季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2019年夏季号
発行年月 平成31/令和1年07月 判型 B5 頁数 44
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1社会変化と今後の住宅政策石田優
特別論文2-8これからのオフィスのあり方と都市の競争力内田要
論文10-23東京圏への転入者の仕事・収入・Uターン志向太田聰一
論文24-31高速鉄道の建設が居住地価格に与えた影響牛島光一
論文 32-39自動車からのCO2排出量と都市の線引き岩田和之
海外論文紹介40-44潮の前の砂の城?小村彰啓
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ノート
 本号においては、東京への人口集中問題、交通インフラの効果測定、都市のコンパクト化の環境への影響など、政策的要請の強い分野における3本の論文の投稿をいただくことができた。

 太田論文(「東京圏への転入者の仕事・収入・Uターン志向」)は、どのような属性の人々が東京圏に転入し、逆にUターン、Iターンなどの地方への回帰を行なっているかについて、実証分析を行なったものである。これまでの先行研究においても、東京圏の高賃金と就業機会の多さが、東京圏への移動をもたらしていることは、かなり明確な事実として認識されてきた。そのようなメカニズムを強化する要因として、地方出身の都市部居住者が最も給与水準が高い一方で、地方出身の地方居住者が最も低い給与水準を得ていることなどが、太田自身の先行研究で確認されている。
 太田論文の特徴は、これらの居住(移動)パターンがその人の給与水準にどのような影響を与えているのか、また、どのような人が特定の居住パターンの選択を行なうのかについて、ユニークなデータセットと標準的な実証分析手法を用いて、さまざまなファクトファインディングを行なった点であろう。ここでいうユニークなデータセットとは、リクルートワークス研究所の「ワーキングパーソン調査2014」のことであり、ここでは中学時代の成績、出身高校のタイプ、大学進学時の入試形態等詳細なデータが得られるほか、出身地と最終学校所在地の情報が得られるという利点を有する。
 分析の結果、東京に生まれ、東京に居住し続けている「定着者」は、何等かの形態で東京に転入してきたグループに比べて、(低い方向に)大きな年収格差があることが確認されている。特に卒業後に転入してきた者との収入格差が大きい。その傾向は、正社員である確率、大企業に勤務している確率、勤続年数、役職についている確率についても、同様の傾向が観察されている。しかし、年齢や卒業前の状況を表す変数を導入することで、転入の有無、転入のパターンなどの影響は小さなものとなるか、有意性を失うことが観察されている。
 このほか太田論文では、女性、高卒男子の年収格差、出身地域の失業率等の状況が転入にもたらす影響、Uターン、Iターン志向が発生する要因などについて、数多くのファクトファインディングをしている。今起きている東京への集中が、人的資源の配分という観点からどのように評価できるかについて、大きな示唆を与えてくれる貢献であろう。
 ただし、卒業前の状況をコントロールすると、転入パターンの影響のマグニチュードが低下するということは、卒業前の状況、つまり親の学歴、中学卒業時の成績などが、転入パターンとシステマティックな関係を持っているということを意味するのだろう。そのメカニズムは太田論文では必ずしも明らかになっていない。また、卒業前の状況をコントロールしても残る、正社員確率への転入パターンの影響などが、どのようなメカニズムによって発生するのかについても明らかにはなっていない。今後、本論文で得られた非常に豊かなファクトファインディングが、整合的なメカニズムで説明されることを期待したい。

