季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2018年春季号
発行年月 平成30年04月 判型 B5 頁数 36
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1放棄される土地中里実
特別論文2-7応用都市経済学安藤朝夫
論文10-15狭小貸家建設と潜在需要安井洋輔・江尻晶彦
論文16-22不動産競売データの利用による環境評価中西勇人
論文23-31首都圏臨海部における工業等制限法の効果小谷将之
海外論文紹介32-35空疎な住区馬場弘樹
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安井・江尻論文(「狭小貸家建設と潜在需要」)は、比較的規模の小さい貸家(狭小借家)の建設とそれに対する潜在需要を、人口動態の変化に基づいて推計したものである。近年は、相続税や低金利の影響を受けて、狭小貸家の建設が急激に増加している。安井・江尻論文では、「狭小貸家の潜在需要を、狭小貸家ストックの建て替え需要と、狭小貸家に居住する世帯数の変動の和と定義し、それぞれを推計して統合することで、各年の潜在需要を算出する」としている。
また、狭小貸家に対する主たる居住者は若年世代の単身者である点に着目して、人口動態の変化に基づいて狭小貸家に対する潜在需要を推計しているが、ここでは固定係数モデルが用いられ、価格弾力性や所得の影響は考慮されていない。こうしたモデルのほうが、マクロ的な貸家の建設や潜在的な需要を推計するためにはフィットが良いことはたびたび指摘される。
さらに、相続税の効果にも言及しているが、今後も相続税の節税効果を目的とした貸家の供給が増えることが予想される。もちろん、相続税は狭小貸家だけでなく、ファミリータイプの貸家の建設に対しても効果を及ぼすものであると考えられるが、ファミリータイプの貸家については議論されていない。富裕な資産家にとっては、ファミリータイプの貸家も有効な節税対策であるにもかかわらず、フさらに、相続税の効果にも言及しているが、今後も相続税の節税効果を目的とした貸家の供給が増えることが予想される。もちろん、相続税は狭小貸家だけでなく、ファミリータイプの貸家の建設に対しても効果を及ぼすものであると考えられるが、ファミリータイプの貸家については議論されていない。富裕な資産家にとっては、ファミリータイプの貸家も有効な節税対策であるにもかかわらず、ファミリータイプの貸家の供給よりも狭小貸家のほうが節税手段としてもっぱら使われているのはなぜだろうか。こうした点についてもふれてほしかった。
この点に関連して、政府の税制改正大綱で示された税制改正では、相続開始前の⚓年以内に貸付事業用に供された宅地等について、貸家建付地としての特例から除外することになったようである。つまり、相続が発生する3年以上前に建てられた貸家については特例の対象となるが、3年以内に作られたものについては節税目的であると認識されて対象からはずされ、課税されるということである。節税の是非はともかくとして、3年以上前であれば節税目的でないとする判断は奇妙である。こうした改正では、3年以上前から節税対策をする人々が増えるだけであると予想される。
ところで、安井・江尻論文のなかでは、地価の下落が負の外部性をもたらすといった記述が散見される。しかし、どのような外部性なのかは明らかにされてはいない点が気になるところだが、仮に、地価下落が空家の増加をもたらし、その結果として周辺の治安や環境に望ましくない影響を及ぼすということであれば、この点については議論があることを付け加えておきたい。

中西論文(「不動産競売データの利用による環境評価」)は、従来の環境評価に対する推定方法について批判的に検討したうえで、新しい推定手法について説明し、その実証例を紹介していて興味深い。従来の代表的な環境評価方法のひとつはヘドニック法である。ヘドニック法とは地価に環境評価が反映されることを考慮して、地価を環境の質を示す変数に対して回帰させることで、さまざまな環境の質を地価の変化によって明らかにしようとする方法である。
ヘドニック法の決定的な問題は、環境の大規模な変化に対してはバイアスのない推定値が得られない点である。これを補完するためにさまざまな改良が進められているが、十分に満足のいく推定法はこれまでのところ提示されていない。とくに、準実験アプローチと呼ばれる方法は、ヘドニック分析の欠点を補おうとしているが、あくまで仮想的な実験であることから、十分な改善策にならないことが指摘されている。
