季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2021年春季号
発行年月 令和3年04月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1プロの目線毛利信二
特別論文2-7立地適正化計画によるエリア価値の変化と空家対策の推進策島田明夫
論文9-15空間無条件分位点回帰モデルによるコインパーキングの価格競争の 分析瀬谷創・カイ アクスハイゼン・力石真
論文16-23縮小都市の住宅市場鈴木雅智・浅見泰司
研究ノート24-28住宅ローン減税制度の変遷と需要者支援効果に関する研究浅田義久・行武憲史
海外論文紹介29-32ルームシェアビジネスモデルは住宅市場を混乱させるのか?金井田結香
追悼33-39山崎福寿先生 人と業績金本良嗣・瀬下博之・浅田義久・井出多加子・原野啓・定行泰甫
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 愛犬との散歩時によく、空き地や空き家、新しいコインパーキングを発見する。見つけるたびに「あれ?前は何が建っていたっけ?」としばし立ち止まるがなかなか思い出せない。空き地や空き家は都心、郊外にかかわらず多くみられ、コインパーキングも住宅街にたくさん出現している。
 瀬谷・アクスハイゼン・力石論文(「空間無条件分位点回帰モデルによるコインパーキングの価格競争の分析」)は、広島市のコインパーキングの価格について、価格帯、時間帯と、空間的自己相関の関係を分析した論文である。論文のタイトルにもあるように、この研究の貢献は、分析の方法として空間自己相関を考慮した、無条件分位点回帰モデルを用いている点である。日本のコインパーキングは、平日と休日、昼間と夜間で価格が変わり、その地域での需要をよく反映した価格設定になっている。また、狭い範囲に多くのコインパーキングが存在し、距離と価格の関係をみるのには都合がよい。
 通常の分位点回帰は、説明変数Xが与えられた時の被説明変数Yの分布の90%点、50%点、10%点といった異なる分位点での傾きを別々に比較する。あるX-Y散布図を想像し、回帰直線を、分布の上のほう、真ん中、下のほうに引いたときの傾きを比較するイメージである。
 しかし、例えば横軸Xを教育年数、縦軸Yを所得とすると、実際の散布図を描くと、左の教育年数の短いところには所得の低い層がかたまっており、右の年数の長いほうには所得の高い層が固まっている。このような時の、上のほうと下のほうの直線の傾きの差は、所得の高い層と低い層の違いではなく、各所得階層の中で相対的に高い人と低い人の差をみているに過ぎない。これが、この研究の醍醐味である「(90%点における通常の分位回帰は)“over-priced”な駐車場における効果を意味するため」政策的含意を引き出せない、という指摘につながる。

 鈴木・浅見論文(「縮小都市の住宅市場:空き家機関の長期化と市場からの撤退」)はさまざまな事情による空き地や空き家の現状を、経済理論の枠組みで整理した論文である。冒頭、空き家に関する研究を2種類に分類している。1つは住宅市場におけるマッチングがうまくいかない場合におこる一時的な「市場空き家」に関する研究、もう一つは「利用・管理・所有権の放棄」がなされた空き家に関する研究である。本研究はこれら2つを結び付け、空き家である期間が長期になり、そして市場からの撤退へと向かう過程の理論的枠組みの構築を行なっている。
 住宅処分を急ぐために住宅の留保価格を低くしている売り手Lと、留保価格が高く、市場での本来の価値で売りたい売り手Hの2タイプを想定している。
 このような設定の下、撤退へのプロセスをHの住宅に導入し、Hの物件は、買い手がいればすぐに売買成立するが、Hを購入したい買い手が少ないと、維持管理期間が長期化してしまい、市場から撤退してしまう。市場から撤退するかどうかは、Hに対する買い手・売り手比率できまる。
 また需要面の縮小と市場からの撤退を、空き家率、市場撤退率、市場流動性指標の3つの値から説明している。Hの住宅は、需要が小さくなると、空き地・空き家として市場に滞留している期間が長くなり、その結果、維持管理コストがかさみ、市場から撤退する。すると需要が小さくとも、滞留しないLの住宅が相対的に多くなり、市場全体では流動性が高くなる。しかし、Lもただちに売却できない可能性は実際には多くある。Lの住宅の量がさらに多くなってしまった場合や、住宅の質を考慮した場合である(LとHのどちらの質が良いのか)。この点は今後の課題であろう。

 市場から撤退し、利活用されることがないいわゆる「その他空き家」、あるいは低未利用地の増加が日本でも問題になっている。この低未利用地には屋外駐車場(コインパーキング)も含まれる。
 今回の2つの論文が扱う、都市内の空き地・空き家、そしてコインパーキングの増加は都市のスポンジ化にみられる現象で、都市の低密度化に対する自治体の対応策、予防策の方向性を決めるために大きく貢献できる研究である。具体的な政策提言に結び付くさらなる成果が期待される。
(H・Y)
価格(税込) 786円 在庫

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