季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2017年夏季号
発行年月 平成29年07月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1来たる時代の不動産政策の推進谷脇暁
特別論文2-7人口減少時代におけるコンパクト・シティと生活の質井出多加子
論文10-18保育所アクセスと母親の希望就業河端瑞貴
論文19-28相続が不動産市場に及ぼす影響の実証分析植杉威一郎・清水千弘・水田岳志
論文29-35借地借家法による空き家期間と機会費用の推定鈴木雅智・浅見泰司
海外論文紹介36-39破壊による利益:都市成長の障壁と1872年ボストン大火災安田昌平
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ノート
不動産は政策、税制、法制度など、さまざまな要因から大きな影響を受けるとともに、その影響を映し出す役割も果たしている。本号に掲載された⚓本の論文は、実証的な観点からこれらの要因の影響を描出するものであり、今後の政策課題や制度改正を検討するうえで、いずれも重要な論考となりうるものである。

河端論文(「保育所アクセスと母親の希望就業」)は、保育所の利用可能性と母親の希望就業の実現との関係を分析している。まず、東京23区内を対象に、居住地を基準とした地理的な保育所アクセシビリティという指標を算出している。これは、居住地と保育所の道路上の距離を定め、その距離内における認可保育所、東京都認証保育所および認定こども園の総定員数を分子に取り、人口と保育所入所希望率に基づいて計算した希望入所者数を分母にとった比として定義される。もし保育所アクセシビリティが⚑より大きければ入所できる可能性が高く、⚑より低ければ、入所しづらいと言える。実際、待機児童の多い⚐~⚒歳児では、このアクセシビリティが⚑を下回る割合が500、750、1000メートルのいずれの距離内でも⚕割を超えており、特に待機児童が最多の⚑歳児で最も高くなることが確認されている。
さらに、上記750メートル内のアクセシビリティの人口加重平均を保育所アクセシビリティと呼び、この変数と保育所が利用可能か否かを示す保育所利用可ダミーを説明変数として、フルタイムまたはパートタイム就業希望者を対象に、母親が希望する就業形態を実現しているかをプロビットモデルによって分析している。
2009年に実施したアンケート調査のデータを用いた分析の結果、保育所利用可ダミーは、母親の希望就業実現率と有意に正の相関があることが示されている。サンプル平均値の母親についての限界効果は、保育所を利用できる場合、できない場合よりも希望就業実現率が39パーセントポイント高くなるという。また、末子の年齢が⚐歳から⚒歳児であることを示すダミーと保育所利用可ダミーの交差項を加えたモデルを推計すると、この限界効果は51パーセントポイント高い結果となるという。
保育所利用可ダミーを、さらに希望する保育所と希望以外の保育所の利用可ダミーに分けて分析すると、希望する保育所を利用できる母親は、保育所を利用できない母親と比較して、末子の年齢が⚐歳から⚒歳児の場合、サンプルの平均値の母親の場合で、限界効果は69%、末子の年齢が⚓歳から⚕歳児の場合は24パーセントポイント高くなるという。
ただ、保育所のアクセシビリティはいずれの分析でも有意な結果は得られていない。河端氏も指摘しているように、保育所の利用可能性と希望就業の実現との間に内生性の問題があるからである。保育所のアクセシビリティ自体が実際の保育所利用可能性と相関する可能性を考えると、むしろアクセシビリティを操作変数に用いて分析することを検討してもよいのかもしれない。

