季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2016年秋季号
発行年月 平成28年10月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1住宅政策の今後の展開由木文彦
特別論文2-7住宅を時間軸で考える深尾精一
論文10-19アジアの住宅価格と海外資本流入、為替制度、資本規制との関係大野早苗
論文20-27親の介護を誰がするか? 小川光・古村聖
論文28-35建築基準法規制強化が既存建築物の増築・建替えに与える影響野原邦治
海外論文紹介36-39住宅価格と既婚女性労働力参加の因果関係平河茉璃絵
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市場がグローバル化することで国際的な金融市場が国内の住宅価格変動にも影響を及ぼすようになった。今後の住宅政策を考えていくうえでも、その影響を的確にとらえることが重要になっている。
大野論文(「アジアの住宅価格と海外資本流入、為替制度、資本規制との関係」)は、中国、香港、韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシアの8カ国を対象に、資本流入が住宅市場に与える影響を分析している。まず、海外資本がアジア諸国の住宅市場に流入する経路として、直接的経路と間接的経路があるとしている。直接的経路は非居住者がアジアの住宅を取得することにより海外から資本が流入する経路、間接的経路は海外資本の流入がマネタリーベースの増大を誘発させて資本が住宅市場に流れる経路である。海外からの住宅の直接取得は限られるために、効果は限定的とも言われるが、間接効果も考えると有意な影響があるかもしれない。また、通貨価値上昇の回避策としての為替介入が外貨準備を累増させ、国内の流動性の増大を通じて資産価格インフレ・バブルのリスクを高める可能性がある。
分析結果から、所得水準が上昇すると住宅価格も上昇すること、資本取引の自由化が進んでいる国のほうが住宅の伸び率が高くなることより、自由化が進んでいる国のほうが海外資本の流入規模が拡大し住宅市場に流入した外国資本によって住宅価格が押し上げられていることを示唆している。また、為替変動を許容しない為替政策を実施している国において住宅価格の上昇傾向が示されている。アジア通貨の先高予想と住宅価格の上昇にも正の関係がある。これらから、国際流動性の増大を背景にアジア向け海外資本の流入が増大し、それがアジアの住宅価格を押し上げてきた可能性があると言える。
ただ、大野論文で指摘しているように、分析は主として住宅価格の需要要因を扱っており、建設コストなどの供給要因は含まれていない。また、各国の住宅融資動向の影響も加味する必要がある。
アジア諸国は住宅価格が急騰した要因を、非居住者による住宅投資が原因と判断し、住宅投資を抑制する資本規制が行なわれたが、間接的経路を通じた効果があるために、規制の効果は限定的である。大野論文の分析結果は、住宅価格を制御する政策当局にとって、おおいに参考になるのではないかと思われる。

少子高齢化社会に入り、高齢者介護は社会の大きな重荷となっている。日本は世界的にも長寿国として知られているが、健康でいる年数である健康寿命が必ずしも十分に延びておらず、介護期間が長期化する傾向にある。また、子どもの数が減っているために、親のケアに対する子どもの負担がより増大している。今後、財政的に厳しくなるなかで、高齢者介護に対する社会的な支援も限られてくることを考えると、介護問題はますます深刻になるだろう。
日本では家族が介護者となることが多い。特に、長男は家を継ぐという意識もあってか、同居しているケースも多く、結果として長男夫婦が介護にあたることも多くなる。しかし、欧米では長男以外が介護を行なうことも多いという。
小川・古村論文(「親の介護を誰がするか?:兄弟間所得格差と居住地選択」)はKonrad らの研究を拡張し、伝統や慣習によらず、経済的誘因に基づく兄弟の意思決定の結果として、長男が主たる介護者になることをどのように説明できるのかという問題に挑戦している。まず、高齢の親と成人した兄弟からなる家族を想定し、自分の消費財と親の介護総量からなる効用関数を子どもが持つと仮定する。次に、長男、次男、親の順に線分上に立地点を定め、子と親が離れているほど、介護のための費用がかかるものとする。
