季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2004年春季号
発行年月 平成16年04月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言住宅余剰時代の安全網森正臣
特別論文グローバルエイジの住宅平山洋介
研究論文家計の住宅投資と世代間所得移転井出多加子
研究論文リッジ回帰推定量の理論とその応用丸山祐造
研究論文非線形回帰モデルによるヘドニック・アプローチ松田安昌
海外論文紹介住宅市場細分化がヘドニック価格予測精度に与える影響田中麻理
内容確認
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ノート
 本号の研究論文は、すべて住宅に関する実証研究である。井出論文が、経済政策の効果を見るために、住宅投資関数を推計するというオーソドックスな実証研究であるのに対し、丸山論文と松田論文は、実証研究に用いられる計量経済学的手法に目を配り、望ましい手法について論じ、その応用例を示す。地価や住宅価格を説明する際に広く用いられているヘドニック・アプローチに注目、そこに内在する困難を抽出し、さらにそれをどのように克服するかについて、簡潔に従来の理論を整理する。その上に立って、著者それぞれの新しい手法を提案し、それを具体的に実証研究に応用して重要性を確認している。井出論文の政策的な含意に加えて、読者は丸山論文・松田論文のなかに計量経済学的手法の最近のトレンドを見出すことができるだろう。
 
 井出多加子論文(「家計の住宅投資と世代間所得移転??名古屋圏ミクロデータから」)は、2003年から実施された贈与税制の変更がもたらす影響を推計しようという野心的な試みである。著者の分析の新しさは、第1に、贈与税制の影響を単独に把握するのではなく、新たに導入された贈与と相続を統合した「精算課税制度」に注目し、贈与税と相続税の影響を統一的に分析できるモデルを提示し、それに基づいて実証分析で考察できる含意を出している点である。第2に、地域差を明確に分析のフレームワークの中に入れている点である。具体的には、名古屋圏を著者の先行研究で対象にされた東京圏と比較している。
 得られた結果はデータが不十分なため、必ずしも著者の満足のいくものにはなっていないが、傾向としては著者の理論モデルが予測するように贈与の影響は高いことを示している。そして、影響の度合いは、東京圏に比べて名古屋圏が小さいという興味深い結果が得られている。
 魅力的な論文であるが、課題も多い。まず、親世代と子世代を重ね合わせた理論モデルであるが、親世代は子世代の効用を勘案して消費や投資、贈与、遺贈を考えるが、子世代は孫世代を考慮には入れていない。これがどの程度結論に影響を及ぼしているかは、にわかには判定し難いが、やはり子が孫を考慮すると定式化するほうが現実的であろう(ただし、分析は格段に難しくなることも事実である)。また、理論モデルでは非常に重要な役割を果たす親世代の情報の欠如とはいえ、結果への信頼性に若干の影を投げかけていることも否定できない。著者のさらなる分析を期待したい。
 
