季刊 住宅土地経済の詳細

No.115印刷印刷

タイトル 季刊 住宅土地経済 2020年冬季号
発行年月 令和2年01月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1リート市場の更なる成長に向けて杉山博孝
座談会2-14働き方改革と暮らし方、住まい方青木由行・安部由起子・安藤至大・菊川航希・中川雅之
論文16-25女性就業と通勤時間の地域差河端瑞貴
論文26-35Value of views からValue of experience の評価に向けて 山形与志樹・吉田崇紘Value of views からValue of experience の評価に向けて山形与志樹・吉田崇紘
海外論文紹介36-39アメニティ需要関数の部分識別石井健太朗
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ノート
本号では、空間的自己相関などを考慮して分析する空間計量経済学の手法を用いた2本の論文が掲載されている。いずれも空間計量経済学の高い表現力とその可能性を示した卓抜した論文である。
河端論文(「女性就業と通勤時間の地域差」)では、東京都市圏における女性の就業率の地域的な特性(空間パターン)を分析し、それが通勤時間とどのような関係があるか、また、その通勤時間との関係が、配偶関係や子供の有無によって異なるか、という観点から考察している。
まず、女性就業の空間パターンは、配偶関係と子供の有無によって違いが生じており、特に既婚女性で子供がいる場合には、労働力率(人口に占める労働力人口の割合)や正規雇用率が高いエリアが、外部郊外部において集積している様子が示されている。
通勤時間との関係を見ると、「既婚男性」や「未婚女性」、「子供のいない大卒既婚女性」の場合には、通勤時間と地域の労働力率の間には有意な関係を見出せないが、「子供のいる既婚女性」の場合には、両者の間に負の有意な関係があり、通勤時間が長くなるほど、子供のいる高学歴の既婚女性の労働力率が低くなるという。
正規雇用就業率と通勤時間の関係で見ると、「未婚女性」や「子供がいない既婚女性」については、正規就業率は通勤時間との間で有意な関係は見られないが、「高卒以下で⚖歳以上の末子がいる既婚女性」を除いて、「子供のいる既婚女性」の正規雇用就業率と通勤時間の間には有意な負の関係が見られるという。
そして、こうした女性の就業の地域的な特性(空間パターン)は、「子供のいる既婚女性」の労働力率および正規雇用就業率のコールド・スポットが、中心業務地区CBD とされる東京都23区への通勤圏内の郊外部に見られ、これらの地域が男性の通勤時間のホット・スポットと重なっているとし、郊外居住によって、父親は都心に長時間通勤し、母親は専業主婦か自宅近くで働く、という性別役割分担が強化されている可能性を指摘している。
働き方改革や女性の積極活用が叫ばれる中、その政策や対策を考える上で河端論文は貴重な現状分析を提示している。ただ、河端論文では子育て世代の郊外居住という居住地選択が、なぜ形成・継続されているのかという点については十分な示唆を与えてくれていない。ホット・スポットやコールド・スポットが生じる要因にまで踏み込んだ分析をぜひ期待したい。

山形・吉田論文(「Value of view からValue of experienceの評価に向けて」)は、都市景観の価値を計測しようとする試みである。マンションの居室からの可視性を指標化することによって、その指標を説明変数に用いたマンション価格のヘドニック分析を適用し、都市景観の価値(Value of view)を測定しようとしている。
ここで山形・吉田論文では、マンションの可視性を、①居室からの見通しの良さ(Open view)、② 視程内の緑地の広さ(Green view)、③ 視程内の海の広さ(Ocean view)の三種類に分類し、さらにそれらの非線形性に留意した分析がなされている。
分析の結果、「見通しの良さ」の指標は、マンション価格に対して非線形性があり、指標の値が低いとマンション価格に負の影響を与えるが、十分に大きくなると急速に正の影響を与えるように変化するという。すなわち、十分な眺望が得られないと、マンション価格に正の影響を与えられない。
「視程内の緑地の広さ」の指標も非線形だが、指標が低い値や高い値ではマンション価格を高める効果がない。すなわち視程内における適度な緑地の存在は、マンションの価格付けにおいて評価されうるが、不足あるいは過分な緑地は評価されない。また、「視程内の海の広さ」の指標については線形性があり、広くなるほどマンション価格を高めることが示されている。
しかし、こういった可視性は、景観の質を評価しているわけではない。そのため、山形・吉田論文では、さらに体験価値(value of experience)をモデル化する試みとして都市街路の歩行環境指標を評価する研究も紹介されている。
山形・吉田論文は、統計的なデータが存在しなくても、さまざまな工夫によってそれを補完しうることを示してくれる点でも興味深い分析である。(H・S)
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