そして、兄弟の所得差があることを仮定して、4つの均衡パターンがあることを示している。次男の所得が長男よりもかなり大きいときは、次男が親と同居して親の面倒をすべてみる。逆に長男の所得が次男よりもかなり大きいときは、長男が親と同居して親の面倒をすべてみる。
次男の所得が長男よりも若干多いときは、兄弟とも親と同居し、両方が親の面倒をみる。
長男の所得が次男よりも若干多いときは、長男が親と同居して中心点に立地し、次男が端点に立地し、長男がより多めに親の面倒をみる。
このモデルの背後にあるのは、親の介護を相手に押しつける戦略的行動であるが、効用関数に親の介護量が含まれていることでわかるように、完全な利己的プレーヤーではない。
小川・古村論文の中でも紹介されているように、第一子のほうが親のかける教育費が高く、結果として長男のほうが次男よりも若干所得が高くなるとすれば、長男が親と同居し次男が遠くに立地するという均衡となるが、ステレオタイプ的な日本の家族像を示しているところが興味深い。
介護の問題をモデル化する際には、遺産動機に着目する方法もある。また、姉妹を入れるとどうなるかなど、まだまだ拡張の余地は多い。拡張されたモデル分析の続編を是非拝読したい。

建物が建てられてから建築基準法が改正されたり、都市計画変更がなされたりした場合などに、新たな規制のもとでは許容されない状態になることがある。これを既存不適格という。既存不適格は合法であるが、増築等を行なう際は、適法状態に修正しなければならない。結果として、既存不適格建築物は、長くその状態を存置する傾向が出てくる。
野原論文(「建築基準法規制強化が既存建築物の増築・建替えに与える影響」)は、規制強化して既存不適格になった建物について、増築等の凍結効果の計量分析を行なっている。具体的には「形態不適格となった場合、増築等の件数は大きく減少する」、「旧耐震基準の建物となった場合、増築等の件数は減少しても大きなものではない、または増加する」という2つの仮説を検証している。
川崎市の容積率等の規制が導入された時期および耐震基準が強化された時期の前後 年間に新築された 階以上の商業系用途の建築物を対象としている。それぞれについて、増築や建替えの履歴を調べ、また、既存不適格であるかどうかを判定した。その結果、1804棟のデータを集めている。
分析の結果、形態不適格になると、築後30年以内に増築される建築物の割合は約7割減少し、旧耐震の場合、築後30年以内に増築される建築物の割合は約9割増加することを示している。また、形態不適格になると、築後30年以内に建替えられる割合は約6割減少し、旧耐震の場合、築後30年以内に建替える割合は約5割増加することを示している。どちらも仮説を支持する結果である。
この結果をもとに、野原論文は、次のように結論付けている。すなわち、形態不適格となった建築物の増築等が行なわれないということは、形態不適格の状態が改善されず、建築物周囲に対する負の外部性が長期間にわたって解消されない状況にあることを意味する。そして、形態規制が建築物周囲に対する負の外部性をコントロールするものであるという規制本来の性質を鑑みると、既存の建築物を当該基準に適合するよう誘導する方策として、規制ではないより適切な方策に改善する余地がある。
また、耐震性についても、建築物の耐震性を外部性対策という観点で見ると、建築主の私的便益に応じた改善のみでは社会的に望ましい改善水準から見て過小に留まってしまうとして、現行の規制方策の改善を提言している。具体的な提言内容としては外部性に相当する対価を求めることを示唆している。
現行の既存不適格に関する仕組みは、建築状態を新築時にしかモニターできないと考えられていた時代の制度をそのまま引きずっている。現在は、航空写真や航空レーザー測量などの建築後もモニターできる仕組みが整ってきており、野原論文でも提言しているように、そろそろ制度改正すべきではないだろうか。(Y・A)
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