 牛島論文(「高速鉄道の建設が居住地価格に与えた影響」)は、大規模交通プロジェクトの便益評価について、大きな問題提起を行なうものとして評価することができよう。これまで、このようなプロジェクトについては、通常、ヘドニック法に基づく評価が行なわれてきた。しかし牛島論文では、これまでの評価について、①地域属性などが除外変数となることによるバイアスの問題、②交通インフラが建設される場所が選択されることによるセレクションバイアスの問題、③交通インフラが地価に影響を与え始めるタイミングの問題、④大規模プロジェクトであるが故にどの地域が影響を受けるのかという定義の問題が、厳密には考慮されていなかったという指摘を行なう。そのうえで、先行研究をていねいに敷衍することで、①については地価公示というパネルデータを用いることにより、②についてはDIDと傾向スコアマッチングを組み合わせた方法を用いることにより、③については中央リニア新幹線が決定されたプロセスを詳細に検討することにより、④については公共交通網および道路網を考慮したビッグデータを活用することにより、これまでにないような厳密な処置群と対照群を作り出すことにより解決を図っている。
 この結果、東京(品川駅)においては、プロジェクトに関する情報が公けになった時点を境に、有意な地価上昇は確認されなかった一方で、名古屋駅、橋本駅においては1~2%程度の地価上昇が観察されたことを報告している。そのうえで、分析のインプリケーションとしてこの論文が行なっているような厳密な評価が可能であり、大規模プロジェクトにはそれらを行なう必要性を強く薦めることで論文を結んでいる。
 今後のさらなる研究の進展を期待する意味で、考えられる課題について整理すると、一つは地価公示データの使用に当たっては、より注意深い取り扱いが必要かもしれない。これまでに、評価データであるだけに、過去の類似データの収集に始まる取引事例比較法によるラグが相当程度存在することが指摘されている。このため、パネル構造など好ましい特徴を多く備えたデータであるものの、特に効果が発揮されたとするタイミングの特定化が決定的な意味を持つプロジェクト評価にあたっては、注意深い取り扱いが求められるのではないだろうか。
 また、東京(品川駅)に関しては、有意な地価上昇が観察されないだけでなく、むしろ地価下落が観察されたという、直感的には意外な結果に関して、時間距離短縮に対して需要のある地域の地価が上昇したという解釈を示し、先行研究との整合性についても言及している。ただし、これが東京へのアクセシビリティについては需要があるものの、逆は需要がないということを示すものであるとすれば、このような大規模プロジェクトの評価にとっては大きな影響を持つ解釈とも考えられよう。このような解釈をサポートする、よりていねいなエビデンスの提示が今後行なわれることを期待したい。

 岩田論文(「自動車からのCO2排出量と都市の線引き」)は、都市のコンパクト化がCO2排出量削減に貢献できるかを実証的に検証したものである。国内外に都市のコンパクト化が環境対策に資することを研究対象とした先行研究は豊富に存在する。岩田論文の特徴は、都市政策、特に都市計画の運用主体となる地方自治体に注目して、全市町村について、そのタイプごとに分けたうえで分析を実施したことであろう。
 岩田論文は、まず市街化区域と市街化調整区域、いわゆる線引きの程度が人口密度にどのような影響を与えるかを検証する。そのうえで、人口密度がその市町村ごとのCO2排出量に及ぼす影響が分析される。その際、内生性を回避するために二段階最小二乗法を用いている。まず、第一段階の線引き制度が人口密度に与える影響については、市街化調整区域の可住地面積に占める比率が人口密度に負の、市街化区域の比率が正の影響を与えることが、人口の多い都市において観察される一方、逆の符号が有意に人口の少ない村で推定されるという結果が得られている。また、二段階目の実証分析においては、人口密度がCO2排出量を引き下げる効果があることが報告されている。特にその効果は、人口の少ない村において顕著に観察されたという報告も行なわれている。
 標準的で堅実な実証分析手法を用いて、興味深い政策インプリケーションを導きだしたものとして評価することができよう。特に、一段階目の線引きの状況が人口密度に与える影響については、おそらく政策実務者などの直感とは異なる結果がもたらされているのではないだろうか。都市的土地利用を促進する市街化区域の面積は、小さいほうが密度は高まり、市街化を抑制する市街化調整区域の面積が大きいほうが、コンパクトな区域に人口や諸活動が集中するように思えるからである。岩田論文の中でも今後の課題として指摘しているが、この結果は線引きの内生性により、慎重に対応することが求められる部分であろう。つまり、潜在的な開発需要を観察することが難しいため、人口密度が高く、開発圧力が強い市町村ほど市街化区域を拡大してきたことが、この実証結果の背景にある可能性は十分にあるのではないだろうか。
 二番目の実証分析については、都市のコンパクト化がCO2の排出抑制に資しているという結果は、直感とも先行研究とも合致したものとなっている。特に村のような人口規模の小さな地方自治体でその効果が大きいというファインディングが、大きな貢献だろう。これは、公共交通機関の不在などが影響している可能性もあるため、それらを考慮することで、この論文の政策インプリケーションをより豊かなものとすることができるのではないだろうか。
(M・N)
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