季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 1993年夏季号
発行年月 平成5年07月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言正常な土地市場の形成を坪井東
特別論文固定資産税と譲渡益課税が土地市場に及ぼす影響野口悠紀雄
研究論文日本・ドイツ・アメリカの住宅市場金本良嗣
研究論文収束か発散か:日本の地価の場合井出多加子・中神康博
研究論文低水準居住の発生要因駒井正晶
海外論文紹介ゾーニング規制を考慮した住宅価格モデル堀口陽子
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 本号に掲載された3つの論文は、いずれも日本の住宅土地問題に鋭い分析のメスを入れた読みごたえのある内容となっている。金本論文では、国際比較の視点から日本の住宅市場の特徴を明らかにしており、駒井論文では低水準の居住水準にある住宅の需要、供給要因を検討している。また、井出・中神論文では、日本の土地価格が定常状態への収束過程にあったのかどうか、収束過程にあったとしてもその速度はどのようなものであったかを分析している。日本におけるバブルの発生について金融面から接近するのが通常であるが、ここでは経済成長モデルの観点から土地価格の発散があったかどうかを調べようとする点で注目される試みである。
 
 金本論文「日本・ドイツ・アメリカの住宅市場」は、3国の住宅市場と住宅政策の国際比較を通じて、各国における住宅価格や土地価格の差異を探ろうとする狙いをもって書かれたものである。論文は、3つの部分から構成されている。まず最初に3国のマクロ経済変数の比較を行い、ついで住宅価格や1戸当たり面積など住宅市場の特徴を明らかにしたうえで、最後に各国の住宅市場の主要な相違点を浮き彫りにしている。
 国際比較を厳密に行うことは、一見するよりもはるかに手間と暇のかかる労働集約的な作業を伴う。とりわけ西ドイツに関するデータは、日本では収集が困難であり、これまで十分な比較が行われていなかった。本論文は、従来からの研究のギャップを埋め、住宅問題に関する国際比較研究のベースを提供するものといえる。
 マクロ経済については、何よりも西ドイツにおける移民の数の多さに驚く。1950年代の移民流入は、西ドイツの戦後の経済奇跡をもたらす1つの要因であったが、現在の大規模な流入が同様の効果をもたらすかどうか今の段階でははっきりしたことはいえない。短期的にはむしろマイナスの効果を与えているようにみえる。
 いずれにしても戦後において東側からの移民が大規模に発生したことは、西ドイツの住宅政策に大きな影響を与えたように思われる。西ドイツにおいて集合住宅比率(47.7%)や賃貸住宅比率(60.1%)が高く、日本、アメリカの賃貸住宅比率とちょうど反対であること、また家賃に対する所得補助政策が発達していることも移民の流入が大規模であったことによるところが大きい。
 アメリカの住宅市場においては、転居率が高く、中古市場が発達していて流動性も高い。同時に、空き家率も最も高い。これと対照的に西ドイツでは空き家率はきわめて低く、空き家率の高いフランスと対照的である。日本においても、空き家率は従来上限と考えられていた9%を越える水準に達し、アメリカの水準(11.5%)に接近している。今後日本においてもフランスと同じく、セカンド・ハウスの保有比率が上昇すると予測されるが、傾向的に空き家率が上昇し続けるかどうか注目される。
 土地価格は、3国のうちで日本がはるかに高いが、意外なことに新築住宅価格・所得比率は西ドイツのほうがやや高くなっている。これはドイツ人の住宅に対する独特の愛着の強さが、質に反映しているものと考えられる。
 本論文は、さしあたり3国間の住宅市場の現状を概観したものであるが、今後は住宅政策の国際比較や住宅価格の分析へと議論が深まることを期待したい。
 
