季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2020年春季号
発行年月 令和2年04月 判型 B5 頁数 36
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1多様化する住宅ニーズに応える制度と市場の実現へ山代裕彦
特別論文2-7産業、家族、社会保障の変化と住居の姿橘木俊詔
論文10-17固定資産税と土地利用宮崎智視
論文18-24住宅設備と賃料西颯人・浅見泰司・清水千弘
論文25-31大都市圏から地方圏への移住行動の個人的・環境的要因對間昌宏
海外論文紹介32-35地震リスクと地価の関係三河直斗
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ノート
最近、不動産業界に関する新聞や雑誌の記事で、「2022年問題」と呼ばれる言葉を頻繁に目にするようになった。2022年は生産緑地制度が導入されてから30年が経過し、生産緑地として認められるための営農義務が解除される年に当たる。このため、2022年以降には大量の農地が宅地に転用される可能性があり、それに伴って宅地の大量供給が起こるため、地価の下落など土地市場に混乱を引き起こすことなどが懸念されている。
宮崎論文(「固定資産税と土地利用―1990年代前半の制度改正に着目した実証分析」)は、この生産緑地制度が導入された際の土地利用への影響を分析している。
すなわち、農地に対する優遇措置に対して1990年代はじめに実施された「長期営農継続制度の廃止」と「生産緑地法の改正」という二つの制度変更について、それらが土地の利用形態に与えた影響をDID(Difference in Difference)法を用いて実証的に検証している。
長期営農制度とは、三大都市圏の特定市におけるすべての市街化区域内農地に宅地並み課税を適用する税制改正がなされた際に、990平方メートル以上で10年間継続して農業を営む場合には、この宅地並み課税が免除された制度である。この制度は10年間の期限付きであったため、1992年3月に廃止され、代わりに同年4月からは生産緑地法が改正されて、この生産緑地制度を介して農地の宅地並み課税を回避させる対応が取られた。
生産緑地制度では、農地の所有者が生産緑地を選択すると、その所有者の死亡や疾病等によって農業が続けられない状況が発生した場合以外は、30年間は農地以外への転用が認められなくなるが、それまでの間は宅地並み課税が免除されるというものである。
宮崎論文では、以下のような二つの仮説を立てて、制度変更の影響を捉えようとしている。仮説①長期営農継続制度の廃止によって、三大都市圏特定市において市街化区域内農地が減少する。仮説②減少した市街化区域内農地は生産緑地法の改正の結果、すべてが転用されて宅地化されるわけではない、すなわち、生産緑地法によって転用が抑制される。
この仮説の検証のために、183市の3大都市圏の特定市をトリートメントグループとし、他の318市をコントロールグループとして、1992年を境とするDID 分析がなされている。市街化区域内農地だけでなく、宅地比率や生産緑地を含む一般農地比率も被説明変数とした実証分析も報告されている。
この分析の結果、1992年に市街化区域内農地は有意に減少する一方、宅地への転用は確認されていない。また一般農地は10%水準だが有意に増加しており、その係数の値は市街化区域内農地の係数よりも絶対値が小さいが、かなり近い値が報告されている。
すなわち、市街化区域内農地は減少したが、その大部分は少なくとも1992年にはほとんど宅地化されずに生産緑地として一般農地に参入されたことが示されている。さらに、1992年の前後2期間にトリートメント変数を加えた分析や、そこにさらに都道府県ダミーとタイム・トレンド項との交差項を加えた追加の分析もなされている。これらの追加の分析では、市街化区域内農地は1992年を境に減少し、宅地比率がその後徐々に増加している様子が描き出されている。
以上の分析は過去の制度変更の政策的な評価だけでなく、2022年問題を考える際の重要な基本的情報を提供するものと見ることもできるだろう。

