季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2002年秋季号
発行年月 平成14年10月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言都市と国家戦略安芸哲郎
特別インタビュー住宅と住宅政策の大転換島田晴雄
研究論文定期借地借家契約の最適性瀬下博之
研究論文公的住宅金融の現状と住宅ローン債権証券化の課題吉野直行・中田真佐男
研究論文東京圏マンション流通価格指数大守隆
海外論文紹介セミパラメトリックモデルとパネルデータを用いた住宅支出の分析行武憲史
内容確認
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ノート
 瀬下博之論文(「定期借地借家契約の最適性」)は、望ましい借地借家契約のあり方について重要な示唆を与える論文である。借地借家法の議論で問題とされたのは、借家権をどの程度保護すべきかという点であった。もちろん情報が完全であればコースの定理が成立する結果、どのような権利配分であっても相互の交渉によって最適な借地借家契約が結ばれるというのが標準的な結論である。しかし、裁判所との間で情報の非対称性が存在する下で地主・家主と賃借人がそれぞれ戦略的に行動する場合には、借家権保護の問題は無視できない重要な問題として再びクローズアップされる。
 ここで借地権・借家権が保護されているというのは、もし賃借人が住み続けることを望めば、裁判所が決めた家賃で住み続けることができることを意味する。これに対して、法的な保護がない状況では、地主が立退き料を払って賃借人を退去させることができることを意味している。このとき2つの相反する効果が働く。借地人は地主から土地を借りて自ら住宅投資をする際に、借地権保護があったほうが住宅投資は社会的に効率的な水準になる。もし借地権が保護されていなければ、借地人の行なう住宅投資の利益の一部が地主のものになるために、借地人の行なう投資が過小になってしまう。これはホールドアップ問題と呼ばれている。したがって、ホールドアップ問題を回避するために、借地権保護はある程度有意義であると評価される。
 ところで、地主は将来の転用の可能性を考慮して行動する。そこで、借地人は自らの住宅投資によって、地主による将来の転用の可能性を左右することが可能である。土地を貸すよりも、他の代替的な収益機会に土地を転用したほうが有利な場合が存在するにもかかわらず、借地人はその効果を十分に考慮しないために、自ら多大な投資を実施して転用の可能性を低めてしまうといったことが生じる。この場合にはむしろ借地権保護は望ましくない効果をもたらす。この効果は法的救済効果と呼ばれている。借家契約についても同じことが言える。
 瀬下論文では、借地借家契約で継続期間を適当に設定することによって、ホールドアップ問題と法的救済効果をうまくバランスさせることによって、貸借人と所有者の投資水準を最適な水準に導くことができることを明らかにしている。この議論は定期借家権あるいは従来の借地借家法の議論を考えるうえでたいへん興味深い。商業ビルのように、テナントが投資活動によって自らの生産性を高める場合には、とくに重要である。契約期間があまりに短いとテナントは十分な投資をしないために、商業ビル自体が採算にあわなくなってしまうことが考えられる。逆に借家権の保護期間をあまりに長くとってしまうと、テナントの商業ビルへの投資が過大になってしまうといった問題が従来から指摘されている。瀬下論文は、この問題を解決するために、契約による任意の継続期間を設定することによって対処することができることを明らかにしたという点で貴重な貢献である。
 
