季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2016年夏季号
発行年月 平成28年07月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言12025年、さらにその先を展望した大都市と住生活について木村惠司
特別論文2-8空き家資産論三橋博已
論文10-18住宅市場と住宅投資の動向宇南山卓
論文19-27長屋と共同住宅の規制の違いが地域環境に与える影響高田班
調査報告28-35中古住宅流通と住宅金融公庫原野啓・瀬下博之
海外論文紹介36-39キャピタライズ効果は支払い意思額を表すのか菅原理美
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日本における住宅投資は1990年代の中頃をピークに減少傾向にある。住宅投資量は住宅産業規模に直結する指標であり、住宅政策上重要である。
宇南山論文(「住宅市場と住宅投資の動向」)は、国民経済計算年報のデータをもとに1996年以降の住宅投資の減少傾向の要因を分析した。まず、 戸当たりの投資額は比較的安定していることから、住宅着工戸数の落ち込みが住宅投資額の減少の主な要因であることを指摘している。そのうえで、着工戸数の落ち込みがなぜ起きているのかを統計的に解明している。
建設住戸数のモデルから、住宅の新規建設戸数が、住宅の償却率、世帯数の増加率、住宅の稼働率の3つで決まることを示している。償却率とは住宅ストックに対して一定の比率で目減りする資産分であり、住宅・土地統計調査で滅失する住宅量から推計している。償却率の推計結果からは、一貫してその値は減少しており、その要因として非木造住宅・共同住宅へのシフトが原因と指摘している。建物の高寿命化は、毎年の償却率の減少につながるので、今後もこの傾向は続くであろう。
世帯数の動向は国勢調査から知ることができる。2010年までは世帯数は増加しているものの、その増加数は1995年以降減少傾向にあり、今後は世帯数自体が減少することが予想されている。よって、世帯数の動向による住宅投資も減少していくことになる。
住宅の稼働率は、空家発生状況から知ることができる。宇南山論文では、住宅・土地統計調査の賃貸用もしくは売却用の空家を稼働していない住宅と見なして分析している。その結果、稼働率は1983年から2008年まで一貫して下がり続け、92% 程度になったことを報告している。
住宅稼働率はどれだけ投資的な住宅建設が増えるかで決まる。投資環境が良くなれば、住宅が建設され、結果として空家が増えて稼働率は下がる。2000年以前は住宅の保有コストを下げる方向に変化していたため賃貸住宅の利回りが上昇し、賃貸住宅建設が刺激されたが、2000年代では保有コストのさらなる低下は期待できず、投資を刺激する要因にはならないとしている。
近年、大量にある空家問題がクローズアップされているが、以上の分析からは、少なくとも市場性のある住宅の空家化は沈静化するとの見通しとなっており、今後はむしろ住宅の「適正な償却」が重要になりそうである。
広義の住宅投資という意味では、住宅の改修なども含まれる。宇南山論文ではその面の分析はなされていないが、重要なテーマだけに、今後、住宅改修も含めた総合的モデルの分析がなされることを期待したい。

住宅の建築形式には、戸建て、長屋、共同住宅がある。戸建ては1棟に1住戸がある独立住宅であるのに対して、長屋と共同住宅は 棟に複数の住戸がある集合住宅である。長屋は各戸から別々に屋外に出る形式、共同住宅は各戸から共用の階段や廊下などを経て屋外に出る形式である。
建築基準法や地方自治体の条例では長屋と共同住宅での規制の扱いが異なり、長屋への規制が緩い。これは、災害時に長屋では自分の住戸から独立して屋外に避難できるのに対して、共同住宅では共用部分を通らねばならず、より安全性を確保する必要性があるからである。
高田論文(「長屋と共同住宅の規制の違いが地域環境に与える影響」)では、長屋形式と共同住宅形式のどちらが選択されるのか、長屋や共同住宅があることで周辺の地価にどのような影響があるのかを分析している。
