季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 1996年春季号
発行年月 平成8年04月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言崩れた土地神話大津留温
特別論文転換期における住宅政策の検討巽和夫
研究論文資産価格と消費岩田一政・下津克巳
研究論文住居費負担率の考察渡辺直行
海外論文紹介資本コスト、税制改革と賃貸住宅市場の将来中神康博
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ノート
 この号では、岩田一政・下津克己「資産価格と消費」と渡辺直行「住居費負担率の考察」の二つの論文が掲載されている。
 
 1980年代後半のバブル期には、わが国の株価・地価は高騰したが、バブル崩壊後、高騰した地価の下落によって、金融機関は担保として確保した土地の価値が減価したため、不良債権に見舞われている。したがって、資産価格の変動が、マクロ経済指標の大きな構成要素である消費にどのような影響を与えるかは、理論的にも実証的にも明らかにしなければならないテーマである。
 岩田一政・下津克己論文(「資産価格と消費?耐久性・習慣性と複数財」)は、消費に基づく資産資本市場価格付け理論(CCAPM)を用いて個人消費を分析する。
 理論モデルの特徴としては、?消費の習慣性や耐久性を考慮した「非フォン・ノイマン=モルゲンシュテルン型効用関数」を用いること、そして、?資産価格の変動は耐久消費財支出に影響を与えるばかりでなく、「耐久消費財支出」と「非耐久消費財・サービス支出」との間の代替(補完)関係を通じて、後者にも影響を及ぼすことが考えられるので、二つの支出の間の分離可能性の仮定を緩めて分析する、ということがあげられる。
 まず、消費支出の増加率と資産価格の実質収益率の関係をデータでみると、?株価の実質収益率の変動は、非耐久消費財・サービス支出と比べると、極めて分散が大きい、?1990年以降のバブル崩壊後では、非耐久消費財・サービス支出は、資産収益率の動きにほとんど反応していない。これは、個人貯蓄に占める株式の比率が、バブル期でも約11%、またバブル崩壊後は6%程度と低いことがあげられる。
 消費者の効用関数は、時期の異なる消費は互いに影響しあわない(消費に慣習性がない異時点間で分離可能な)「相対的リスク回避度が一定」を想定すると、資産収益率が増えると消費の増加率も増える(両者の間の正の相関)という関係が理論的に存在する。
 つぎに、操作変数法による実証分析からは、株価と非耐久消費財・サービス支出との関係は概ね良好であるが、土地と非耐久消費財・サービス支出との関係の説明カは著しく低い。また、株価と耐久消費財との間には、計量分析の結果からは正の相関関係は見られない。
 そこで、消費の慣習性と財相互の間の代替性を考慮に入れてオイラー方程式を推定すると、消費の耐久性と習慣性のパラメータの計測が改善され、耐久消費財とその他の財との間には代替関係の存在が見いだされる。消費に慣習性がある場合には、消費増加率の小幅な変動が資産収益率の大幅な変動をもたらすという結果が導かれる。また、相対的リスク回避度については、財の分離可能性を緩めること(代替性を考慮に入れること)によって、理論と整合的な結果が導かれる。
 この岩田・下津論文は、わが国の資産価格と消費の関係を理論的に導き、オイラー方程式を実証的に計測した力作である。また、消費の耐久性や慣習性を考慮することによって、資産収益率の変動と消費の変動の間の関係を導いたことも興味深い。
 この論文をもとに、資産価格と消費の関係を多方面から実証的に調べることがさらに必要であると思われる。たとえば、次のようなことが考えられる。
 第一に、財を岩田・下津論文のように、耐久・非耐久財に分離するばかりでなく、さらに細かな財の中味、たとえば食料費・教育費・奢侈品支出などにわけて、資産価格との関係を調べることも必要ではあるまいか。
 第二に、オイラー方程式の計測ばかりでなく、消費関数それ自体を計量分析することも可能である。
 第三には、家計消費と企業その他の消費を分類し、家計の資産効果の影響を明らかにすることも興味深い。