 井出・中神論文「収束か発散か:日本の地価の場合」では、日本の地価が長期的に収束するのか、または発散するのかという興味深い問題が取り上げられている。1950年代のソローの成長モデルでは、所得などの経済変数は長期的な定常値に収束する。この時、土地や資本の限界生産力も定常値に収束する。土地価格は、地代の割引現在価値であり、割引率は資本の限界生産力によって決定されるので、当然一定値に収束するはずである。また、収束のスピードは、初期の所得と長期的な定常値とのギャップの大きさに比例すると考えられる。
 本論文は、サックス=ブーンにならってソロー・モデルに土地を導入し、収束か発散かの問題を調ベようとするものである。先行研究としては、バロー=サライマーティンの論文があるが、本論文では日本における土地価格の収束問題を主要な検討課題としている点に新しさがある。
 本論文で注目すべきことは、1人当たり所得、1人当たり土地価格がともに1980年代後半に明らかに発散傾向を示していることである。このことは、この時期に日本経済が、定常均衡に向かう傾向を示さなかったことを意味している。さらに土地価格については、所得と異なり観察期間全体(1970?89年)を通じて発散傾向にある。
 土地が他の生産要素と異なるのは、それが単に生産要素として生産活動に用いられるばかりでなくポートフォリオ資産として人々に保有されることである。このため貨幣的な攪乱をより受けやすく、また磨滅することもない資産としての土地にバブルが発生する可能性が強いとも考えられる。
 資産としての土地の価格の収束問題を考える場合には、モデルに土地に代替する金融資産を取り入れる必要があるだろう。貨幣的成長モデルでは、発散解が存在することは当然予想されるところである。また、生産関数をコブ=ダグラス型に特定しているが、生産関数に規模の経済が存在する場合には、長期的な定常値は当然発散することになる。さらに、株式市場における株価の発散と土地価格の発散の比較も興味深い問題である。そうした問題の検討はチャレンジングな将来の課題であろう。
 
 駒井論文「低水準居住の発生要因」では、低水準居住にある世帯の分析を行っている。日本ではこの種の緊急な公共政策に関する実証研究が乏しいので貴重な試みであるといえる。日本における「低水準居住状態」は、2つの定義がある。第一の定義は、規模が過密であること(狭義)をさし、第二の定義では規模、設備、腐朽、破損の3基準のうち少なくとも1つを満たさないこと(広義)をいう。
 民間借家のみならず、公営住宅、公団・公社住宅でも狭義、広義の低水準居住住宅が2割から4割存在すること、民営借家(木造・設備共用)に至っては、広義の低水準居住住宅比率が10割であることは、経済大国としての名にあまりにもそぐわない現実であるといえる。現在の日本において、資産再分配の観点から公共政策の果たす役割が最も期待される分野の1つである。
 本論文では、低水準居住住宅に対する需要関数を都道府県別のクロスセクション・データ(1983年、1988年)を用いて分析している。ただし、需要関数・供給関数を同時に推定するという手法はとらずに、供給要因は外生的に与えられるものと想定している。需要関数の推定結果によれば、狭義の低水準居住住宅の需要は家賃の変化から(プラスの)影響を大きく受け、広義の低水準居住住宅の需要は所得水準の変化から(マイナスの)影響を大きく受けるとされている。
 また、新規住宅の増加が、波及効果を通じて(フィルタリング効果)低水準居住住宅需要を減少させるかどうかという点も検討されている。民間借家には、フィルタリング効果が観察されるが、持家建設や公的借家建設にはそうした効果がないようである。何故こうした違いが発生するのか検討することは、将来の興味深い課題であろう。
 最後に、低水準居住住宅に対する需要は、高齢化と国際化によって増大する可能性がある。持家でも広義の低水準居住住宅が1割程度存在しているが、これは主として所得水準の低い高齢者が居住しているケースが多いと考えられる。こうした高齢者を適切な居住水準を備えた借家へと誘導する政策が必要であろう。
 また、低水準居住住宅に対する需要は、大都市圏への外国人の流入によって加速することになろう。その場合には、「低水準居住状態」の問題は国際的な都市問題ともなるであろう。すでに東京や大阪などの大都市では、かなりの数の外国人が劣悪な居住水準の下におかれている。ヨーロッパのいくつかの国では、都市郊外に外国人専住バラック住宅が蔓延している。日本において、こうしたスラム化の発生を阻止することは重要な課題であろう。(K.I.)
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