足立区および川口市のデータをもとに建築形式の選択確率モデルを推計している。東京都の建築安全条例(以下、都条例)は埼玉県の同条例よりも、共同住宅に対する規制が厳しい。特に、東京都では、共同住宅の場合には庭先空地を取らねばならず、接道長さについても制限が厳しい。
分析の結果、都条例の規制がかかることで、共同住宅よりも長屋が選択される確率が12.4%上がることを示している。都条例は、共同住宅における避難容易性を高めるために規制を厳しくしているのであるが、結果として、条件上規制を満たすことが難しい敷地において長屋を選択せざるを得なくなっている可能性がある。
次に、中野区において、100m以内に長屋もしくは共同住宅が増えることで公示地価にどのような影響があるのかをヘドニック分析を用いて分析している。その結果、長屋が1棟増えることで地価が0.3%下がる一方、共同住宅が1棟増えることで地価が0.2%上がることを示した。さらに、その効果が建てづまり率の増加によることを定量的に示している。このことから、共同住宅において庭先空地をとらせる都条例の規制は、地域環境を改善する役割も果たしていることがわかる。
東京都では、共同住宅により厳しい規制を課しているために、長屋が選択されがちである。中高層住宅では共同住宅形式しか選択肢がないため、庭先空地の規制は有効であるが、低層住宅の場合には、長屋と共同住宅の規制の間での規制内容のバランスが適正かについては、今後検討していく必要があるだろう。
長屋の規制を強化すれば、外部不経済性は低下するが、その結果、大量なミニ戸建てに転じる可能性も否定できない。戸建て住宅も含めてさらなる分析を進めることで、適正な施策のあり方が見えてくるように思われる。

日本住宅総合センターでは調査研究の結果を調査研究レポートとして公開している。原野・瀬下論文(調査報告:「中古住宅流通と住宅金融公庫」)では、その内容の一部を紹介している。
日本では、中古(既存)住宅の取引が欧米諸国に比較して少ない。中古住宅は、その性能が不確かであり購入者側に不安がある(情報の非対称性)こと、住宅に関する基準がしばしば改定されるため中古住宅では現行基準に合致しなくなり法制的な要因による「劣化」があること、日本では自然災害が多く住宅を「住みつぶす」消費財として認識されがちであることなどがしばしば指摘される。ただ、戦後の日本の住宅政策では、長らく新築住宅の建設を重視してきたこともその要因にあるのではないかということで、原野・瀬下論文では、それが顕著に表れている旧住宅金融公庫の貸出基準に着目した調査を行なっている。
住宅金融公庫の融資は、戦後の住宅市場の整備に大きな役割を担ってきている。そのなかで、中古住宅向けの融資は限定的であった。中古共同住宅向け融資は1976年度になって開始され、中古戸建て住宅に至っては1983年になってはじめて導入された。つまり、住宅金融公庫融資は、基本的には新築住宅を対象に制度が構築されていたのである。
公庫融資が住宅取引に占める割合を調べると、新築住宅における利用割合は1980年代で4割程度であるのに対して、中古住宅では1992年度にやっと1割を超えた程度であり、中古住宅における融資比率は一貫して戸建て住宅よりも少ない。
中古住宅に対する融資条件を調べると、築年数に条件が付されており、築年数の浅いものだけに限定されている。また、当初は中古住宅に対する適用金利は新築住宅よりも高く、1990年代にやっとほぼ同水準の金利となる。償還期間も中古住宅のほうが新築住宅よりも短く、融資の選択行動に影響を及ぼしていた可能性がある。実際に公庫融資を利用して中古住宅を購入した個人の傾向を見てみると、これらの融資条件に強く左右されていたことが判明している。
以上より、戦後の新築住宅重視の住宅政策の一環として、中古住宅に対する住宅金融公庫の融資条件の厳しさが、中古住宅選択に対して制約条件となり、中古住宅取引を減らすことつながっていた可能性がある。ただし、著者らも指摘するとおり、これらの概括的なデータの分析では、因果関係を検証したことにはなっておらず、今後の精緻な分析が必要である。
(Y・A)
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