そこで中西論文では、新しい推計法であるシミュレーションモーメント法(MSM)を用いて、人々の価値関数を推計している。MSM とは、不動産競売の入札方式を前提にして、理論的に求められた均衡概念を用いて、それを実証分析が可能なように改良した推定モデルである。
一般に、最も高い価格を入札した人が落札するという第一価格競売方式が用いられているが、この方式では真の価値が正しく表明されないという問題がある。そこで、より望ましいセカンドプライスオークションといったものがすでに提案されているが、現状の競売制度はそうなってはいない。そのため、実際の落札価格を人々の評価と考えると、無視できないバイアスが含まれている可能性がある。そこで、そうした難点を克服するために、MSM では入札者が評価する価値の平均値あるいはメディアンを推計する方法がとられており、それによって環境の質を評価することが可能になる。
中西論文では、MSM について要領よく説明されており、今後の研究にとって興味深い多くの論点が提示されている。また、論文中でも指摘されているように、人々の選好が異なるケースへの拡張が今後の課題である。選好の異なる主体の平均値やメディアンを集計して、公共財の評価を求めることを期待したい。
公共財の評価については従来から支払い意思額の集計に関する問題が指摘されており、環境も含めてこの推計値である平均値やメディアンについて、分布を用いて集計値を求めることができれば、意義深いことである。

小谷論文(「首都圏臨海部における工業等制限法の効果」)は、1956年に制定された首都圏整備法のもとで施行された工業等制限法が、当該地域の生産活動にどのような影響を及ぼしたかを検証したものである。工業等制限法はすでに2002年に廃止された法律であるが、それ以前の1999年には部分的な規制解除がなされている。小谷論文は、横浜市の臨海部を対象にした規制の解除を自然実験としてとらえ、それが地域の生産活動に拡大的な影響を及ぼしたかどうかを統計的にとらえることによって、逆に規制が当該地域の生産活動に抑制的な影響を及ぼしたかどうかを検証している。
工業等制限法は、大規模な工場の立地だけでなく、大学の新設も対象にされていたことはよく知られた事実であり、人口や産業の東京一極集中を望ましくないとする理由から生まれたものである。最近、文部科学省は再び東京23区内の私立大学の新設を規制しはじめようとしている。また、諸外国の規制の例としては、例えば中国政府は、激しい混雑を理由に北京市や上海市における出稼ぎ移民を排除するといった強硬な対応をしている。
そもそも人口の集中による混雑に対しては、混雑料金制等のより望ましい対策があるにもかかわらず、副作用の大きい人口流入規制を課すことは、都市の成長にとって望ましくない。流入規制はすでに立地している工場や大学の既得権を保護する結果、都市内の新陳代謝を阻害し、ひいては経済の生産性にも望ましくない影響を及ぼす可能性が高い。
小谷論文は、こうした立地規制や流入規制が、規制対象地域の工場等の生産や出荷にどの程度の影響を及ぼしたかについて検証している。具体的には、神奈川県の臨海地域を対象に工業統計を用いて、DID 推定により、規制が事業所密度や事業所当たりの製造出荷額にどのような効果を及ぼしたかを検証している。そして、規制解除の前後⚔年間を比較することによって、規制の解除によって生産活動が有意に増加することから、工業等制限法による工場立地規制が当該地域の生産活動を有意に抑制してきたとしている。
ただし、規制解除の対象となった金沢区を含めると、その効果の有意性は低くなる。その理由のひとつとして、この法律が大規模な工場を対象としたのに対して、金沢区は小規模の自動車関連事業所が多いことが規制の効果を弱めたと指摘している。
こうした点を改善するためには、規制の対象となった地域と属性の似通った地域を選んで比較することである。地域の属性が顕著に異なれば、その潜在的な成長力も異なるものと考えられる。そのため、規制によって生産力が抑制されたのか、他の要因によって成長が阻害されたのか識別できなくなってしまう。今後の課題としては、スコアマッチング等の統計的手法を用いることによって、推定の精度を向上させる必要があると思われる。(F・Y)
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