季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2018年秋季号
発行年月 平成30年10月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1わが国の持続的成長と住宅消費税菰田正信
特別論文2-7東日本大震災住宅復興の課題三井康壽
論文10-21移動世帯の特徴と移動先での社会環境の変化唐渡広志・山鹿久木
論文22-27市場近接性と経済活動中島賢太郎
論文29-35米国の空き家・空き地問題対処藤井康幸
海外論文紹介36-39土地利用からの土地の権利の切り離し山田昂弘
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 唐渡・山鹿論文(「移動世帯の特徴と移動先での社会環境の変化」)は、総務省の住宅統計調査のデータ(1993年から2008年)を用いて、人々の転出がどのような要因によって生じているかを実証的に分析した論文である。理論的に予想される結果と整合的な点や、所得や高齢化との関連において、人々の移動がどの程度制約されてきたかを知るうえで重要な研究である。
 膨大なデータを丹念に分析しており、地域に転入した世帯の割合は、1993年に26.8%であったものが次第に低下し、2008年には20.7%にまでなっていることや、プロビット推定の結果として、移転確率が高齢化や景気の低迷と重要な関係を持っていることが報告されている。
 世帯主の年齢の平均を調べると、転入世帯は非転入世帯、すなわち以前からそこに居住している世帯に比べて、18歳ほど低いことから、相対的に若い世代が移動していることがわかる。その結果、転入の多い地域では高齢化が抑制されていることが示唆される。しかし、そうした転入世帯も1993年以降、次第に高齢化していることも興味深い事実である。
 また、世帯人員数が多くなると転入に対する制約が増えてくる。さまざまなライフイベントに応じて、人々は転入転出をすると考えると、世帯人員の数が少ないほうがより容易に移動しやすいことも理解できる。もちろん、移転にコストがかかることを考えれば、転入世帯が、比較的高所得の世帯であり、持家世帯よりも非持家世帯のほうが転入する傾向が高いことも、中古住宅を売却するコストと関連しているのであろう。
 こうした分析をしたうえで、人々がどのような要因によって転入するかについて明らかにするために、社会環境変数のデータを組み合わせて、回帰方程式を推定して、いくつかの興味深い結果を得ている。例えば、自然環境を求めて移動する人の割合はそれほど大きくない点や、空き家が少ない地域へ移動すること、古い住宅がある地域を避けようとするような誘因は中所得以上の世帯に顕著であることなどである。
 危険な地域を避けるという傾向は、市場による住み分け(ゾーニング)が生じていることを示唆している。すなわち、所得水準が高い人々がより安全で暮らしやすい地域へ移動するのに対して、所得水準が相対的に低い人々は、比較的安全でない地域や環境の決して望ましいとは言えない地域へ移動するという傾向が見られる。
 今後、景気が回復した時点でのデータを用いて、分析を拡張することによって、人々の高齢化が依然として進行しているなかで、雇用を求めて人々がどのように移動するかを分析すると、より興味深い結果が得られるように思われる。今後の研究に期待したい。

 1990年代に飛躍的な成長を遂げた空間経済学は、都市間の距離という市場近接性の概念に重要な意義を見出した。こうした経済学の理論的発展によって、これまで外生変数と考えられていたものが内生化される結果、理論を検証するためには、外生変数をほかに探さなくてはならなくなる。すなわち、理論がより精緻になるにつれて、その理論を実証することがより困難になるということであり、まことに皮肉な話である。
 さて、中島論文(「市場近接性と経済活動」)は、この内生化に伴う困難を克服して、空間経済学の産物の一つである市場近接性が経済に及ぼす影響の重要性を検証しようとするものである。
 中島論文で市場との近接性の対象としているのは、朝鮮の市場と日本の各地の市町村の地理的関係である。外生変数としたのは、1910年に日本帝国が朝鮮を植民地化した歴史的事実である。植民地化後に、日本の各都市で人口がどのように変化したかについて、DID(difference in difference)の統計的手法を用いて検証する。すなわち、地理的近接性を説明変数として、日本の都市の人口成長率を被説明変数とした回帰式を推計したうえで、その近接性の係数が植民地化後にどのように変化したかについて調べている。