不動産価格について実証的に分析する際には、不動産の需要と供給を識別することが重要となる。植杉・清水・水田論文(「相続が不動産市場に及ぼす影響の実証分析」)は、高齢化が不動産価格に及ぼす影響を分析している。その際、不動産所有者の死亡時に不動産の売却(供給)が増加するため、相続件数を操作変数に用いることで、上記の識別問題を解決しようとしている。
所有者の死亡時に不動産市場の(フローの)供給が増加するのは、税制の歪みが原因である。相続税課税時の資産評価では、不動産は市場価格より低く評価される。そのため、相続時まで保有し続けたほうが事前に売却して金融資産として保有するよりも相続税を軽減できる。さらに、相続税納付後3年以内に不動産を売却すれば、贈与所得税の算出において、キャピタルゲインから納付した相続税分を控除することもできる。
植杉・清水・水田論文では相続の情報を得るため、登記変更情報と不動産取引情報を丁目単位で接合したデータセットを用いている。
通常のOLS によって不動産価格と売却意向不動産の面積比率の係数を分析すると、いずれの不動産でも有意に正となる。1%の売却意向不動産の増加は、土地、戸建て、マンションでそれぞれ、0.016%、0.005%、0.007% の価格上昇となる。これは、供給の外生的な増加が不動産価格を低下させるという理論と逆の推計結果である。高齢化比率の上昇との関係では、戸建ての価格を下げるが、土地やマンションについては有意な結果は得られないという。
上記の結果は、地価と売却意向不動産の面積比の間に内生性の問題があることに起因する。これを回避するために、地域ごとの相続件数と、相続件数に平均公示価格を掛けた交差項を操作変数に用いた分析がなされている。結果は、相続件数は土地、戸建て、マンションのいずれの不動産に対しても売却意向面積に有意に正の影響を与えている。他方、相続件数と平
均公示価格の交差項はマイナスで有意となっており、平均的な公示地価が高い地域ほど、相続件数が増えると売却意向不動産の面積比率を増やす傾向が弱まるという。
これについて植杉・清水・水田論文では公示地価が高い地域では、高い譲渡所得税が適用されるのを避けるために売却を減らしていると解釈している。しかし、もともと公示価格が高い地域では保有不動産の面積が小さく細分化されている可能性が高く、その影響を捉動産価格と売却された不動産の面積(各丁目における売却意向不動産の面積比)の関係を推計していえているようにも思われる。
次に、売却意向不動産比率と不動産価格の係数を見ると、いずれの不動産についてもマイナスで有意となる。⚑%の売却意向不動産の増加は土地、戸建て、マンションで、それぞれ約0.25%、0.3%、0.16%程度不動産価格を下げる効果がある。他方、高齢化率は土地と戸建てで有意に正となる。
植杉・清水・水田論文では、相続件数が日本の不動産取引の分析で有効な操作変数となるというテクニカルな点が強調されているが、高齢化率が不動産価格を高めている理由について考察を深めることが政策的な観点からはより一層重要となろう。

日本の不動産市場に大きな影を落としてきた問題として、借地借家法の問題がある。借地借家法による賃借人の保護が賃貸住宅の供給を制限してきたという指摘は、不動産の既存ストックの有効活用という観点からみると、その活用を制限する要因という文脈に読み替えることができる。
鈴木・浅見論文(「借地借家法による空き家期間と機会費用の推定」)は、このような既存不動産ストックの有効活用という観点に立って、借地借家法の問題を検討している。同法の存在によって立ち退き補償を支払わなければならない家主は、それを回避しようとして転用前には空き家にしておくことが合理的になる。そこで、このように空き家にすることで失う会費用として推計しようというのが鈴木・浅見論文の戦略である。
将来の立ち退き料の予想と賃借人の退去確率に基づいて、最適な賃貸期間が理論モデルから算出される。そこでは、完全な空き家にするか、賃貸した上で家賃収入を得るとともに、立ち退きのリスクを抱えるかが選択される。賃貸に出した場合でも、一定時点以降に賃借人が自主的に退去すれば、その後は賃貸として供給されずに空き家となり、その間の家賃が機会費用となる。当初から空き家の場合には、家賃をまったく得られないという機会損失から、立ち退き料を支払わなくてすむ利益を引いた額が機会費用となる。
東京23区を対象として、期待空き家期間と機会費用を推計すると、利用転換までの期間が⚒年で立ち退き料が家賃⚒年分となるケースで、数カ月程度の空き家となり、年100億円の機会費用が発生するという。さらに立ち退き料が家賃10年分となると予想するケースでは、⚒年間の空き家が生じて年600億円もの機会費用が発生するという。
分析結果は定期借家契約の普及を妨げている要因がもたらす機会費用と解釈し直すこともできる。この点で、定期借家契約についての法規定について、一層の改正を主張するものと言うことができる。
(H・S)
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