季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2017年春季号
発行年月 平成29年04月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1不動産市場の透明性と固定資産税評価山崎福寿
特別論文2-7持続可能な都市づくりへの簡易アセスメント原科幸彦
論文10-19環境不動産の特性と取引価格との関係吉田二郎・杉浦綾子
論文20-27住宅価格の変化と出生行動水谷徳子
論文28-35住宅市場に内在する不確実性の費用定行泰甫
海外論文紹介36-39不動産仲介業者は誰のために遠藤圭介
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住宅は家計にとって生活の場であり、主要な資産でもある。そのため、住宅価格や家賃は経済主体の選択に大きな影響を与えるとともに、その活動や考え方を映し出してもいる。本号に掲載されている⚓本の論文は、それぞれ異なる視点からこれらの問題を捉えようとした興味深い論考である。

環境意識への高まりから、近年、住宅にもさまざまな環境性能が取り入れられてきた。また補助金や税制を用いた政策的な誘導も活発に試みられている。
吉田・杉浦論文(「環境不動産の特性と取引価格との関係」)は、優れた環境性能を持つ不動産(以下「環境不動産」と呼ぶ)が、市場にどのように評価されているかについて検証したものである。分析の特徴は、不動産価格に影響を与えている要因を細目に分類して分析している点にある。エネルギー効率が高い場合や長寿命住宅であれば、価格は高くなると考えられる。他方、環境負荷の小さな建材(エコマテリアル)を用いた場合には、耐久性が低いために将来の維持管理費用などのライフサイクルコストは高くなり、購入時の住宅価格を低下させる可能性がある。
分析では、東京都で2002年に始まった建築物環境計画書制度が、2005年の制度改正では、大規模マンション開発業者に環境配慮表示を義務づけたため、環境項目別の評点が存在していることを利用している。この項目別の環境性能が制度基準を満たすことがマンション価格にどのように影響しているかを検証している。
研究で用いられている環境項目は、省エネ、省資源、長寿命化、緑化である。この環境計画書データと2002年から2009年までのマンション取引価格情報を統合し、大規模マンションにデータを絞った分析とともに、環境性能以外の要因については、できるだけ近い特性を持つ不動産との間での評価を比較する目的で、一般的なマッチング手法とプロビット回帰に基づく傾向スコアによるマッチング法を用いた分析もしている。
分析の結果、環境不動産は当初は一般の不動産よりも低い価格で取引されるが、その後、すべてのケースにおいて⚔~⚕年の時点で統計的に有意に高い価格で取引され、その後も、傾向スコアによるマッチングのケース以外では統計的に有意に高くなることが観察されるという。環境項目ごとの評価では、エネルギーや資源効率の項目で不動産価格を下げる効果が見られ、長寿命化設計については価格を高める効果が見られるという。
吉田・杉浦論文の分析は、環境に対する市場評価を検討する際の重要な基礎資料になると期待される。ただ、税制や補助金の効果などの影響は考慮されておらず、その点で政策効果を十分に評価できるものとなっていないのは残念である。また、分析データが2002年から2009年のマンションの取引情報に基づいており、いわゆるマンションの耐震偽装事件が起こった時期(2004年~05年頃)を含んでいるので、マンション躯体部分への評価が含まれる長寿命化の評価を、純粋な環境性能への評価として見なせるのかという点には留意する必要があるかもしれない。マンション設計についての別の評価を反映している可能性もないとは言えない。

