季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 1999年春季号
発行年月 平成11年04月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言住宅政策の基本課題那珂正
特別論文市街地住宅再開発と土地市場の活性化岩田規久男
研究論文期限前償還とコール・オプション・プレミアム岩田一政・服部哲也
研究論文不動産価格の過剰反応西村清彦・渡部敏明・岩壷健太郎
研究ノート権限委譲の経済学坂下昇
海外論文紹介合衆国都市圏における住宅価格、外部性および規制齊藤裕志
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 岩田一政・服部哲也論文(「期限前償還とコール・オプション・プレミアム」)は、住宅金融公庫融資の期限前償還リスクについて、オプション理論を用いて分析を行っている。1994年7月に金融機関の金利が自由化されたため、民間金融機関による新しい住宅ローンの開発が進んだ。近年の短期金利の低下によって、民間住宅ローン金利が住宅金融公庫の固定金利を下回るようになり、住宅金融公席の借入を満期前に返済(期限前返済)し、民間金融機関の変動金利住宅ローンに乗り換える現象が発生した。
 オプション理論から見ると、住宅ローンは、毎月一定額を返済し、将来のあらかじめ定められた返済日(満期日)にロ?ンを返済する先物契約である。また、住宅ローンの借り手は、満期日の前に、将来債務返済の義務と引換えに、いつでも住宅ローンを買い戻す(期限前償還する)権利をもっている。よって、住宅ローンはコールオプション付きの債権であり、住宅ローン市場における期限前償還のオプションプレミアムは、コール条項付きスワップのプレミアムとして解釈することができる。また、借り手が住宅ローンの返済ができずに債務不履行に陥った場合には、残存する住宅ローン元本で、購入した住宅(時価評価)を銀行に売却することができるプットオプション付きの債権でもある。
 本論文の目的は、住宅ローンのデフォルト(債務不履行)と期限前償還という選択(オプション)を考慮すると、住宅ローンのオプション調整後の価値がどのようになるかを求めることである。ただし、デフォルトによって金利や元本支払いが停止された場合でも、政府保証があれば期限前償還の場合と同様の扱いをすることができる。さらに、借り手が転居や転職などの理由から、住宅ローンの返済期限以前に返済を完了する場合も扱っており、住宅ローン価値が返済期限前に消失するケースも導出している。この場合には、期限前に住宅ローンが償還されるリスクがどの程度の確率で発生するかを仮定する必要があり、(1)ポワソン過程に従うと仮定する場合と、(2)条件付期限前償還率を計測する場合の二つについて分析している。
 住宅金融公庫の「任意繰上償還額」は1995年度には9.9兆円にも達している。住宅金融公庫など公的な融資については、より金利の低い公的融資への借換えが認められていないが、民間住宅ローンでも、より低い金利の住宅ローーンヘと借換えが発生している。また、住宅金融公庫では、1982年10月に導入された段階金利制度(11年目以降にはより高い金利が適用される制度)があり、財政負担を抑制することにはなるが、借り手の期限前償還を促進する仕組みともなっている。
 導出されたコール・オプション・プレミアムは、(1)初期の金利水準が高く、満期までの期間が長いほどプレミアムは大きい、(2)初期の金利水準が低い場合には、オプション・プレミアムはほとんどゼロとなっている。
 財投改革によって、住宅金融公庫は従来のように郵便貯金・簡易保険・年金に原資を頼らず、2001年からは、市場からの資金調達(財投機関債・政府保証債・財投債のいずれか)に向かおうとしている。今後の公的住宅金融の金利設定にあたっては、本論文で試算されたオプション・プレミアムを上乗せした金利の設定が必要であると思われる。
 
 西村清彦・渡部敏明・岩壷健太郎論文(「不動産価格の過剰反応?日本の場合」)は、1980年代後半に経験した不動産価格の高騰を実証的に分析している。「合理的バブル」の議論では、地価高騰の予想が自己実現的にバブルを引き起こすことは説明できるが、なぜバブルが1980年代後半に発生したかは説明できない。西村清彦氏の一連の研究では、非ワルラス型資産市場では、市場で取引する人々の予想のバラツキが大きいために、資産価格が「収益の割引現在価値」から乖離して過剰に反応する可能性が指摘されている。土地市場では、それぞれの土地は立地も異なり、周囲の環境や利便性も異なっているため、同じ品質の商品のようにワルラス的な市場形成が難しく、売り手と買い手の間で、相対で取引されるケースが多い。
