季刊 住宅土地経済の詳細

No.24印刷印刷

タイトル 季刊 住宅土地経済 1997年春季号
発行年月 平成9年04月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言長期的な計画や政策の立案について高木丈太郎
特別論文将来世帯数推計とその評価大江守之
研究論文商業地不動産投資の意思決定過程I西村清彦・村瀬英彰・前川俊一
研究論文固定資産税の軽減措置と住宅床面積需要の関係瀬古美喜
研究論文住宅市場のBeveridge Curve竹田陽介
海外論文紹介単一都市形成の条件白井誠人
内容確認
PDF
バックナンバーPDF
エディ
トリアル
ノート
 日本の企業が、不動産投資にあたって、どのような「計算」をしているのかについては、システマティックな調査は存在しなかった。
 西村・村瀬・前川論文は、商業不動産への投資について、生命保険会社と不動産会社を対象として行なったアンケート調査の結果を報告しており、日本企業の不動産投資行動に関する貴重な情報を提供している。特に、いわゆるバブル期の1989年頃とバブルの崩壊後の1995年の状況を比較している点が、読者の興味をひくところであろう。
 この調査の第一のテーマは、不動産投資の目的がバブルの崩壊後に変化したかどうかである。不動産の保有意識については、バブルの崩壊後に変化があったとする企業がほとんどである。保有意識の変化の主たるものは、不動産のキャピタル・ゲイン神話がなくなったことである。
 したがって、不動産投資の目的がキャピタル・ゲインからインカム・ゲインに変わったことが予想されるが、この予想は生命保険会社については裏切られている。生命保険会社の場合には、不動産投資の目的は、安定収益の確保、分散投資、含み資産の保有・インフレヘッジであり、バブルの前後でほとんど変化していない。
 不動産会社の場合には、バブル前後で変化がみられる。バブル前には、含み資産・インフレヘッジと節税を投資目的にあげていた企業が多かったのが、バブル後にはほとんどみられなくなっている。これは地価上昇によるキャピタル・ゲインの見込みがなくなったことを反映していると考えられる。
 調査の第二のテーマは、投資決定基準である。経済学の教科書におけるスタンダードな投資決定基準は、将来収益の割引現在価値を用いるものである。不動産投資においては、この基準はディスカウンテッド・キャッシュフロー(DCF)法として知られている。日本の企業の実際の投資決定においては、この方式は一般的であるとはいえない。ただし、DCF法を採用する企業数は少しずつ増加している。1989年調査では、DCF分析を採用している企業は、調査対象の14社の中で生命保険会社1社だけであった。これに対して、現在では、生命保険会社が9社中4社、不動産会社が49社中5社に増加している。また、今後の投資決定基準としてDCF法を採用しようと考えている企業は生命保険会社で3社、不動産会社で9社存在している。
 DCF法を採用していない企業では、回収期間、黒字転換・累積赤字解消時期、利回りなどに着目した古いタイプの基準が用いられている。また、これらの投資基準についても、実際の投資決定においてどの程度の役割を果たしていたのかは疑問である。生命保険会社については、投資決定基準を考慮するものの、他の要因も勘案して意思決定する企業が多い。不動産会社はもっと極端で、投資決定基準には重きを置かず、経営戦略の中で投資の意思決定をすると答えた企業が3分の1以上あった。
 これらの調査結果からうかがえるのは、今までの不動産投資においては、キャピタル・ゲインの期待が大きな影響力をもっていたがそれがシステマティックな形で評価されてこなかったことである。アメリカではファイナンス理論の発展の余波が不動産投資にも及んできており、投資決定におけるソフィスティケーションが進んでいるようである。この面での日本企業の遅れが懸念される。
 
