季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2003年冬季号
発行年月 平成15年01月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言失われたものは何か宮繁護
座談会住宅金融システムの再構築に向けて吉野直行・八田達夫・原田泰・山本茂
研究論文住宅消費税が住宅着工に及ぼす影響について山崎福寿・浅田義久
研究論文新規マンションの供給価格変化における期待の効果中村良平・森田学
海外論文紹介住宅需要分析における計量経済学的手法の新潮流三好向洋
内容確認
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 構造改革の一環として、財政改革の必要性とその実施方法が経済政策の焦点となりつつある。とくに消費税の増税が話題となっており、住宅消費税が住宅投資行動に及ぼす効果を分析した山崎福寿・浅田義久論文(「住宅消費税が住宅着工に及ぼす影響について」)は極めてタイムリーな分析である。
 山崎・浅田論文は、オーソドックスな住宅投資モデルに住宅消費税を導入する。この明快なモデルからはいくつかの重要な示唆が得られる。
 第1に、もし住宅消費税が増税され、それがあらかじめ予見されない場合は、価格は瞬時に下落し、それから住宅ストックの減少を伴いながらゆっくりと上方に調整されて新しい均衡価格に収束する。つまりオーバーシュートする。さらにこの時、価格は住宅消費税分下落することはない。というのは、ストック調整がおこり、そしてそれを人々が予測するために価格下落は部分的になるのである。
 もっと現実的なのは、第2の場合、つまり住宅消費税の将来増税のタイミングを皆が予測する場合であろう。実際、著者も述べているように消費税の導入は突然実行されるわけではなく、通常は十分な周知期間がある。この場合にはいわゆる駆け込み需要、つまり住宅消費税が増税される前に住宅投資を行なうという行動が生じる。著者はこうした駆け込み需要をどのようにモデルに取り込むかについても、明快な説明を与えている。そして、この駆け込み需要の効果により、増税が予期されていない場合に比べ、住宅価格はさらにオーバーシュートの度合いが激しくなることを説得的に論じている。
 こうした単なるモデルによる定性的な説明にとどまらず、住宅着工のデータなどを用いて定量的な効果の推計も行なっていることは特筆に値する。その実証分析の結果は、住宅消費税が住宅市場に大きな影響を与えることを示唆している。著者によれば、単にアナウンス効果だけで着工に10?30%の影響を与えるというから、これは重大である。そうであるなら、住宅消費税の形(たとえば新築と維持管理の税制に差をつける可能性を含めて)の最適化、そして、定量的影響のより信頼できる推計を目指すのが今後の大きな課題であろう。今後の研究に重要な指針を山崎・浅田論文は与えている。
 
 中村良平・森田学論文(「新規マンションの供給価格変化における期待の効果」)は、新規マンションの供給変化に、いかに期待が影響を及ぼしているかを考察した野心的な論文である。とくに長谷工総合研究所のもつCRIデータファイルという今まで考察されなかったデータソースを用いて、1974年から2001年という長期間にわたる分析を行なっているのは特筆に値する。この期間は、オイルショック後の調整、いわゆる「バブル」期、そして「バブル」崩壊後を含み、日本の住宅市場が激動した時期であったことを考え合わせると、本研究のユニークさが明らかとなるであろう。また、新規マンション供給に的を絞り、その価格形成のメカニズム、とくに期待の役割を正面に据えての分析は、他の既存の分析とは一線を画している。さらに、期待についても通常想定されるような合理的期待だけではなく、適応型期待や、この2つのハイブリッドなどを考え、さまざまな可能性を追究している。
 得られた結果を見ると、著者の定式化に従った期待形成の影響が大きいことが見てとれる。なかでも、著者の独自の考えである期待形成のパラメータ変化モデルがもっとも近い近似となっている点は興味深い。
 中村・森田論文は極めて野心的な論文であるが、著者も認めているように、このリサーチプログラムを進めていくためには、さまざまな課題があることも事実である。新規マンション市場と中古マンション市場の関係についてのモデル化の問題(在庫、売れ残りの扱いにあらわれる)、そして期待に関する定式化、とくに時間とともに変化するパラメータの裏にある経済学的ロジックなどのより深い考究が今後の分析の課題であろう。しかし、長期間にわたる新築マンション価格の分析という新しい分野を開拓した価値は高い。(KN)
価格(税込) 750円 在庫

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