 本論文の理論分析では、(1)予想の分布が「ポアソン分布」の場合には、分布の散らばりが大きいほど、予想しない価格の変化に対する感応性は上昇する。さらに、(2)予想が「正規分布」に従う場合には、価格の値上がりが期待できる「強気」のとき、分布の散らばりが大きいほど、予想しない価格変化に対する感応度は大きくなるが、「弱気」(値下がり期待)のときには、感応度はあまり変化しないという結論が導かれている。
 実証分析では、不動産価格の予想されない変化が、地価にどのような影響を与えるかを分析している。ここでは、不動産価格の予期されない変化(イノベーション)を、不動産収益率からOLSで推計したファンダメンタル値の残差から求めている。実証分析の結果では、住宅地の収益率に関しては、投資家の予想の散らばりが大きいほど、ファンダメンタルズの変化に対する感応度が上昇するという結果となっており、理論的帰結を支持する形となっている。
 また、商業地に関しても、ある程度理論分析と整合的な結果が得られており、興味深い研究結果である。ただし、金融変数であるマネーサプライが、商業地の収益率に対して統計的に有意な影響を与えていない点や、2変量自己回帰モデルを用い、ラグの次数を2としている点など、今後さらに実証分析を深める余地は残されていると思われる。
 
 坂下昇論文(「権限委譲の経済学」)は、スコットランドのアバディーン大学のNewlandsによる研究をもとに、地方分権化の経済的帰結はいかなるものかを論じている。
 政府の機能には、(1)経済の安定化機能、(2)資滞配分機能、(3)所得再分配機能、(4)成長機能があり、中央政府と地方政府の二つの主体によってこの機能が担われている。
 再分配政策を地方政府に委ねると、異なる再分配政策の間での衝突、矛盾を引き起こす恐れがあり、中央政府によって統一的になされることが要請される。しかし、その実施にあたっては、地方政府によって担当されるほうがより効率的である。
 これに対して、資源配分機能としての公共財の供給機能は、地方政府によって担われたほうが好ましい。というのは、個々の住民の選好に関する情報は、地方政府のほうが得やすい立場にあるからである。この立場に立てば、中央政府から地方政府に与えられる地方交付税(grants)は、中央政府が徴収した税を地方政府の活動に回し、より住民の選好に合った支出を行うとともに、地域間の格差を均等化させる機能を果たす。
 しかし、「中央政府」と「地方政府」の中間におかれる「地域政府」が行ったほうがよいと思われる公共サービスも存在する。たとえば、(1)高等教育のように、ある程度の規模の経済が働くサービスがある。また、(2)地域間のほうが、特定の地方よりも人口移動が少なく、(3)外部性を内部化しやすく、(4)地域間のほうが、地方間よりも格差が少ない、などの理由もあげられる。
 さらに、経済成長機能も地域間政府のほうが効率的なケース、たとえば、工業用地、交通通信施設などのインフラストラクチャー、地域の技術振興・研究開発などで見られる。ただし、地域の成長機能を果たす主体としては、政府よりも、エージェンシー(Agency)によって運営されるほうが好ましい場合もある。その理由としては、(1)官僚の非効率性を回避できる、(2)民間専門人の熟達した技能を採り入れられる、(3)政治的な影響を最小限に抑えることができるなどの長所をもっているからである。
 わが国では、近年の景気低迷に対して、多額の公共投資がなされているが、その効率性・所得再分配機能についての見直しが迫られている。中央政府・地方政府・地域政府・エージェンシーなど、どの主体が政策を立案し、実施することが好ましいのか。イギリスでは、1990年代に入って、PFI(Private Financial Initiative)による民間資金を利用したエージェンシー的発想による公共サービスの提供が始められている。わが国でも、坂下論文で紹介された理論的整理を参考に、この分野での実証分析をさらに推し進めることが必要ではないかと考える。(Y)
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