季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2018年夏季号
発行年月 平成30年07月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1公共施設再配置と行動経済学中川雅之
特別論文2-9住宅税制の今後についての一考察篠原二三夫
論文12-19住宅価格の参照価格からの上昇と下落が出生行動に与える非対称な影響岩田真一郎・直井道生
論文20-27転居希望の実態とその要因分析石川路子・福重元嗣
論文28-35日本の人口動態の変化が及ぼす空き家率への影響の実証分析渡邉正太郎
海外論文紹介36-39差押住宅の外部不経済緩和効果の推計定行泰甫
内容確認
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ノート
今号に掲載された⚓編の論文は、いずれも少子・高齢化と住宅の関係を分析している点で興味深い。
岩田・直井論文(「住宅価格の参照価格からの上昇と下落が出生行動に与える非対称な影響」)は、住宅価格の変動が資産効果を通じて、人々の出生行動にどのような影響を及ぼすかについて、実証的に検討した論文である。先行研究では、住宅価格が下落すると出生率も低下するという関係があることが示されているが、この論文ではそうした単純な関係ではなく、住宅価格が上昇したときと下落したときとでは、その効果は非対称であることを示している。こうし
た非対称性の原因は、行動経済学における損失回避行動にあるという仮説を用いて、一定の参照点に比べて持家の住宅価格が下落した場合には、人々の保有するその資産価値が低下する結果、出産する子どもの数を減らす傾向があるの
に対して、住宅価格が参照点に比較して上昇する時には、出生する子どもの数はそれほど増えないことを示している。
この研究では参照点がどこにあるかという点が重要である。1年前の住宅に比べて現在の住宅価格が上昇したか、あるいは下落したかについての効果が検証されているが、参照点を⚓年前の住宅価格に設定すると、非対称的な効果が弱まることが検証されている。住宅を長期間保有している世帯にとってみると、いつの時点を参照点にするかによって、その行動は大きく変化する。また、価格の変化が予測されていたものかどうかという点も重要である。合理的な主体であれば、予測していなかった価格の変化が人々の行動を変化させる。こうした参照点の違いや予測の誤差が、どのように分析に導入されるのだろうか。
ところで、日本の住宅の多くは相続まで売却されない。そのため、資産効果が発揮されるようにするための持家住宅の資産価値の流動化の仕方が問題になる。仮に住宅価格が上昇したときに、住宅を売却したとしても、新たに何らかの住宅が必要になり、その住宅価格も高騰しているはずである。つまり、住宅価格が高いときに売却してしまえば、高い家賃の賃貸住宅に住むか、同様に高くなった他の住宅を買うかせざるをえない。それでは、資産効果は発揮できない。
売却をせずに資産効果が実現化する経路は遺産を通じたものが考えられるが、それはリカードやバローによって分析された合理的な世界である。そこでは、相続まで住宅を売却しないとすると、資産効果は子孫に及ぶことになるが、この時に遺産の調整を通じて、被相続人は資産効果を実現するのだろうか?

