季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2003年春季号
発行年月 平成15年04月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言「ラセット・システム」稻本洋之助
特別論文住宅性能と資産価値の維持真鍋恒博
研究論文高齢者はなぜ差別されるか中川雅之
研究論文商業用不動産の資産需要と供給の決定要因吉田二郎
海外論文紹介都市と戦争磯野生茂
内容確認
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トリアル
ノート
 中川雅之論文(「高齢者はなぜ差別されるか??賃貸住宅市場の実験・実証的分析」)は、日本の賃貸住宅市場で、高齢者がどのような理由から差別的に扱われているかを分析した、たいへん興味深い論文である。これまでの著者自身による分析より柔軟な実証的手法を用いて、より豊富なデータで分析されている。
 データ収集方法は、高齢者か非高齢者かという属性のみが異なる1組のペアを交互に不動産業者を訪問させて、そこで不動産業者の対応を調べるというものである。実証的手法としては条件付きロジットモデルと変量効果プロビットモデルが用いられている。
 この研究においては、高齢者には非高齢者よりも少ない物件しか紹介されないという点が再確認されている。こうした事態がどのような理由から生じているかを、いくつかの代替的な仮説を用いて検証している。
 コミュニティ選好仮説というのは、高齢者の身体的な弱点や他の入居者とのトラブルという理由を根拠に、家主が高齢者の入居を好ましく思わないという仮説である。この代替仮説としての防災能力仮説とは、高齢者が防災上の能力に劣る点に注目して、家主は高齢者比率の高い地域では、その上昇を回避しようとするというものである。そのため、家主が、こうした高齢者の入居を好ましく思わない結果が、高齢者差別につながっているとされる。
 そのほか、高齢者は将来の所得に不安があるとか、家賃滞納の心配が高いとかといった将来所得仮説、高齢者は居住期間が長期化する傾向があるといわれる居住期間仮説などが、高齢者を差別的に扱う原因であるとされ、これらの仮説がひとつずつていねいに検証されている。
 不動産業者ごとのデータを用いた推計では、防災能力仮説や居住期間仮説などが支持されるという結果になっている。しかし、夫婦用賃貸住宅に関する物件データの推計では、防災能力仮説は必ずしも支持されていないが、条件付きロジットモデルでは、防災能力仮説が支持されるという結果が得られている。
 しかし、これらはいくぶん意外な結果である。防災能力仮説では、近隣の高齢者比率がデータとして用いられており、高齢者比率が高い地域では、高齢者を排除しようとする動機が働くということから、この仮説が提示されているのであるが、地域全体の防災能力はきわめて公共的な性格をもっている。したがって、個々の家主にとって、高齢者の入居を制限しても、それが地域の高齢者比率を下げることによって、防災能力を高めるという効果はかなり小さいのではないだろうか。その意味で、防災能力仮説は理論的にはあまり支持されないと思われるのだが、結果はそうではない。
 分析上の問題点としては、用いられた説明変数間の相関が高いという点が指摘される。たとえば、いま述べた高齢者比率と家賃はかなり高い相関を持っている可能性がある。高齢者の多くが住んでいるところは、古い住宅が存在している可能性があり、その結果家賃が低くなっている可能性がある。
 次に、内生性の問題がある。コミュニティ選好仮説のもとでは、高齢者を積極的にこの地域に導入することによって、高齢化が進展することになる。したがって、差別の再生産メカニズムと同じように、高齢者が一定の地域にどんどん流入することによって、高齢化がいっそう進行するという事態が発生する。そういう意味で、内生性の問題をチェックすべきである。
 最後に、住宅政策との関連を考えると、こうした高齢者に対する差別に住宅政策の意義を見出すことができるかどうかという問題がある。著者も指摘するように、高齢者を積極的に公営住宅などに吸収すると、かえって公営住宅の居住者が高齢化して、ますます地域の高齢化が進むという事態が発生する。