 第二の瀬古論文は、新築住宅に対する固定資産税の優遇措置を取り上げ、それが住宅の床面積の選択に及ぼしている効果を実証的に分析している。
 現行の固定資産税制においては床面積が40m2以上200m2以下で、1m2あたりの固定資産税評価額が一定額以下の新築住宅は、固定資産税の減額を受けることができる。一般の住宅については新築後3年間にわたって(中高層耐火建築住宅については5年間にわたって)固定資産税が2分の1になる。なお、住宅の床面積が120m2を超える場合には、120m2までの部分が減額の対象になる。
 このような優遇措置は、それがない場合と比較して、?優遇措置が頭打ちになる120m2以下の床面積では、住宅建設単価が実質的に低下するので、床面積が広くなる、?優遇措置を受けることができない40m2以下および200m2以上の住宅を減少させ、40m2以上200m2以下の住宅を増加させる、といった効果をもつ。瀬古論文では、住宅需要実態調査の個表データを用いて、住宅床面積の需要関数を推定的に計測しており、以下の3つの結論を得ている。(1)減額措置がなくなると、床面積需要は全体で4.5%減少する。(2)優遇措置を廃止し、そのことによる税収の増加分を住宅建設者に還元すると、住宅建設者の効用は増加し、その増加分は一戸当たり5,900円である。(3)狭いが質がよい高額な住宅に居住している比較的裕福な世帯については、減額措置が廃止されると床面積が増加する。
 著者も指摘しているように、新築住宅の優遇措置で床面積に依存するものには、固定資産税の減額措置以外に、不動産取得税、登録免許税、住宅取得促進税制、住宅金融公庫の低利融資等が存在する。この論文ではこれらの優遇措置を考慮に入れていないので、固定資産税の減額措置の効果が過大に推定されている可能性が大きい。特に、減額措置がなくなると床面積需要が4.5%減少するという結論は現実離れしているようにみえる。
 固定資産税の減額措置による実質的な補助額はあまり大きいものではない。たとえば、2,000万円の建設費の住宅の固定資産税評価額は約半分の1,000万円程度である。したがって、固定資産税率を1.4%とすると、減額措置がなければ固定資産税は14万円であり、減額措置によって7万円となる。この優遇措置を3年間(中高層住宅の場合には5年間)受けることができるので、実質的な補助額は(金利を0%とすると)21万円(中高層住宅の場合には35万円)となり、住宅建設費の1%から2%程度に過ぎない。この程度の優遇措置が床面積需要を4.5%も増加させるとは考えにくい。
 固定資産税の優遇措置が20万円から30万円程度であるのに対して、住宅取得促進税制による所得税の減額は最高160万円にも達する。また、不動産取得税の軽減額は最高30万円である。さらに、住宅金融公庫の低利融資による実質的な補助は100万円から200万円にも達している。日本の住宅優遇制度は多種多様なものが入り組んでいるので分析が難しいが、著者の今後の研究に期待したい。
 
 第三の竹田論文は、労働市場の失業と求人の関係に関して開発されたベヴァレッジ・カーブの分析手法を住宅市場に適用して、興味深い分析を行なっている。
 ベヴァレッジ・カーブの理論の特徴は、需要と供給のマッチング・プロセスを考慮し、適当な供給者をみつけられない需要者と適当な需要者をみつけられない供給者の双方が同時に存在する可能性を考えていることである。
 竹田論文は、この考え方を住宅市場に適用し、現状の住宅に不満を抱いていて新しい住宅に移りたいが、条件にあう住宅がないという超過需要と、居住可能であるのに空き家になっている住宅があるという超過供給とが同時に存在していると考える。そして、不満世帯Uが多く、空き家?が多い場合には、需要と供給のマッチングが起きる確率が増加するというマッチング過程を想定している。
 ベヴァレッジ・カーブ理論のもう一つの構成要素は、住宅が老朽化して居住不可能になる確率と居住不可能な住宅が補修されたり建て替えられたりして居住可能になる確率を考えることである。これらの仮定から、住宅の腐朽破損・補修改築のプロセスがマルコフ過程としてモデル化される。
 竹田論文では、住宅統計調査のデータを用いて、マッチング過程と腐朽破損・補修改築過程のパラメータを推定し、ベヴァレッジ・カーブを求めている。主要な結論は、(1)住宅のマッチング関数が有意に推定される。(2)超過供給の増加のほうが超過需要の増加よりもマッチングの増加に大きく貢献する。(3)賃貸住宅情報誌の存在や確定期限付き建物賃貸借権の設定、高齢者用住宅の整備の遅れがミスマッチに正の効果を持っていた。(4)ベヴァレッジ・カーブの変動要因のうち、第一次石油ショックまでは公共賃貸住宅の増加によるショックが支配的であったが、それ以降は、おもにマッチング過程における負のショックから影響を受けるようになった、ことである。ただし、(3)と(4)の結論についてはその統計的検証はなされていないようであり、今後の研究課題が残されている。(K)
価格(税込) 750円 在庫

※購入申込数を半角英数字で入力してください。

購入申込数