季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2002年夏季号
発行年月 平成14年07月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言構造改革の行方金本良嗣
特別論文ホームレスの人々への居住支援中島明子
研究論文都市住宅市場と固定資産税の経済効果中神康博
研究論文借地借家法の正当事由条項が借家人の付け値家賃に与える影響岩田真一郎
研究論文地価とマーケット・ファンダメンタルズ吉岡孝昭
海外論文紹介容積率規制による開発制約の実証分析寺崎友芳
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ノート
 中神康博論文(「都市住宅市場と固定資産税の経済効果」)は、持ち家世帯と借家世帯が共存するコミュニティーを想定した場合に、固定資産税が地代や家賃にどのような影響を及ぼすかという点を分析するとともに、地方公共サービスの水準がどのようなメカニズムによって決定され、コミュニティーにいかなる影響を及ぼすかについて分析している。
 ここで持ち家世帯と借家世帯の決定的な違いは、持ち家世帯がコミュニティーに固定的な主体であるのに対して、借家世帯は自由にコミュニティー間を移動するフットルースな主体として考えられている点である。したがって、持ち家世帯だけが存在するモデルと借家世帯だけが存在するモデルの違いは、人口が内生的かどうかという点である。
 借家世帯だけが存在するコミュニティーモデルにおいては、固定資産税によってファイナンスされた地方公共サービスの便益は、地代に帰着する。効率的な地方公共サービスを供給することによって、人々の人口流入が促進される結果、家賃や地代が上昇する。
 この論文の特徴は、このような借家世帯と持ち家世帯が共存するという点を考慮に入れて、地方公共サービスの帰着のメカニズムがどのように変化するかを分析する点にある。
 ここで政治的な意思決定によって、地方公共支出の決定メカニズムを考える際に重要になるのが、持ち家世帯の存在である。借家世帯は自由に地域間を移動できるので、現在のコミュニティーの政策的な決定についてはまったく興味を持ち得ない。それに対して、地域に固定的な主体である持ち家世帯は、この政治的なプロセスに強い関心を持っている。彼らが地方公共サービスの水準を決定するものと考えるのが自然である。このとき持ち家世帯が、地代収入を最大にするように公共サービスを決定すると考えると、この解は借家世帯による効用最大化の解と一致する。これは借家世帯の効用の増加が地代に帰着することを考えれば、当然の帰結であろう。
 これに対して、持ち家世帯が自らの効用を最大にするように、地方公共サービスの最適水準を決定すると考えると、それが借家世帯による効用最大化の最適水準と一致するのは、持ち家世帯と借家世帯の選好が等しい場合だけである。これらはみな当然の結果といえるだろう。
 このようなモデルを拡張する方向としては、著者が主張するように、コミュニティー間で戦略的に行動する借家世帯を考えることであろう。しかし、そのためには借家世帯が完全なフットルースではなく、移転する際に何らかの費用がかかることを前提にしなければ、借家世帯による政治的なプロセスへの関与を説明できないように思われる。
 
 借地借家法についての理論的な分析や実証研究が次第に蓄積されてきている。岩田真一郎論文(「借地借家法の正当事由条項が借家人の付け値家賃に与える影響」)は、借地借家法の正当事由条項が市場家賃関数を上昇させる結果、契約更新を望まない借家人だけでなく、契約更新を望む借家人の効用水準も低下させるという結論を理論的かつ実証的に導いている。家主と借家人のあいだに情報の非対称性が存在しなければ、コースの定理が成立し、正当事由条項はなんら資源配分に影響を及ぼさない。正当事由条項によって、借家人が保護される程度に応じて、家賃が上昇するだけで、借家の供給量や借家の床面積は変化しない。
 岩田論文は、情報が非対称的な場合に、この結論がどのような影響を受けるかについて分析している。非対称情報の下では、すなわち家主が借家人の契約期間について十分な情報をもっていない場合には、家主はある確率で契約更新がある場合とない場合を考慮しなければならない。その結果、家主がオファーする平均的な家賃は、完全情報下で契約更新を前提とする家賃よりも低下するために、契約更新を意図する借家人の効用水準はかえって上昇することになる。