 植民地化によって関税が引き下げられ、日朝間の域内交易が自由に行なわれるようになり、大きな貿易圏が形成された結果、釜山からより近い地域(400km以内)の市町村の人口成長率とそれより遠い市町村の人口成長率を比較したところ、朝鮮の市場と近い地域での人口成長率が高まったことが検証されている。
 同じく中島氏の研究では、戦後の朝鮮の独立によって、逆に、釜山に近い日本の地域の人口成長率が鈍化したとの結果が報告されている。その結果と比較すると、朝鮮の植民地化と朝鮮独立によって生じた人口変化の絶対値は、独立の効果のほうが大きいことも示される。その原因は、戦中に朝鮮経済が発展したことにあり、より大きな経済との近接性が重要であるという点が示唆される。
 そのうえで、朝鮮との交易の具体的な内容に注目すると、織物製品が交易において重要であったことがわかる。そこで、同じ統計的手法を用いて分析をしたところ、織物業と関連の深かった地域の人口成長率が、そうでなかった地域の人口成長率よりも有意に高かったことが示されている。これによって。朝鮮の植民地化という政治的な事件を外生変数としてとらえることによって、市場の近接性がいかに重要な変数であるかという点を明らかにした。
 当時の朝鮮国内の各地域の人口データが入手可能であれば、植民地化が朝鮮の地域人口の集積に及ぼした影響も分析していただきたいところである。

 米国では、ある産業で発展した地域が、その衰退とともに、雇用や人口が減少した結果、空き家や空き地が街中に生まれ、それに治安の悪化が拍車をかけるという例が数多く見られる。また、何らかの理由で、都市の中心部から人々が郊外に移転した結果、中心部がスラム化し、それに伴って、さらに、高所得層が郊外に移転するというインナーシティ問題も、以前からたびたび指摘されている。日本でも、地方や都市の郊外におびただしい数の空き家が存在し、それが社会的な問題になりはじめている。
 藤井論文(「米国の空き家・空き地問題対処――市場メカニズム型施策とランドバンク事業の組合せ」)は、こうした背景を受けて、空き家や空き地問題に対して、米国ではどのような対応がされているかという点が紹介され、市場メカニズム型施策とランドバンクを用いた施策が比較検討されている。
 市場メカニズム型施策とは、基本的に競売市場を用いて、差し押さえ物件の転売を図り、土地のより有効な利用を図ろうとするものである。深刻な問題を発生させる空き家になるのは、住宅ローンの返済ができなくなったために、金融機関等に差し押さえられた物件や、税を滞納したために行政府によって差し押さえられた物件である。もちろん、その両方を兼ねている物件もある。
 興味深いのは、手数料を徴収することによって、税滞納物件を解消していくことがビジネスとして成り立っていることであり、10%以上の手数料を払うこともあると言う。つまり、税抵当証券を市場で売却することによって、行政府が民間の力を借りて、税収を確保するということである。手数料ビジネスとして、税抵当証券を購入した投資家は、立ち退き請求や物件の売却を通じて納税し、手数料を得るという仕組みであろうか。こうした仕組みを使って、行政府は税の滞納を回収していく。
 しかし、こうした市場メカニズムの仕組みは、必ずしも地域の再生に役立っているとは限らない点が指摘されており、競売市場における限界とも言われている。つまり、新しく所有権を購入した投資家が、こうした物件を効率的に利用することなく、再び税の滞納を繰り返すそうである。
 市場型処理の代替的手法として、差し押さえ物件を有効に利用するために考えられたのが、行政機関であるランドバンクである。ランドバンクは、1970年代から存在しているが、実際に大きな転換を遂げたのは1990年以降である。現代型のランドバンクが現在いくつかの州で運営されており、「市場によって見捨てられた」土地が、都市の再生に役立つような利用方法に転換されるかどうかを、一件一件精査したうえで譲渡されていく仕組みになっている。その際に、細かい事業実績・事業計画などが慎重に審査されたうえで物件が譲渡されるという意味で、コストや時間がかかるという。
 今後は、市場メカニズム型施策とランドバンク事業を比較するためのデータを集め、どちらが実証的な観点から望ましい結果を生むかについての検証が行なわれることが望まれる。
(F・Y)
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