季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2008年夏季号
発行年月 平成20年07月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言グローバリゼーションと住宅佐藤和男
特別論文変貌する中国の住宅事情砺波匡
研究論文わが国の住み替えに関する制度・政策の影響瀬古美喜・隅田和人
研究論文中古住宅市場における転売外部性の実証分析岩田真一郎・山鹿久木
研究論文社会資本の効率性と政府間財政移転近藤春生
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ノート
 日本では、持家、借家とも住宅の住替え率が海外と比較して低い。持家の住替え率が低いのは、もともと年収倍率で見た場合に住宅の価格が高いため、気軽に購入できないという事情がある。また、ソーシャルミックス(社会階層の融和)が進んでいて、地域的に社会階層的な住み分けが顕著でないため、社会的身分が変化しても住み替えるニーズは高くない。さらに、適切に維持管理して転売していくというより、「住みつぶす」という住行動が多いこともあり、立地や住宅自体に大きな問題が生じない限り、あまり住替える動機がないということもあろう。
 他方、借家の場合には、継続家賃と新規家賃の差が生じやすい社会制度環境があるために、借家同士で住み替える場合にも負担が大きいことが指摘できる。借家法がそのような環境形成に大きく影響していると言われている。
 瀬古・隅田論文(「我が国の住替えに関する制度・政策の影響:譲渡損失繰越控除制度と借地借家法」)は、住替え率に譲渡損失繰越控除制度および借地借家法がどのような効果をもたらしているかについてハザード・モデルを用いて定量的に分析している。
 譲渡損失繰越控除制度とは、所得要件・居住期間要件を満たした上で、前住宅のローン残高あるいは購入価額の小さい方が売却価格を上回る分を3年間所得税から控除できる制度である。特に前住宅の購入後にバブルの影響などで大きく減価したような場合には、ローン残高が売却価額を大きく上回ることもある。そのような世帯にとって住宅の買い換えが容易になるように、導入された制度である。分析結果からは、ローン残高が住宅の価値を上回るような世帯では一般的には住み替えをとどまる傾向が見られたものの、この控除制度の適用要件を満たしている場合には、世帯の住替えを促進する効果があることが示されている。譲渡損失繰越控除制度については、まさに政策目的が表れているという実証結果となっている。
 借地借家法については、一般借家の制度のもとでは正当事由が無い限り家主からの契約解除の申し出をすることができず、また、家賃を値上げする場合に借家人が認めない場合には裁判所の判断を仰がねばならず、通常は市場新規賃料よりは低い水準でしか認められない。このため、借地借家法のもとでは、継続家賃が新規家賃に比較して低めになる傾向が見られ、このことは長期に居住することで暗黙の借地借家法による家賃補助が借家人にもたらされることになる。分析の結果からは、新規家賃額に比べて継続家賃額が低いほど、住替え率を低下させていることが示されている。
 まだ、手続きの面倒さも手伝って、普及がまだ十分でない定期借家制度が広がれば、このような効果は薄らぎ、適正な住替え率になっていくものと期待される。定期借家を取り入れている世帯で同じ分析をした場合に、住替え率に与える効果がどうかについての分析が待たれるところである。
                    ◎
 住宅の売買においては、買い手は売り手に比して住宅の品質に関する情報量が少ないと言われている。情報が不完全であると、住宅の品質に即した価格付けがなされにくくなり、結果として良質な住宅の流通を阻害することになる。住宅品質確保法が制定された背景もここにあり、新築住宅については重要な住宅品質については客観的な評価が可能な状況になりつつある。しかし、既存(中古)住宅市場においては、住宅品質の評価自体も不十分であり、情報の非対称性が未だ大きい。また、既存住宅においては、それまでの住宅の扱い方や維持管理の投資状況で品質が大きく左右するにもかかわらず、買い手は目視によるチェックしかできないため、得られる情報が大きく限られる。このため、転売する直前に化粧直し的な投資をすることが、しばしば観察される。
