季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2023年春季号
発行年月 令和5年04月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1寒いお風呂塩見英之
特別論文2-9日本の住宅問題、不動産市場の「歪み」を考える浅田義久
論文10-19混雑税、炭素税、最適容積率規制が都市のCO2排出に与える長期的効果土門翔平・広田真由・河野達仁・馬奈木俊介・松木佑介
論文20-27企業向け貸出のプロシクリカリティとマクロプルーデンス政策小野有人/内田浩史/グレゴリー・F.ユーデル/植杉威一郎
論文28-35住宅市場のリスクとリターン P. S. モラワカゲ/ J. アール/ B.リウ/ E. ロカ/小村彰啓
海外論文紹介36-39不動産価格における波及効果矢島猶雅
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季刊 住宅土地経済 2023年春季号 №128
エディトリアルノート

 今号は不動産市場に影響を及ぼす政策や住環境要素の分析上の注意について考察した3本の論文を掲載している。混雑税や炭素税等が都市活動に及ぼす影響について都市モデルを用いてシミュレーションで分析した論文、日本のバブル期前後を含む期間においてマクロプルーデンス政策が企業向け貸出に及ぼす影響について分析した実証論文、そして、住宅市場全体を一つとして捉えた分析では得ることができない知見をサブマーケットで分析して、住宅市場のリスクとリターンの関係を分析した実証論文である。

 地球温暖化は感染症の蔓延などの予測不可能なさまざまな災害を引き起こす世界的な問題であり、その対策が喫緊の課題である。地球温暖化対策計画(2021年10月22日閣議決定)では、日本は2021年4月に表明した「2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けること」という新たな削減目標も踏まえて、「二酸化炭素以外も含む温室効果ガスの全てを網羅し、新たな2030年度目標の裏付けとなる対策・施策を記載して新目標実現への道筋」を描くとしている。そのためには幅広い分野において努力が必要であることは論を俟たない。
 土門・広田・河野・馬奈木・松木論文(「混雑税、炭素税、最適容積率規制が都市のCO2排出に与える長期的効果」)は、都市レベルの視点から温室効果ガスの対策を検討している。通常、大量のCO2を排出しているのは産業活動であると指摘されるが、都市活動(住宅内のエネルギー消費や交通など)も大量にCO2を排出していることが知られている。国土交通省によると、日本全体の総CO2排出量のうち、住宅内のエネルギー消費による排出が約14%、自家用車の使用からの排出が約12%である。
 都市政策によるCO2排出の削減に有効な政策はいくつかある。例えば、炭素税は住宅内のエネルギーや交通燃料の消費を減少させるとともに、都市住民の空間的分布を変化させることで総交通距離を削減し、さらに交通燃料の消費を減少させる。同様に、道路混雑に対する混雑税や土地利用規制も、都市住民の空間分布の変化を通じて交通および住宅内のエネルギー消費におけるCO2排出量を削減することができる。
 しかしながら、各政策によりCO2排出が削減されても社会厚生が減少しては意味がない。この論文では、この点に着目して土地利用とエネルギー利用の長期的関係を考慮するため、各政策の評価について、都市モデルを用いてCO2排出量と社会厚生の両面から検討している。
 その結果として、⒤混雑税や炭素税、容積率規制は社会厚生とCO2排出削減に異なる水準の良い影響を与えること、(ⅱ)混雑税が社会厚生とCO2排出削減の観点から非常に効率的であること、しかし、(ⅲ)地代収入や税収の分配で消費される合成財の生産によるCO2排出増加が住宅内エネルギーと通勤におけるCO2排出の削減を上回る大量のCO2が発生することなどの結論を得ている。
 また、都市活動レベルで見たCO2排出削減の都市政策は有益であるが、産業活動を含めたマクロレベルでは課題が残ることを示し、CO2排出技術の発展には長い期間が必要と思われるため、短期的にはCO2排出の観点から税収の使い道を探ることも重要であると指摘している。
 この論文は、CO2排出の削減問題の検討には異なるレベルの産業活動と都市活動を重ね合わせた検証が必要であることを示し、住宅・土地経済にも大きな影響を持つことを示した。この観点から、本研究の今後のさらなる発展に期待したい。

