タイトル | 季刊 住宅土地経済 2021年秋季号 | ||||
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発行年月 | 令和3年10月 | 判型 | B5 | 頁数 | 40 |
目次 | 分類 | ページ | テーマ | 著者 |
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巻頭言 | 1 | アフターコロナ時代の不動産流通を見据えて | 伊藤公二 | |
特別論文 | 2-7 | 日米の不動産・住宅価格の動きの比較とコロナのもとでの現状分析 | 吉野直行・永井秀樹 | |
論文 | 10-18 | 生態系保全を考慮した最適土地利用政策 | 吉田惇・河野達仁 | |
論文 | 19-27 | 家計の居住用不動産が株式保有に及ぼす影響 | 祝迫得夫・小野有人・齋藤周・徳田秀信 | |
論文 | 28-35 | 住宅価格関数の「幻想」と市場分割アルゴリズム | 西颯人・浅見泰司・清水千弘 | |
海外論文紹介 | 36-39 | 中国都市部における名門小学校の不動産価値 | 黒田雄太 | |
内容確認 | 未公開 | |||
エディ トリアル ノート | 国連によると、1960年の世界人口のうち都市に住んでいた人の割合は約34%であった。2007年に初めて50%を超え、2018年には55%、そして2050年には68%に達すると予測している。都市居住人口に比例して都市が膨張し続けるとすれば、野生動物たちの棲む場所が減っていく。それに伴い、人が野生動物と接する機会も増える。 『ナショナルジオグラフィック』のレポートによれば、野生動物の中には都市での生活のほうが適している、あるいは快適と考える種もいる。また、都市で生活している野生動物のほうがより賢いという実験結果もあるようだ。人類にとって野生動物との共生は重要な問題となっていくだろう。 吉田・河野論文(「生態系保全を考慮した最適土地利用政策」)は、Alonsoの都市経済モデルに、自然地域に棲む生物の空間行動モデルを統合させた理論モデルを用いて、都市と自然地域の2つのゾーンについて、生物保全のための土地利用政策を分析したユニークな研究である。 彼らの想定している都市は次のようなモデルである。線形の閉鎖都市の住宅地の外側に自然地域を設定する。自然地域には3種の生態系、植物、草食動物、肉食動物が存在している。肉食動物も草食動物も子をより多く残したいと考えている。 肉食動物は住宅地に人間が出す食物を餌として探しに行き、同時に住宅地の外の自然地域の草食動物を餌として捕らえる。住宅地に入れば、人間に駆除される危険があるため、できるだけ駆除されることを避けながら行動する。人間の出す食物を探すのか、草食動物を狩りに行くのかは、双方の存在密度に依存する。 一方、草食動物は自然地域から出ることはなく、自然地域で植物を食べている。草食動物にとってのリスクは、自然地域に入ってくる肉食動物である。彼らに捕獲されることを避けて行動する。 では人間はどのような行動をとるのであろうか。モデルでは、人にとっては都市内に肉食動物が侵入してくることがリスクであり、それらのリスクは警報システム等、撃退対策により軽減される。一方で自然地域での動植物の生態系、つまり自然の営みから幸せも感じている。 このような設定の下、都市内に居住する人間は、付け値地代の最大化を行ない、肉食動物や草食動物は、子をより多く残すために、どこで餌をとるのか、あるいはどれだけの時間を餌探しに割くのかを決定している。このような行動により、2種類の動物が、それぞれ各地点にどのくらい滞在しているのかが決まる。 均衡土地利用はどのようになるのか。まず肉食動物の滞在時間密度は、都市と自然地域の境界からCBDの間の途中にピークをもつ分布になる。CBDに近づくにつれて人間が出す食物が手に入りやすくなる一方で、駆除される可能性も高くなるからである。都市面積は、動物被害がある都市ほど付け値地代が下がるため小さくなる。そして草食動物と肉食動物の自然地域での分布は、肉食動物が効率的に草食動物を狩ることができるよう、自然地域一帯でどちらも均一に分布することになる。 最後に住民効用総和の最大化を考えた最適な土地利用政策の議論をしている。1つ目は植林や伐採による草食動物の餌の密度の調整、2つ目は自然地域の面積を調整することによる動物の個体数や植物の面積の調整である。 具体的な政策方法が、ベーシックな生態系モデルで示されている研究である一方で、現実の動物の被害は、人に直接的な危害が及ぶ場合、田畑が荒らされる場合、ふん害、ごみが荒らし等による住環境の悪化など非常に多岐にわたる。また自然地域の規模やその価値もさまざまである。