 岩田・山鹿論文(「中古住宅市場における転売外部性の実証分析」)は、既存(中古)住宅が転売される住宅での住宅投資行動を分析した。タイトルにもある転売外部性とは、住宅の維持管理投資が転売時の住宅価格に充分に反映されないために転売を考えていない持ち主よりも維持管理投資が過小になるというモラルハザードの問題をいう。
 このような傾向があるかどうかを分析するために住宅の維持管理のための支出額を被説明変数とする住宅投資関数を推定している。その結果、転居意向のある世帯では有意に投資額が少ないことが示され、転売外部性の存在が明らかになった。また、リフォーム内容をさらに分析した結果、転売意向世帯では、化粧直し的なリフォームを行う傾向が見られた。よって、理論と整合的な世帯における住宅投資行動があることが実証されたことになる。
 理論上は、情報の非対称性があるために、これらの行動が発生することになる。ただ、仮に情報の対称性があったとしても、転売する場合にはこれらの行動は見られるかもしれない。例えば、長く住むためには、自分の生活水準をあげるために長期的視野をもって投資するが、長くは住まないことがわかっていれば、売却価額とは関係せずに、そのような投資を慎む可能性は捨てきれない。理論の是非まで踏み込むならば、例えば既存住宅の品質評価を取り入れた住宅とそうでない住宅の比較を試みても良いかもしれない。また、既存住宅の品質として特にどのような項目についてどの程度明確にできれば、転売外部性が発生しにくいのかという知見も得られることが重要である。このような面でさらに研究を発展していけると良いだろう。
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 効率的な社会資本の供給や維持管理は、これからの低成長社会においては重要な課題となっている。昨今に問題になった道路特別会計の問題もこの延長上にある。また、道路に限らず、箱物の公共施設は、地方部でむしろ充実していることがしばしば指摘される。需要が都市部よりも低いことを考えれば、地方部では社会資本が非効率であることは、容易に想像できる。
 なぜこのような非効率性が生じるのであろうか。都市部に比較すれば地方部では人口密度が低いために、面積当たりの利用需要は低くなる。そのため、都市部の方が社会資本がより効率的に利用されることはある程度理解できる。ただ、効率的な国土運営の観点に立てば、密度に応じた社会資本の整備水準があってしかるべきであり、それを超える整備をしているのは、何らかの歪んだ整備動機が生じているためと考えることもできる。
 近藤論文(「社会資本の効率性と政府間財政移転?資本化仮説に基づく実証分析?」)は、そのような地域別の社会資本の効率性に格差が生じている理由に迫る分析を行った。特に、中央政府から地方政府に移転される地方交付税や国庫支出金の支出のされ方に着目し、その効果を分析している。
 近藤論文では、定率補助金と定額補助金という2種類の補助の仕方を区別している。定率補助金とは整備経費の一定比率を国が補助する方式であり、定額補助金とは整備経費とは関係なく一定額を補助する方式である。住宅の家賃補助などでも類似の議論がなされるが、定率補助方式では補助金を受け取った主体としては、価格が低くなったのと同等の効果をもつため、どうしても過大に整備してしまう動機を持つ。他方で、定額補助方式の場合には価格には関係がなく予算が増えただけの効果が発生するため、過大整備する動機は発生しない。
 分析の結果、社会資本の量は地価に対して有意にプラスの影響を及ぼしており、理論と整合的な結果が得られている。また定率補助金の補助率が地代勾配に有意にマイナスの影響を及ぼしており、非効率性を助長する状況が実証された。地域別に比較してみると、東京を含む南関東で地代勾配が最も高く社会資本の効率性が高いことがわかる。他方で、南九州、北海道、東北などの地方では社会資本の地代勾配は低く、政府間財政移転の依存度が高いことが効率性の格差を生み出したことを示唆する結果を得ている。
 この分析結果からは、定額補助金となりがちな国から地方への補助方式を改めなければ、効率的な社会資本整備は達成されにくいことを意味する。地方自治体の財政運営動機にも配慮した地方分権改革を進めるべきことを、本論文は示唆していると言えよう。
(Y・A)
価格(税込) 750円 在庫

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