季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2011年冬季号
発行年月 平成23年01月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言グリーン・グロースの時代とエコ都市改造小林 光
座談会住宅市場と消費税井堀利弘・矢野龍・吉野直行・渡辺智之
研究論文ヘドニック・アプローチにおける地価公示 データのパネル構造の活用について中川雅之・齊藤誠・山鹿久木
研究論文日本企業の土地投資決定要因関根敏隆・橘永久
海外論文紹介シカゴにおける取り壊し住宅の価格と地価に 関する実証研究定行泰甫
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ノート
『中川・齊藤・山鹿論文(「ヘドニック・アプローチにおける地価公示データのパネル構造の活用について」)』は、地価公示データと地域危険度データを用いた3 名の一連の研究を概観することにより、日本における長期間、広範囲にわたり細かく測定されている地価公示データのパネル化によるメリットを説明し、このような分析手法を用いることで得られた耐震化投資のインセンティブを考察するうえでの政策インプリケーションを紹介した研究である。
まず、主に分析で用いられた公示地価と、地域危険度の説明、それらを用いたクロスセクション・データによる一連の分析の紹介を行なっている。次に、両データのパネル化に関する紹介をしている。地価公示に関しては、1983年から2010年までの28年間に継続して評価されている地点が全体の12%あり、パネル化が可能であることが指摘されている。また、地域危険度データも、公示地価データと同様に、町丁目単位でのパネル化を図ることで、各経済主体の危険回避行動に関する分析が可能であることが指摘されている。
さらに、パネル化されたデータを応用した研究である顧・中川・斉藤・山鹿(2010a)では、地域危険度ランキングの変化が相対地価へ及ぼす影響が、危険度ランキングの変化の方向によって非対称であることを発見している。また、顧・中川・斉藤・山鹿(2010b)では、大阪府の東部を南北に走る上町断層帯周辺の地価形成に関する実証分析によって、活断層リスクがどの程度認知されてきたかを、六甲・淡路島断層帯と比較しながら検証している。
データの利用可能性にも依存するが、東京都以外の地域での同様の研究を行ない、人々の危険回避的な行動に地域間で相違があるかどうかを比較できればさらに興味深い。また地価ではなく、家賃や住宅価格で同種の研究をすることにも、意味があると考えられる。
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顧濤・中川雅之・齊藤誠・山鹿久木(2010a)「東京都における地域危険度ランキングの変化が地価の相対水準に及ぼす非対称的な影響について」一橋大学ディスカッション・ペーパー、No. 2010-13。
顧濤・中川雅之・齊藤誠・山鹿久木(2010b)「活断層リスクの社会的認知と活断層帯周辺の地価形成の関係について」一橋大学ディスカッション・ペーパー、No. 2010-14。

『関根・橘論文(「日本企業の土地投資決定要因バブル前とバブル後」)』は、1990年代のバブル前後の期間に、日本企業の土地投資動向を規定した要因を分析することを目的としている。具体的には、個別企業の財務データから大規模パネルデータを作成し、土地投資関数と土地のqを推計している。前者では、1990年代の土地投資がどのような要因によって規定されてきたのかを検討している。後者では、土地の担保機能が顕著なものであったか否かを、業種別に検討している。特に、後者では、実体経済と地価をつなぐ鍵となる土地資産の担保機能を、q理論の枠組みの中で、エージェンシー・コストとの関係で明確にモデル化しており興味深い。また、先行研究では扱われていなかった非製造業の土地投資も分析対象としている。さらに、ゼロ投資、負の投資(すなわち土地資産売却)を考慮した非線形な土地投資関数も推計している。論文で使用している個別企業の財務データは、日本政策投資銀行の企業財務データである。
土地投資関数の推計結果からは、1990年代の土地投資は、建設・不動産・総合商社の3業種を中心に、バブル崩壊後の売上の落ち込みや財務状況の悪化に大きく影響されていたことが確認されている。また、製造業の土地投資には、海外生産比率の高まりも影響していることが確認されている。Multipleq理論に基づいて、土地の生産設備としての価値と担保としての価値を区別した推計モデルの推定結果は、大企業でも、バブル崩壊後の1990年代は一部上場大企業においてさえも、土地が資金借入の際の担保として機能していたことを示唆している。
土地の担保価値機能は、地価が下落する際には、悪しき信用循環を引き起こしかねないことが先行研究で指摘されているが、本研究で得られた結果は、その可能性が高いことを示唆しており、極めて重要な指摘である。分析対象となったデータは2001年までであるが、同じような結論が、最近の金融危機以降も成立するのかどうかをさらに分析すれば、いっそう説得性が出ると考えられる。(M・S)
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