近年、さまざまな分野で従来よりも詳細で大量のデータが入手できるようになり、このことが実証分析の手法や在り方にも大きく影響するようになってきている。西・浅見・清水論文(「住宅設備と賃料―住宅の詳細構造を用いた賃料推定」)は、このような膨大で詳細な不動産情報データを利用して、逆にそれが利用できない場合に生じうる問題を検出しようと試みた論文である。
住宅賃料に関するヘドニック分析においては、住宅特性に関する十分なデータが得られない場合には、その価格付けを適切に反映できない結果、過少定式化バイアスが生じる可能性がある。この点を考慮して西・浅見・清水論文では、詳細な住宅設備に関する情報を用いた分析と、そのような情報(すなわち説明変数)の一部を除いた場合の分析結果を比較して、どのような影響が生じているのかを調べている。
分析では、初めに従来のヘドニックモデルに詳細な住宅設備の情報を加えることで、モデルのフィットの良さが改善するか否かを赤池情報量(AIC)基準に基づいて評価している。これによって、住宅特性を加えることで、モデルの予測精度が改善することを示しており、特に、Full Model(分析で用いられているすべての説明変数を加えたモデル)で、その精度が最も高まることを確認している。
そのうえで、住宅設備の変数が除かれている場合に、他の変数の係数の推定値がすべての変数を含めたモデル(Full Model)の係数の推定値を基準として、その95%信頼区間に入らない場合に、推定値にバイアスが発生していると解して、過小定式化バイアスの存在を検証している。その際、①どの変数が欠けると他の変数に影響を与えるのかという観点と、②どの変数がバイアスを生じやすいのかという二つの観点で分析を整理している。①の変数としては所在階、専有面積、築年、RC/PC、オートロック、コンロ二口以上といった変数があげられ、②の変数としては専有面積と東京距離があげられている。
ただ、①の各変数が欠けるとどの変数にどのような方向にバイアスを生じさせるのか、また②については、どのようなバイアスが生じやすいのかという点などの説明はほとんどない(唯一、オートロックが説明変数から除かれると東京距離の係数にバイアスを生じさせることが説明されているが、どの方向に生じているのかも明らかにされていない)。より詳細な分析の報告とバイアスが生じた原因についての具体的な考察がなされれば、論文全体の有用性がもっと高まるように思われる。

居住地として大都市を選択する人と地方圏に転居する人との間には、どのような違いがあるのだろうか。對間論文「大都市圏から地方圏への移住行動の個人的・環境的要因」は、関東圏のデータを用いて大都市圏から地方圏への移住をもたらす環境的要因とそれを選択した人の個人属性を捉えようとする試みである。
この目的のために論文では、以下の4つの仮説を設定したうえで分析している。①大都市圏と地方圏において移住行動に影響する地域的な環境要因が異なる。②大都市圏から地方圏に移住する人と移住しない人で個人属性に違いがある。③過去に訪れた地域に愛着を感じて移住が促進される。④年代ごとに移住要因が異なる。これらの分析で用いられたデータは、地域的な環境要因については政府統計を用い、個人属性については関東地方全域に居住する大都市圏出身者を対象としたインターネット調査が利用されている。
仮説①については、市区町村の社会的な人口の増減(転入数-転出数)について、都市圏では結婚率と事務所数が統計的に有意に正の相関がある。他方、地方圏では事務所数や一次産業事務所率が有意に負の相関を持ち、第三次産業事務所率、結婚率、平均世帯人数が有意に正の相関があるとしている。
内生性がコントロールされていないため、環境的要因と理解するよりは、人口増(あるいは減)との相関が高い変数を示しているものとして解釈したほうが適切な理解が可能になるようにと思われる。例えば、結婚率が高い地域に移住しているわけではなく、結婚を機に移住する人が多い結果、人口増加地域で結婚率が高くなるという解釈のほうが自然なように思われる。また第三次産業が地方圏の社会的な人口増加に寄与しているとされるが、むしろ人口が流入している地域に第三次産業が進出している効果が捉えられているかもしれない。
仮説②では、大都市圏から地方圏に移住する世帯では、結婚しておらず、土地も所有していない世帯が移住する傾向が強いとし、その世代別分析(仮説④)では10代では学生が、20代以上のすべての世代では結婚していない人が、30代以上では子供のいない世帯の移
住が有意に正となっている。また仮説③については、過去に訪れた地域への愛着が強い人ほど移住していることが示されている。
全体に素朴な統計的分析に基づいており、要因分析として解釈するにはいっそうの分析上の工夫が必要なように思われるが、東京圏周辺での転居状況と社会的、経済的背景を観察するうえで意義のある情報を提供してくれる。なお、對間論文では「移住行動」の分析としているが、通勤圏内の転居も多いように思われ、「移住行動」というよりは「転居行動」と呼ぶほうが相応しいかもしれない。その点では文面上の表現なども、少し修正されるべきかもしれない。
(H・S)
価格(税込) 786円 在庫

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