その地域の現状に合った議論が実際には必要であろう。 ◎ 祝迫・小野・齋藤・徳田論文(「家計の居住用不動産が株式保有に及ぼす影響」)は、持ち家(居住用不動産)所有が、家計のポートフォリオにどのような影響を及ぼすかを実証した研究である。彼らによれば、日本の家計が保有するリスク資産の割合は欧米のそれに比べて非常に少なく、現預金の割合が非常に高い。その理由をさぐる研究は多くあり、その中の1つに持ち家の所有が、家計のリスク資産投資を抑制しているというものがある。彼らの研究はこの点について日本のデータを用いて分析している。 なぜ居住用不動産を所有すると、リスク資産の保有(株式シェア)が抑制されるのであろうか。先行研究より得られている理由は、1つには居住用不動産の価格変動リスク、2つ目は住宅ローンで長期的に一定のかなりの支出が発生し続けるということ、3つ目は居住用不動産の分割不可能性・非流動性がリスク回避的な行動を促す点である。 また彼らが参考にしている理論モデルにおいては、居住用不動産の価格の上昇は3つの経路を通じて株式シェアを低下させるとしている。第1は価格上昇により、価格変動リスクをもつ居住用不動産のシェアが増えることで他のリスク資産への投資が減ってしまう、2つ目は非流動的な資産割合が増えることになるため、株式シェアが抑制される、第3は住宅価格の上昇は住宅ローン負担の増加と同義であるため、株式シェアが抑制される、である。これらを筆者らは「リスク効果」と呼んでいる。 リスク効果とは別に彼らが「資産効果」と呼ぶ、住宅価格が一定であるときにホームエクイティ(住宅価格-住宅ローン)の影響を別に取り出して分析している。 彼らが日本のデータに応用した研究結果からは、家計の保有する居住用不動産が株式シェアを抑制するという傾向はみられていない。一方で、居住用不動産に係るリスクが、住宅ローンの返済を促す効果がある、という結果を得ている。 戦後、日本経済を立ち直らせるために、政府は住宅政策に力を入れ、住宅金融公庫による住宅ローン供給もスタートさせた。その結果、戦後の持ち家比率は急激に増加し「夢のマイホーム」を手に入れるための人生すごろくを必死に走った。このような日本特有の時代背景を重ねて考えると面白い。 ◎ 都市内の土地利用パターンを決める最も重要な概念が、付け値地代である。都市経済学において最もポピュラーな理論であろう。西・浅見・清水論文(「住宅価格関数の「幻想」と市場分割アルゴリズム」)は、この付け値地代曲線に関する研究である。 この付け値地代の理論を用い、地価や住宅価格をさまざまな特性に回帰させることで、それらの属性の価値をあぶりだすヘドニック・アプローチは、本誌でも最もよく紹介される分析手法の一つであろう。 彼らの研究は、この地代曲線の推定の際に、線形回帰モデルや非線形回帰モデルを適用することは、市場の住宅価格の分布を複雑な関数形を用いることでうまく回帰できているようにみえているだけで(「幻想」と彼らは呼ぶ)、実際には存在しないような特性の住宅価格の予測をしてしまっているとし、その解決策として市場分割法を提案している。 彼らがあげているこの問題の例を示そう。駅までの距離と住宅価格の関係を見る場合、一般的には駅近のほうが価格は高くなるが、実際にそれが当てはまるのは単身者向けの住宅で、ファミリー向けであれば、駅近が高い一方で、郊外の住環境の良さにひっぱられてより郊外に向かっても高くなるU字型の関係になる。このことは、ある駅からの距離に対して2つの価格が存在することになり、住宅特性と価格の対応が1対多になっている。このようなことが事前に予測される場合はそれらが反映されるモデルを構築できるが、実際には外生変数が多く、このような関係を完全に描写しきれず、特性と価格の1対1対応が仮定された推定モデルで分析をしてしまう。 解決方法は、市場分割法によるものである。価格と特性との対応関係を複数の線形関数に区分して近似する方法である。彼らが具体的に分析を行なった世田谷区の賃貸住宅市場の場合、8つの線形関数が推定された。例えば空間的に近いエリアであっても、バスとトイレが別になっている浴室を好まないエリアとそうでないエリアがあったり、住宅設備への関心が小さい単身世帯が多いエリアであったりと、係数値の大きさから解釈されるより細かいエリアが線形関数で複数導出される。欠落変数をうまく見つけ出し、それが当てはまる区分を細かくあぶりだしているようでもある。ただ、それぞれのエリアに対して、立地選択の際の居住者の選好や行動から本当にそのエリアの需要が説明できるのかどうかはみる必要があるのではないだろうか。(H・Y) |
価格(税込) | 786円 | 在庫 | ○ |
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