季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2019年冬季号
発行年月 平成31/令和1年01月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1観光立国の実現と民泊風岡典之
座談会2-14人口減少時代の都市・地域像を探る饗庭伸・宇野善昌・中川雅之・羽藤英二
論文16-23複数のアメニティがもたらす空間的影響の推計定行泰甫
論文24-35長期未着手都市計画道路が建物更新に与える影響片山稔夫
海外論文紹介36-39世代間モビリティへの近隣効果の影響柴辻優樹
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ノート
 住宅政策や都市政策については、ヘドニック法などによるアメニティの評価や公共施設にかかる規制の効果に関する評価を経る機会が従前に比べて多くなっている。本号の二つの論文はヘドニック法の手法の改善や配慮すべき事項についてさまざまな示唆を与えてくれる。
 定行論文(「複数のアメニティがもたらす空間的影響の推計――近さの順位と距離の影響」)は、ヘドニック関数で評価されるアメニティの影響の精度を上げるために新しい近接性指標を提案する興味深い論文である。アメニティの影響のより正確な評価を行なう方向性としては、二つある。一つは、交通インフラ、公園、学校などさまざまなアメニティの質を制御することである。もう一つは、被説明変数である不動産価格や家賃とアメニティの近接性をより正確に制御しようとするものである。後者については、アクセシビリティ指標などによって一定の提案が行なわれてきたが、定行論文は、その近接性のマグニチュードだけではなく、順番が大きな影響を与えているという仮説を立てて、それを緻密な実証分析手法によって証明することに成功している。
 その結果、従来のアクセシビリティ指標では考慮されなかった「近さの順番」がアメニティの影響度合いを決定する重要な要因であること、また定行論文で用いられているアメニティである鉄道駅に関しては、ある駅(A駅とする)を通るすべての路線が住宅からより近くの駅で利用できる場合、A駅は住宅家賃に影響を及ぼさないこと、近さの順位が5番目よりも低い駅には影響をほとんど受けないことなど、興味深い結果を発見している。
 このように定行論文は今後のアメニティの評価に際して、一般性のある重要な提案を行なっていると高く評価することができる。ただし、この手法はアメニティの質の評価と合せて使用されるべきものではないだろうか。順番が大きな影響を与えているということは、複数アメニティが代替可能であることを前提としている。しかし、大きな地域のデータで評価した場合に、1番目に近い駅の路線が大きなターミナルに接続しているものである一方で、2番目に近い路線がそうではない場合と、1番目の駅と2番目の駅の関係が逆の場合は、異なる影響を不動産価格に与えるであろう。これらをまとめて平均的な評価を行なうことは、最初の一歩ではあるが、よりいっそうの改善を行なう余地があるのではないだろうか。

 片山論文(「長期未着手都市計画道路が建物更新に与える影響――長崎市を事例として」)は、都市計画道路として都市計画決定され、建築制限がかけられた地域における建物更新の確率、行なわれやすさについて、シミュレーションと実証分析により検証したものである。
 このような分析に関しては、個々の建物の置かれている状況が住宅地か商業地か、または接道の状態などによって異なってくることが予想される。片山論文の特色は、経済学的に予想される仮説をシミュレーションにより確認したうえで、その後に標準的な実証分析によって仮説を確認したことにある。
 分析の結果、長期未着手道路の影響により、区域隣接地においては、建物更新を先送りすることによる負の外部性増加の懸念や、都市計画道路の「50%未満区域内」にある建物の更新の前倒しによる事業実施時の取引費用増加の可能性が確認されたとしている。さらに都市計画道路の見直し方針の公表により、区域隣接地に生じていた建物更新の先送りが解消されていることも確認されている。
 前述のとおり、片山論文は詳細なデータに基づく分析を、シミュレーションと実証分析により行なっている点に長所がある。ただし、事前に想定されていた結果と異なる結果が出た部分、例えば建物更新が前倒しされる地域の存在などについては、より詳細な議論を期待したい。
 また、都市計画制限がかからない建物が多い地域、つまり「50%未満区域内」という地域では、建物更新が妨げられる制度的な影響が少ないため、もともと土地の収益率が高くなっている可能性はないだろうか。そのような意味で、より広い見地からの研究の発展を望みたい。(M・N)
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