季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 1991年夏季号
発行年月 平成3年07月 判型 B5 頁数 32
目次分類テーマ著者
巻頭言創刊にあたって山本三郎
研究論文土地保有税と遊休地の開発金本良嗣
研究論文ノンバンクの融資と地価吉野直行
研究論文床面積需要関数と敷地面積需要関数瀬古美喜
時事展望土地の公共性について坂下昇
連載講座日本の住宅市場と住宅の特殊性森泉陽子
調研リポートから日本の家は本当にせまいか?
内容確認
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トリアル
ノート
 本号には、3編の専門論文が掲載されている。そのいずれも大変丁寧に書かれているので、格別の専門的知識がなくとも、じっくり読み通すならば、十分理解していただけると思う。しかしおのおのについて、とりかかりを容易にするために、蛇足とは知りつつ簡単な解説を加えてみることとする。
 
 種々の形態の土地保有税は、遊休地の開発のタイミングにいかなる影響を与えるであろうか。またそれは、現在時点および開発時点の地価をどのように変えるであろうか。これが金本論文のテーマである。この問題を厳密に解くためには、地主が遊休地の開発タイミングをいかに決定するかについての基本モデルを定式化し、そこで得られた最適タイミング解が種々の土地保有税の導入によって、どのような影響を受けるかを分析しなければならない。
 多くの土地評論家による議論は、このような基本モデルを欠いているために、混乱したものになりがちである。金本氏は、賃貸料収入の上昇率が開発費用の上昇率よりも高いという状況(便宜上、後者をゼロとする)にある特定の開発プロジェクトを考え、そのとき開発タイミングは、賃貸料収入と開発費用の利子分が等しくなる時点であることを証明する。また開発時点においての地価は、開発費用、利子率、および賃貸料上昇率の3者によって、一意的に決定される。
 さて、以上の構図の中に、開発前も開発後も地価に対して課税される地価税を導入すると、開発夕イミングは変化しないが、開発時点および初期時点においての地価は大幅に低下するという結果が得られる。他方、開発前の土地にのみ課税される遊休地税の場合には、開発タイミングは早くなる一方、初期時点においての地価の低下は小幅となる。土地のみではなく、上物の不動産にも経常的に課される固定資産税の場合は、開発タイミングは遅れることになり、一方初期時点の地価は最も大幅に低下することになる。ただし、著者が最終節で強調しているように、これらの結果は当初の状況設定に強く依存していることに、十分注意しなければならない。
 
 瀬古論文は、敷地面積需要および床面積需要で表される新規住宅への需要を、建築主の所得、建設価格および地価で説明する形の回帰分析をその内容としている。特徴として、第1に建設省住宅局による 『民間住宅建設資金実態調査』の個票をサンプルとして用いていること、第2に相続ダミー変数を説明変数に加えて、土地相続の有無が面積需要に与える影響を明らかにしようと試みたことがあげられる。
 回帰推定は、敷地面積および床面積のおのおのについて4種類ずつのスペシフィケーションによって行われているが、主要な説明変数について有意な推定結果が得られている。特に、相続による土地取得が敷地面積および床面積を大きくする傾向があるという発見は、予想されたことではあるが、大変興味深い。相続ダミーの係数は、最初の式では0.236であり、これは相続があれば敷地面積需要は、〔exp(0.236)=1.27〕倍になることを意味している。
 
 吉野論文は、わが国の貸出市場においてのノンバンクの規模と役割を明らかにし、ノンバンクを含む一般均衡モデルを定式化して金融と地価の関係を分析し、さらに地価抑制という政策目標のための政策変数の割当てを論じたものである。論文の中心となる一般均衡モデルから、債券利子率、所得、および地価の集約された3変数の水準を決定するための、3つの誘導型方程式(おのおの財市場、預金市場、および地価裁定に関連している)が導かれ、種々の外生的条件の変化に伴う比較静学が試みられる。
 著者の重要な主張は、例えば所得と地価という2つの内生変数について政策目標を掲げるならば、それを達成するためには、少なくとも2個の互いに独立な政策手段が必要であるということである。より具体的には、ハイパワードマネーのコントロールと、税制ないし融資総量規制の組合せといった、結合された政策が必要であるということになる。なお最終節には、わが国の最近20年間の半期データを用いて、地価上昇の要因分析を行うための回帰推定が試論的に加えられている。(N.S.)
価格(税込) 500円 在庫 ×