 しかし、ここにリスクを導入して、危険回避的な家主の存在を仮定すると、家主のオファーする家賃はさらに上昇する可能性が高い。理論的には、家賃がどれだけ上昇するかは、家主の危険回避度などに依存して、一概に結論を出すことはできない。この点を考慮して、岩田論文では家賃関数を推定することによって、情報の非対称性の下での家賃関数が、情報が完全な場合に契約更新を意図する借家人に対する家賃よりも上回ることを実証的に明らかにしている。これが実証されれば、借地借家法の正当事由制度は、契約を終了する借家人だけでなく、契約更新を意図する借家人にとっても不利になることが明らかにされる。
 この実証研究で必要なのは、更新確率と立退き料についてのデータである。正当事由借家の市場家賃が定期借家の家賃よりも高くなるのは、契約期間終了後に家主が借家人に立退き料を支払わなくてはならないからである。データに基づいた立退き料や更新確率を前提にしたうえで、現在の正当事由制度は、更新を望む借家人に対する家賃関数を大きく上昇させて、借家の需要量を減少させ、効用水準の低下を招いているとしている。しかし、ここでの実証研究の問題点は、推定の際に線形の家賃関数を用いている点にある。家賃の付け値関数は床面積に関して非線形な影響を持っている。とくに、リスク回避的な家主を前提とすると、非線形の効果は無視できないものとなるであろう。したがって、線形モデルから推定された結果を用いて、非線形の影響を分析することには限界があるように思われる。
 
 吉岡孝昭論文(「地価とマーケット・ファンダメンタルズ」)は、地価とマーケット・ファンダメンタルズのあいだに安定的な関係が存在するかどうかについて、さまざまな手法を用いて、日本の地価を実証的な観点から分析している。バブルの検証の問題点は、マーケット・ファンダメンタルズの推定がどの程度正しいかということに決定的に依存している。吉岡論文では、従来の推定の問題点として、全国平均の地価を用いている点をあげている。大都市と地方都市、とくに六大都市とそれ以外の地域の地価の変動には無視できない大きな差異があることを指摘したうえで、より詳細な地価データを用いて分析が行なわれている。
 吉岡論文では、必ずしもバブルの検証という点に主眼は置かれていないが、まず共和分検定を用いることによって、地価とマーケット・ファンダメンタルズのあいだに長期的に安定的な関係があることが見出されている。次に、エラーコレクション・モデルを用いて、短期的な地価の変動によって生じる長期均衡からの乖離が、修正されるようなメカニズムが働いているかどうかについて分析されている。この分析によれば、それらには安定的な関係があることが見出されている。最後に、グレンジャー・テストを用いて、金利と地価とのあいだの先行遅行関係が分析されており、地価が金利よりも先行することが明らかになった。このことは逆に言えば、地価に対して金融政策が反応していることを示唆している。
 このような分析はきわめて重要ではあるが、本来目的とした各都市の地価データ、あるいは住宅地、商業地、工業地といった用途別の地価を用いた分析をもっと掘り下げる必要があるように思われる。実際に共和分ベクトルにおける六大都市のマーケット・ファンダメンタルズの係数は、全国のその係数より絶対値が大きくなっている。これはどうして生じるのだろうか。また、ダミー変数を用いて分析したように、金融緩和と地価変動のサイクルの上昇局面が一致するときには、急激な地価高騰が発生して、バブルが発生しているという結論が得られているが、それがどのようなメカニズムから発生するのかは必ずしも明らかではない。さらに、工業地の地代の代理変数として県民生産が有効ではなくて、民間投資が有効であったなどの理由を詳細に分析するのは興味深いように思われる。
 そのほか、税制の影響が無視されているが、住宅地や農地では相続税の影響がかなり大きいこと、また譲渡所得税の影響も無視できないことがこれまでの研究から明らかにされている。このような税制の影響を用いたモデルに拡張されるのが望ましいように思われる。(山崎福寿)
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