジャーナリスティックに報道され、きちんとした理論的・実証的分析がなされずに印象論で意見が述べられるために、誤った理解を与えることが多い。地価上昇により地域間で土地資産額に大きな隔たりが生じてきており、土地資産額と県民所得との関係は理論的・実証的にどのようになっているかは重要な問題である。坂下論文はこの点を分析する。日本では、地価の上昇にもかかわらず、借地借家法によって家賃にはすぐには反映しないシステムになっている。諸外国と比較して、日本の家賃・地代は割安なのかを実証的に比較するのが高木論文である。工藤論文は、日本の高い貯蓄率や対外資産の曹積は、国土が狭いことに依存しているかどうかを理論モデルで説明する。
 どの論文も理論的な仮定やデータ制約のもとでの分析ではあるが、きちんとした論理展開がなされており、いずれもじっくり読んでいただきたい論文である。
 
 坂下論文の目的は、1980年代半ばから引き起こされた大都市圏を中心とする地価高騰が、地域間所得格差にどのような影響を及ぼしたのかを、理論モデルと実証分析(1984年から1988年データ)によって調べることである。
 まず、地域経済のマクロ理論モデルを構築する。ここでは、企業が資本・労働・土地を投入要素として生産を行うと仮定し、企業の利潤極大化行動から、資本・労働・土地の需要関数を導く。この理論モデルから、地代の上昇が起これば、(土地所有者である)家計には地代収入が余分に入り、労働供給を減らすため、実質賃金は上昇し、需給均衡労働量は減少することが示される。
 次に、名目体系のマクロ・モデル理論を展開し、?実質可処分所得が賃金と地代収入の合計で表され、?地域の実質財サービスに対する需要を、実質消費・実質投資・移出からなるものとし、実質総供給との均衡から地域の物価水準が決定されるとする。?土地は地域の家計によって所有され、土地需要は企業・家計・地域外経済主体によってなされるとし、地代はこの需給均衡から導かれる。
 以上の理論モデルから、「フロー・インパクト」(地域外経済活動の活発化が移出を増大させる効果)と「ストック・インパクト」(地域外経済活動の活発化が地域への県外からの土地需要を増やす効果)を区別し、(1)特定地域の名目地代の上昇が、ストック・インパクトであるとすれば、名目分配所得は増大するが、名目生産所得への効果は明らかではなく、(2)フロー・インパクトが発生した場合には、名目地代は上昇するかどうか一概にはいえないが、名目生産所得は必ず増加することが示される。
 実証分析では、(1)各県の土地資産額と県内純生産・県民所得・1人当たり県民所得との単相関係を1984?88年のデータで検証している。地価上昇率が高い10県(東京など)では、土地資産額と県民所得、さらに土地資産額と純生産との相関係数は高く、他方下位7県では(土地資産額と県民所得とは)低い相関係数となっている。これより、地価上昇率の高い10県で、ストック・インパクトとフロー・インパクトが働いていると推察される。
 (2)地価上昇率の高い上位10県では、地価上昇率の高いわりには所得成長率が加速されていないためストック・インパクトが主に起きているようにみえる。これに対して、その他の県グループでは所得成長率はそれほど低位ではなく、フロー・インパクトの影響が存在しているとも考えられる。
 坂下論文で展開されている精緻な理論モデルは、地域分野の研究を進める読者にとってはとても参考となる分析であり、実証分析面でもこの研究を押し進めて、理論モデルで展開されているマクロ・モデルを実証分析することによって、地価と地域所得・分配所得の関係を導くことが今後必要であると思われる。
 
 住宅の特徴としては、住宅が耐久財であることによる資産という性質と、住宅から得られるサービス・フローの2つの側面があるが、高木論文は、住宅のフロー住居費データの国別の比較を行っている。
 日本の住宅のストック価格は高く、住宅サービス価格(家賃・地代)は低いために、借家に住みながら貯蓄をして高い住宅を購入するといわれている。日本の住宅サービス価格が各国と比較して低いかどうかを調べることが高木論文の目的である。
 まず、総消費支出に占める住居費の割合をみると、日本では15.5%(75年)から18.5%(81年)となっており、フランスのそれと類似の動きを示している。また、マクロ・データによる家賃・水道費の各国比較では、日本の費用はアメリカの半分強となっている。持ち家の帰属家賃も考慮して「家賃相当額・光熱水道費・設備修繕費」を比較した森泉陽子や伊藤彰彦の研究によると、日本の費用はアメリカのそれを下回ると報告されており、日本の住居費負担率が低いことを示している。しかし、都市別の家賃比較によると、東京(=100)の家賃は、ニューヨーク(=64)、ハンブルク(=62)よりもかなり高い水準となっている。住宅の質を1人当たり床面積でみると、アメリカ・旧西ドイツ・イギリス・フランス・日本の順で、日本はやはり小さい。
 土地のフロー・サービス価格を各国で比較するためには、今後ヘドニック・アプローチなどを用いた住宅の質も考慮して、国全体の比較ではなくて都市別などの細かい比較をもっと深める必要があると思われる。
 
 工藤論文は、小国モデルと2国モデルを用いて、国土の小さな国と大きな国を比較して、経常収支・貯蓄・地価がどのように異なるかを動学モデルで分析する。
 近年、米国によって「日本の高い地価水準は高い貯蓄率をもたらし、さらにそれが日本の過大な経常収支黒字の原因である。日本の高地価は、土地利用規制・土地税制・農業保護などによって人為的にもたらされたものであるから、それらが撤廃されれば、地価は適正な水準まで下落し、それにつれて貯蓄率も下がり、経常収支黒字も削減される」と主張された。工藤論文の目的は、このような考え方が理論的に正しいかどうかを調べることである。
 消費者は所得と資産を決める式を制約条件式として、財の消費と土地サービス消費から得られる多期間の効用を最大化するように、財の消費量と土地サービスの需要量を決める。土地の供給量は一定であると仮定する。消費者の所得は、生産によって得られる所得と利子所得と土地のキャピタル・ゲインの合計で表され、さらに消費者の資産は、所得の割引現在価値で表される。また、経常収支は貿易収支黒字(生産マイナス消費)と利子受取りの和で表され、対外資産の動きは経常収支残高と等しいとする。
 このモデル(小国モデルと2国モデル)から、貯蓄がゼロで経常収支が均衡し、土地価格が一定にとどまる定常均衡における消費・地価・対外資産残高が求められ、次のような結論が得られる。(1)利子率が一定の場合には、土地保有が大きいほど財の消費量は小さくなる。(2)国土面積が小さい国のほうが地価総額が大きくなり、資産に占める土地の比率も高くなる。(3)土地の狭い国の消費者は、たくさん消費をすることによって国土の広い国の消費者と同じ効用水準を保つことができる。そこで、両国の生産高が同じであるとすれば国土の狭い国の消費者は対外資産残高をより大きくすることによって、海外からより多くの利子所得を得なければならない。
 国土の狭い日本の地価総額がアメリカよりも大きく、日本の対外資産残高が高い理由が、この工藤論文モデルから明らかにされたことになる。読者は、工藤論文モデルの仮定を緩めることによって、どの程度まで同じ結論が得られるかの応用問題を解いてみると、この論文がさらに深く理解できると思われる。(N.Y.)
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