住宅という資産は、大部分の家計にとって最も大きな資産であり、最大の支出項目であろう。この点で住宅価格の変動は、家計の将来所得への予想とそのリスク態度に大きな影響を与え、長期的な視野に立った家計の意思決定問題に影響を与えうる。
水谷論文(「住宅価格の変化と出生行動」)は、住宅資産の価格変動と家計の出生行動の関係に着目して、その影響を検証している。
住宅が家計資産において大きな割合を占めるために、その資産価格の変動が出生率にも影響を与える可能性がある。また、従来は労働所得の変動が家計の出生行動に与える影響が分析されてきたが、住宅資産の価格変動にともなう所得の変動は、労働所得のように他の機会費用をともなうものではない。そのため余暇の拡大のような代替的な効果をともないにくく、家計の長期の所得が出生行動に与える影響をより直接的に捉えることができるという。
分析では、持ち家の住宅価格の変化が出生確率を変化させているか否かを、線形確率モデルを用いて分析している。ただ、他の要因をコントロールするために県単位の失業率や男女の実質賃金などを用いているため、持ち家住宅の価格変動もその地域のマクロ的な経済状況を捉えている可能性があるとして、賃貸住宅に居住する家計と比較した分析もなされている。
データは、家計経済研究所による「消費生活に関するパネル調査」という興味深いデータが用いられている。このデータは、1993年時点に24歳から34歳であった1500人の女性を現在まで追跡した長期のパネル調査である。なお、持ち家価格はこれら対象者の主観的な評価額である。
分析は、「住宅ローンを有する持ち家世帯」と、「住宅ローンを負担していない持ち家世帯」、「賃貸世帯」の三つのグループに分けて行なわれている。分析の結果、住宅ローンのある持ち家世帯で住宅価格の変化が有意に出生に正の影響を与えているが、住宅ローンのない持ち家世帯では影響が見られないという。また賃貸世帯でも、家賃の変化は出産の選択に影響を与えていない。なお、世帯年収はすべてのグループで出産の選択に影響を与えていない。
さらに、分析では住宅ローンを有する持ち家世帯を⚕歳単位でグループ化して分析し、住宅価格の変化が有意に影響を与えているのは24歳から29歳のグループのみであるとしている。
報告された結果は、日本の低い出生率を改善させるための施策を考えるうえで、意義深い情報を提供する可能性があると評価できる。ただし、基本的には実態の確認にのみ分析の焦点が向けられており、その背景にある理論的なメカニズムが必ずしも明確ではない。
住宅価格の変動が所得効果を持つなら、世帯収入はなぜ影響を与えないのか、24歳から29歳で持ち家がある家計であれば、親からの贈与や遺産などの所得移転の効果を確認すべきではないか、理論的には子供と住宅は代替的な資産として捉えることもできるし、補完的な消費サービスと捉えることもできる。背景にある理論モデルを明確化して、分析で用いる変数を適切に選択し、効果をコントロールすれば、水谷論文のような分析はもっと大きな社会的影響力を持ちうるように思われる。

住宅の選択においては、物件の品質はもちろん、家主や周辺住環境などについてのリスクがともなう。そのため、そのリスクが住宅価格や賃料に大きな影響を与えている可能性もある。
定行論文(「住宅市場に内在する不確実性の費用」)は、イリノイ大学の学生寮と民間家賃の関係を分析している。学生寮をリスクの小さな住宅サービスを供給する賃貸住宅として捉え、その家賃と一般の民間賃貸住宅の家賃との差(「大学寮プレミアム」と呼ぶ)を空間的自己回帰モデルを用いて計測している。分析では、このプレミアムを学生寮ダミーを用いて補足するとともに、イリノイ大学のテナント・ユニオンが集計した家主に対するクレーム情報も変数に含めて家賃への影響を分析している。
分析の結果、クレームが多い家主の賃貸住宅の家賃は有意にマイナスの影響を受けている。また、大学院生向けの学生寮を市場家賃と比較した学生寮プレミアムは約30% 高く、学部生向けの学生寮ではさらに高くなるとしている。その理由として、学部生の場合、イリノイ大学では1年次に強制的に入寮することになっているため、このことを利用して大学が市場家賃を大幅に上回る家賃設定が可能になっていることを指摘している。また、その超過利益は年間学部生向けの学生寮だけで1590万ドルになるとしている。
定行論文は、学生側の視点から学生寮の家賃を分析している印象があるが、その分析結果は大学経営の側から見ることもできる。すなわち、学生寮の設置とその家賃設定は、大学がその地域に及ぼす外部効果を内部化するための重要なツールとなりうる。日本では、地方出身者のための安価な住宅サービスというイメージのある学生寮だが、そこで提供される飲食サービスも含め、大学が収益を得ることができる重要な手段ともなる。この点で大学寮を大学経営の重要なツールとして認識する必要性は日本でも大きいと思われる。
(H・S)
価格(税込) 786円 在庫

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