 実際に高齢者のセキュリティなどを考えると、高齢者に一定のサービスを保障するためには、そうでない非高齢者に比較してより多くの資源を必要とする。それはコストや価格の差になって、高齢者向けサービスの価格を上昇させることになるだろう。
 逆にこのような価格差が生まれることによって、高齢者向けのサービスの供給が増加し、価格差が次第に解消していくというのが、市場のメカニズムである。このような点を十分考慮に入れて、住宅政策を考えるべきであるように思われる。
 
 吉田二郎論文(「商業用不動産の資産需要と供給の決定要因」)は、日米の不動産市場について、従来の標準的なモデルでは説明できない現象が生じているかどうかを、実証的な観点から検証した論文である。従来の理論では、たとえばトービンのQ理論に示されるように、投資を説明する際には、Qは十分統計量としての意味があり、Qの情報さえ知っていれば十分であると考えられてきた。しかし、現実の金融市場や不動産市場では、むしろQ以外の要因が、有意な影響を及ぼしていることが次第に明らかになってきている。
 吉田論文では、こうした理論的な展開を考慮に入れたうえで、とくにオプション理論との関連で、本来ならば価格に帰着するリスクが、価格とは独立に、不動産市場の需要や供給に影響を及ぼしているかどうかを検証している。その結果、不動産投資や不動産市場のモデルでは、従来型の単純な金融資産モデルを適用することはできず、情報面でのさまざまな要因を考慮した新しいモデルが構築されなければならない、という結論が導かれている。
 とくに、リアルオプションの投資モデルを用いて、構造的リスクやトータルリスクを説明変数として、不動産の供給および需要に影響を及ぼしている点が実証的に明らかになっている。トータルリスクというのは、不動産の収益に関するリスクを反映しており、データとしては、不動産企業の株式収益率の標準偏差が用いられている。構造的なリスクとしては、マーケット・ポートフォリオと不動産企業の株式収益率の共分散が用いられている。
 ここで、トータルリスクは、資産価格を通じた影響とは独立に、供給スケジュールに対して負の影響を及ぼしていることが、明らかにされている。この点は、リアルオプションのモデルを用いなければ説明できない。こうした新しい理論的な展開を含めた不動産市場の分析はたいへん貴重であり、興味深いものと評価される。
 もうひとつ興味深い結論は、資産の供給が不動産価格を上昇させるという結論である。不動産供給が増加すると、標準的な理論に従えば、その価格は低下するはずである。それにもかかわらず、実際には供給が価格を上昇させるという。こうした現象を説明するモデルとして、集積の経済、あるいは情報面での横並び効果、さらにフィナンシャル・アクセルレータ・モデルが報告されている。こうした実証的な発見は、バブルの発生や崩壊のメカニズムを分析するうえで非常に重要である。もし供給が価格を上昇させるのであれば、その結果、さらに供給量が増加し、バブルが発生することになる。
 ここでは、トータルリスクの変数として、不動産企業の株式収益率についての分散を用いる点に着目してみよう。最近の金融理論の展開によれば、最適な負債契約や法人企業の有限責任性に注目すると、より危険な投資を選択したほうが、株式価値が上がるといった事実が説明される。これはアセット・サブスティチューション問題と呼ばれている。こうした現象を前提にすると、銀行による貸し渋り現象を説明することもできる。
 もし著者が指摘するように、借り入れ制約などの重要な制約要因が不動産企業にも存在するとすれば、ここで述べているトータルリスクの増大は、不動産事業が、よりリスクの高い投資へシフトしたと解釈することもできる。その結果、銀行などの貸し渋りが生じ、資金の借り入れが制約されるため、不動産業者の供給する不動産の供給にも影響を及ぼす可能性がでてくる。したがって、このリスクを分離して識別する必要がある。そのためには、投資プロジェクトに伴うリスクと不動産企業の株式リスクを識別するという、困難な問題を解決しなければならないことを意味する。(FY)
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