 第四には、企業の投資・消費行動が資産価格の変動によってどのように変化したかも実証分析が望まれる分野である。
 岩田・下津論文をもとに、このようなテーマで多くの研究が行われることを望みたい。
 
 第二番目は、渡辺直行論文(「住居費負担率の考察」)である。住宅政策には、いくつかの方法が考えられる。(1)政府による公営住宅などの直接供給、(2)住宅金融公庫など政府金融機関を通じる低利融資、(3)住宅への貸付を行う民間金融機関に利子補給を行う、(4)住宅建設者への税の免除、(5)借家住宅への家賃補助、などである。渡辺論文では、5番目の家賃補助政策についての考察がなされる。
 政府が家賃補助政策を実施するためには、収入の何%程度が住居費に向けられることが望ましいかを求めなければならない。
 そこで、これまで住居費率を計算するのに使われた谷推計が紹介され、その問題点が指摘される。
 谷重雄教授は戦前の内閣家計調査と昭和39年の消費実態調査から、エンゲル係数と住居費率との間にどのような関係が見られるのかを図に示した。そこでは、エンゲル係数が上がる(=生活が苦しくなる)と住居費率を低下させている実態が観察された。すなわち、エンゲル係数が上昇すると、住居比率は減少するという、右下がりの形状となることが判明した。そして谷重雄は、住居費率とエンゲル係数の右下がりの関係を、線形回帰することによって、数量的に両者の負の相関を導いた。
 つぎに、エンゲル係数と、実収入・世帯人員数との関係を計量的に調べ、実収入と住居費負担限度率との関係を求めている。谷重雄推計によると、住居費負担限度率は20?30%と計測されている。この負担限度率は、世帯人員数が多くなるほど低下し、実収入が増えるほど(ある程度の所得層までは)低下する。
 谷方式を現在に当てはめることの問題点としては、?戦前あるいは昭和39年のデータに基づいた住居費の推定であること、?高所得層ほど貯蓄から住居費に回せる額が大きくなる可能性があること、?家賃には地域差があるにもかかわらず、全国一律の負担比率を求めていること、などがあげられる。また、?谷推計はクロスセクションデータによる分析であるから、時系列的にどのように変化するかは明らかではない。
 そこでまず渡辺論文では、昭和59年のデータを用いて、谷推計の適用性を調べる。それによると、住居費負担限度率は、20.5%(年収300万円)、17.7%(年収500万円)、15.6%(年収1,000万円)となり、谷重雄推計よりもやや低い数字となっている。
 渡辺直行推計(昭和59年)と谷重雄維計(戦前と昭和39年)を比較すると、以下のような特徴が見られる。
 ?住居費率が極大になる点のエンゲル係数は低下しており、生活水準の大きな上昇が観察される。
 ?どちらの推計においても、住居費率とエンゲル係数との間には上に凸の関係が見られ、エンゲル係数が上がると住居費率が減少する。また、凸のピークに当たる住居費率は、エンゲル係数の低い方に移動している。
 ?住居費率のピークの値はあまり変化していない。
 つぎに、谷重雄方式の推計から、住宅政策として家賃補助額を導き出すことの問題点が指摘される。すなわち、家賃補助を通じて生活レベルを同一にすることはできないので、年収に応じた適切な住居費負担限度は、なんらかの価値判断を伴わなければ求めることができない。また、それぞれの家計は異なる効用関数のもとに行動しているのであるから、住居サービスからの効用を高く評価するか否かによって、支払おうとする住居費負担率も個々人によって当然異なることになる。
 また、持家からの効用と借家に居住することから得られる効用とは異なるのであるから、もし借家から得られる効用のほうが持家よりも低いのであれば、同一効用を保つためにはより広い家屋の借家に住む必要が生じ、家賃補助額を増やさなければならない。
 住宅政策の実際の遂行にあたっては、渡辺論文に指摘されるように、?政策目的の明確な設定、?目的達成のための政策手段の選択、?政策手段の間での独立性、?政策変更による経済諸変数の変化などを考慮に入れた理論モデルとその実証分析が必要となる。この分野でのさらなる研究の深化が望まれる。(Y)
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