 住宅金融公庫は今後5年以内に廃止され、将来は住宅債権の証券化支援業務に特化していくことが大筋で決まっている。吉野直行・中田真佐男論文(「公的住宅金融の現状と住宅ローン債権証券化の課題」)は、これまで住宅金融公庫が果たしてきた役割を評価したうえで、今後の日本における住宅債権を証券化する際に解決すべき課題を要領よくまとめている。
 吉野・中田論文の特徴は、住宅金融公庫が民間金融機関よりも長期の固定金利ローンをより低利で提供してきたことによって、高品質な住宅ストックが整備されたと評価している点である。住宅金融公庫の融資によって、より多くの勤労者層に住宅資金が供給されたことが高く評価されている。もちろん、多くの人々に高品質な住宅を供給できたことの背景には、利子補給によって多額の公的資金が投入されているという事実がある。したがって、住宅金融公庫の存在意義は、融資のコストと便益をきちんと考慮したうえで判断されなければならない。
 吉野・中田論文の後半では、アメリカの住宅ローン証券化の制度と法的部門の役割が整理されている。アメリカでは証券化を促進するために、公的な部門が積極的に保障型の支援業務を担っている。これに対して、イギリスでは、公的な支援を必要とせずに民間の保険会社がさまざまなリスクをコントロールしたうえで、住宅ローンの証券化に積極的に関与していると聞いている。
 このようなアメリカとイギリスの制度の違いも十分考慮に入れて、今後の日本の証券化のための制度を考える必要がある。たしかに市場が整備されるまでは、さまざまな障害が生じるだろう。とくに公庫自身の大きな問題であった期限前償還のリスクは、証券化後も無視することはできない重要な要素である。このようなさまざまなリスクをどのようにしてコントロールするかという点については、アメリカやイギリスの制度を十分に検討したうえで、日本の制度設計を行なう必要がある。
 
 大守隆論文(「東京圏マンション流通価格指数」)は、東日本レインズに登録された中古マンションの取引価格についての莫大なデータ(12万件以上)を網羅した研究である。この研究では、1都3県の1994年から2000年までのデータを用いて、中古マンションの流通価格が時間的にどのように変化してきたかについて、ヘドニック・アプローチを用いて分析している点に、その特徴がある。ここでヘドニック・アプローチの説明変数として用いられるのは、交通の利便性や床面積、築月数その他にさまざまな構造上のダミー変数である。不動産価格が経済に及ぼす影響を分析することは重要である。その意味で土地だけでなく、都市における主要な住宅の形態である中古マンションの流通価格を分析することはたいへん意義がある。
 しかし、いくつかの分析上の問題点もあるように思われる。まず、交通の利便性を反映する変数として、バスに乗る時間と徒歩に要する時間を区別してバス1分を徒歩2分に換算して変数を作っている点である。このように硬直的な比率を用いることには大きな問題がある。実際にバスの利用時間と徒歩の時間を同時に変数として加えたほうが推定上望ましいのではないだろうか。さらに、実際に住宅市場を考えると、徒歩で歩く時間が長くなればなるほどマンション価格の分散も大きくなると考えられる。その意味で不均一分散についてもう少し注意を払うべきであるように思われる。
 第4節では、推計期間を分けて消費税率が変更される以前と以降とで大きな構造変化があったことが報告されている。しかし、これがどのような構造変化をもたらしたかについて言及されていないのが残念である。第6節では、他の指標との比較がされており、マンション価格を用いて推定したヘドニック指数は、地価の下落率よりも一般に大きく、とりわけ1995年度には大きく低下していることが明らかにされている。このことは、ヘドニック指数が適正に住宅市場を反映していると考えるよりも、地価データの精度に問題があることを示唆している。地価データの精度を上げないかぎり、このような比較は意味がないと思われる。
 最後に地域別の分析が報告されており、床面積の価格への影響が東京・神奈川と埼玉・千葉とでは違いがあることが示されている。このことは限界的な床面積に対する付け値(ビッド・プライス)の差が地域的に異なっていることを意味しており、地域的な所得水準の差がこのような格差を生んでいると解釈することもできる。所得水準の高い地域では床面積に対するビッドプライスも高くなっているというのが合理的な解釈ではないだろうか。
 今後の課題として、推計法を改善することが提案されているが、サンプル数が大きければ、不均一分散の問題はある程度解消できると考えられているが、問題はそれほど単純ではないように思われる。都心から離れれば離れるほどマンション価格の分散は大きくなる傾向がある。したがって、地域的な分散不均一性の問題に十分に注意を払って分析を拡張していくことが必要であるように思われる。(山崎福寿)
価格(税込) 750円 在庫

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