石川・福重論文(「転居希望の実態とその要因分析」)は、京都市と大阪市に居住する20歳以上の男女を対象にしたアンケート調査に基づいて、「住み替え希望」がどのような要因から影響を受けるかについて分析している。今後、人口が減少する日本においては、都市政策の観点からも人々の住み替え希望がどのように変化するかを地域ごとに分析することは意義がある。
この論文は、よく言われているような借家から持家といった住み替え行動があるのか、家賃やローン返済の負担額が、人々の住み替え希望にどのような影響を及ぼしているかについて分析している。分析はプロビットモデルによる推定で、経済的変数以外にも、世帯構造や世帯主の年齢等の世帯属性も考慮に入れている。とりわけ高齢者にとっては、より小さな住宅や、バリアフリー住宅への希望が増えており、その実現には、リノベーション、あるいはバリアフリー住宅への転居といった手段が考えられる。
家族のメンバーは若年層では増えていくが、子どもの独立とともに減っていくという変化が見られる。分析の結果は、京都市と大阪市では異なることが観察され、地域差や世代差が重要であることが改めて確認されている。興味深い点は、借家から持家への住み替え希望が必ずしも見出されなかったことや、必ずしも家族人員数の多さが住み替え希望につながらないことが示されていることである。
また、所得の増加よりもむしろ所得の源泉が人々の転居希望に影響を及ぼすことや、家賃やローン返済額の変化が、転居の希望に無視できない影響を及ぼしていることが示されている。家賃の上昇は転居希望の増加を意味するが、家賃上昇が高額になればなるほど、逆に転居希望は減少することもあり、高額な賃貸住宅に住んでいる人々にとっては、必ずしも家賃上昇が新たな住居への転居希望をもたらさないことを示唆している。
さらに、家計収入等の流動性の変化も転居希望に影響を及ぼしていることが明らかにされているが、持家という固定資産の保有は必ずしも転居希望に影響を及ぼさないといった指摘も興味深い。これらは中古住宅市場の整備の必要性を
示唆するものである。
ところで、転居希望は現在の居住に対する不満を反映しているとも言える。この点に関連して、京都市・大阪市のいずれにおいても、若年層は「保育所・小学校への近接性」に不満を持っているのに対して、高齢者は「治安の良さ」に対して不満を持っているという分析結果は、首肯できる。こうした分析を拡張して、中心市街地や郊外に住む人々の転居希望がどのように形成されているかについて分析することができれば、コンパクトシティの形成を促進するための
有効な手段もみつかるかもしれない。

空き家の増加が無視できない社会的な問題になりつつあるが、空き家の存在は、いわゆる外部不経済を発生させ、治安の悪化等をもたらす可能性が高い。空き家の増加は、老朽化にともなう倒壊危険家屋が増加することを意味するとともに、不法占拠・悪臭等によって周辺住民の不利益をもたらす。地域の治安が悪化すると、その地域から住民の転出が増えていく。地域住民の減少は、さらに空き家の増加をもたらし、それがいっそうの外部不経済と地域住民の減少を促し、その地域の衰退を引き起こす。このように空き家の増加は、地域に社会的な負のスパイラルをもたらす可能性が高い。
こうした都市や地域人口の変化に伴って生じる盛衰は、多くの国でも常に観察されてきたことである。しかし、どのような原因によって地域が発展したのか、あるいは衰退していくのかを分析することは容易ではない。
渡邊論文(「日本の人口動態の変化が及ぼす空き家率への影響の実証分析」)は、空き家の発生の原因を実証的に明らかにしようとしている。まず、人口の変化率を空き家率の重要な決定要因であると考えられるかどうかを検証するために、「賃貸用および売却用住宅」の空き家率と人口の変化率の相関に注意を払っている。これ以外の住宅を対象とした「その他の住宅」の空き家率というのは、主に別荘等のものであるから、単純に人口の変化率でみることはでき
ないのかもしれない。
一般に、人口が減少している地域では、空き家率が高くなるという常識的な結論が導かれている一方で、高齢化率が高い地域では空き家率も高いという相関が見出されている。持家住宅が空き家になるのは、相続時点であることを考慮すると、高齢化に伴って空き家率が高くなることが予想される。また、20歳台・30歳台の人口が減少している地方都市では、賃貸需要の減少が生じることから、空き家が増えてくることも実証的に明らかにされている。
しかし、外国人登録者数の割合が空き家率に及ぼす効果に関しては、論文でも指摘されているように、家賃の低い地域の外国人登録者数が増えており、それによって空室率が減少しているといえる。そうした観点からすると、分析全体で内生性の問題については、より慎重に対応する必要があるように思われる。
人口や年齢構成等の比率だけでなく、より経済的な変数を用いたときに、どのような結果になるのだろうか。たびたび指摘されるように、空き家率の分析は失業率の分析と同じように考えることができる。物価の上昇率や賃金の上昇率と失業率を関連づけたフィリップス曲線が実証的に導かれたように、家賃の上昇率や住宅価格の変化率と空き家率がどのような関係にあるのかという点を分析できれば、興味深いものとなるように思われる。(F・Y)
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