 2008年の世界金融危機の端緒となったリーマン・ブラザーズの破綻以降、金融システム全体のリスク分析とシステミックリスクの顕在化防止に向けた施策が重要であるとの認識が国際的に広く共有され、マクロプルーデンス政策が重視されている。マクロプルーデンスとは金融システム全体の安定を確保する考え方であり、ミクロプルーデンスとは個々の金融機関の健全性を確保する考え方である。日本では、金融安定理事会(FSB)が整理するような指標に基づいて金融機関の行動に制約をかけるマクロプルーデンス政策は行なわれていないが、もしもバブル期前後を含む期間にこの政策が導入されていたとしたら、どのような貸出に政策が適用されていたのかという点の検証は政策の有効性を評価するうえで意味がある。
 小野・内田・ユーデル・植杉論文(「企業向け貸出のプロシクリカリティとマクロプルーデンス政策」)は、1975~2009年の日本の不動産登記簿から作成された大規模なマイクロデータを用いて、マクロプルーデンス政策に多く用いられる指標の一つであるLTV(Loan-to-value)比率を、企業向け貸出について算出し、LTV比率が高い企業のパフォーマンスを検証し、マクロプルーデンス政策としてのLTV上限規制の意義を論じている。
 この論文では、⒤1980年代後半から1990年代前半を含む時期ではLTV比率が景気や不動産市況と順相関ではなく逆相関であること、(ⅱ)高いLTV比率で貸出を受けた企業は、低いLTV比率で貸出を受けた企業よりもリスクは高いが高い成長率であることなどの結論を得ている。また、同じ結論は業務用不動産を購入することが多い不動産業や建設業向け貸出に限定した分析でも得られている。
 さらに、この論文はLTV比率の上限が課された場合に、その上限が一定のままではバブル期前後の時期にはマクロプルーデンス政策による規制の対象となる貸出が減少するだけでなく、LTV比率の上限に従ってマクロプルーデンス政策を講じると、リスクは高いが高い成長が見込まれる企業への貸出を阻害する可能性があることを示唆している。
 そして、これらの分析結果を踏まえると、バブル期におけるLTV比率の上昇が日本における金融危機の前触れとなったとは言い切れず、バブル期の不動産担保付貸出が全体に占める比率の上昇、あるいはバブル崩壊期の資産価格の下落時にもかかわらず高いLTV比率で貸出が行なわれたことが要因かもしれないと指摘している。
 いずれにしても、現在の日本では不動産担保を用いた企業向け貸出の割合は中小企業向けを中心に低下傾向にあり、この変化が金融システムの安定性にどのような含意を持つのか、今後も注目することが重要である。この観点から、本研究の今後のさらなる発展に期待したい。

 住宅は多くの人々にとって使用面だけでなく資産面からも重要であると同時に、投資家にとっても投資対象として重要な資産である。このため、住宅投資のリスクおよびリターンを精緻に試算できるモデルの構築は、投資家や研究者を含めた利害関係者にとって有益である。これまでの研究では、犯罪率や人種分布、周辺施設の有無や種類、空き家や騒音公害などの住宅周辺のローカルな住環境を構成する要素が、住宅資産市場の価格や取引に大きな影響を及ぼしていることがわかっている。
 モラワカゲ・アール・リウ・ロカ・小村論文(「住宅市場のリスクとリターン」)は、住宅市場におけるリスクとリターンの関係を精査するため、市場を小さな空間単位に分割したサブマーケットを対象として、空間的依存および不均一性を踏まえて分析している。具体的には、オーストラリアのクイーンズランド州都を中心とする広域ブリスベン圏の住宅市場を対象とし、郵便番号を空間単位に用いて分析している。先行研究の多くは、時系列モデルを用いて、マクロ経済関連だけでなく、住宅固有のリスク要因も住宅資産のリスクとリターンに影響を与えることを明らかにしているが、その結論が空間的差異に基づく内生性に起因している可能性を考慮していない。
 そこで、この論文では、パネル分析手法の一つであるAugmented Mean Group推定法を用いて、分析の精緻化を試みている。その結果、⒤で、イディオンシンクラテックリスクを過小評価すること、(ⅱ)低価格住宅はリスクの影響を受けにくいこと、(ⅲ)異常損失は地理的影響や直接観測できない共通要因の影響で生じることなどの結論を得ている。
 この分析結果を受けて、この論文では、より精緻な結論や示唆を得るために、住宅市場を価格帯別や空間単位のサブマーケットの集合体として捉えることが重要であると指摘している。この観点から、本研究の今後のさらなる発展に期待したい。(F・T)
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