 丸山祐造論文(「リッジ回帰推定量の理論とその応用」)は、実は2つの目的をもっている。第1に、多くの実証研究で直面するいわゆる多重共線性の問題に対処する手法としての「リッジ回帰推定量」を紹介し、さらに著者独自の改良型を説明する。その基本は、リッジ回帰推定量が事前情報を想定するベイズ統計学的な自然な解釈が可能であるという点である。第2には、このベイズ統計学的な解釈に依拠して、ヘドニック・アプローチを使って指数を作る際に直面する構造変化問題に、丸山氏の新しい手法は対応可能であると示すことである。
 多重共線性は説明変数が他の説明変数(の組)と相関が高いときに、推定量の精度が著しく落ちる現象を指す。ヘドニック・アプローチを実際に応用する際に、単純に影響を及ぼしていると考えられる説明変数をできるだけ入れようとすると、多重共線性が発生する可能性が高い。こうした事態に対しての改良がリッジ回帰推定量である。通常の推定量が不偏(偏りがない)ではあるが、多重共線性があるときにはばらつきが大きくなるのに対し、リッジ回帰推定量はもともと作り方から偏りはあるもののばらつきは小さく、かつ、負の値の近くに集中しているという性質をもつ。とすると、実用的には後者が望ましいのではないか、という発想である。偏りが小さく分散が小さいほど望ましいが、実はこの2つはトレードオフの関係にある。そのトレードオフの中で望ましい組み合わせを簡単に取ることのできる方法を開発しているのが丸山論文の貢献である。
 ヘドニック・アプローチを用いて価格指数を作成するという手法は、最近さまざまな分野で応用されてきている。もっとも簡単なのは、調査対象期間について、構造は変化しないと考え、ヘドニック・アプローチを適用する考え方である。しかしながら時間が経つにつれて、構造変化が起こっていないという仮定のもっともらしさは減少する。丸山氏は、氏の新しい推定量がベイズ統計学的解釈が可能であることに依拠して、氏の改良リッジ回帰推定量を考える際の事前分布の平均値として1期前の推定量を使うことを提案している。これによって、構造変化を滑らかにあらわし、かつ、ばらつきの小さな指数を作り出すことが可能であるという主張である。
 本論文は、理論の簡潔な説明と、その野心的な応用という点で従来にないタイプの業績となっている。しかしながら、応用という点からみると、とくに指数作成の際の応用において、なぜこの手法が他の手法に比べて優れているのかが依然として印象批評的段階にとどまっており、また、応用の事例が必ずしも著者の目的と合致しているとはいえないきらいがある。この分野の若手の第一人者である著者の今後の研究成果を期待したい。
 
 松田安昌論文(「非線形回帰モデルによるヘドニック・アプローチ」)は、2つの目的をもつ。まず、経済学の立場から見れば、本論文は環境価値の測定を、関東一円の住宅地5573地点のデータを用いて行なう。その際、商業施設・公園緑地といった環境の限界価値(潜在価格)が地域によって一定ではなく、都心からの距離に依存するという非線形性の可能性に着目する。本論文の第1の目的は、こうした非線形性を考慮に入れて、環境価値の測定を行なうことである。
 次に、計量経済学の立場からみれば、こうした非線形な関係をとらえるのに、できるだけ特定の関数系の仮定をおかずに一般的な形で行ないたい。非線形関数を推定する際には、非線形関数を少数のパラメータで表現し、そのパラメータをデータから推計するというやり方(パラメトリック・アプローチ)があるが、これは誤った定式化をすると誤った結論に導かれる。そして、定式化が正しいかを判断をするのは難しい。これに対して、関数形を特定せずに重み付き平均で推定量を与える方法(ノンパラメトリック・アプローチ)があるが、より複雑な関数を許容する(関数の次元が高くなる)ほど信頼できる推定をするためには、データが爆発的に多く必要になってしまう。本論文のもうひとつの目的は、こうしたトレードオフの事態に対処する、ヘドニック・アプローチの性質を十二分に反映した新しい推定方法を考察して、それを応用して実用性を確かめることである。
 この際に著者が着目するのは、ヘドニック・アプローチで知りたいのは関数そのものではなく、説明変数として含まれるさまざまな要因の限界価値(潜在価値)であるという点である。これは数学的には説明変数に関する偏微分である。そして、この偏微分について仮定をおき(具体的にはターミナルまでの時間距離の関数として)、それを重み付き最小二乗法で推定するという手法を提案し、適当な条件のもとで、一致性、漸近正規性といった統計的に望ましい性質をもっていることを証明している。
 著者は、この新しい手法を用いて、商業施設と公園緑地の限界価値を推計する。商業施設が近いと影響は出ず、150m以上離れている施設の価値が高くなる。そして、これは地域別、都心からの距離別によらず成立する。公園緑地に関しては、これに対して都心からの距離別で違いが出る。都心から40分以上離れた郊外では、150m以上離れた公園緑地の限界価値が有意に正であり、しかも50m以内にある公園緑地よりも高く評価されているという興味深い結論を得ている。手法としてはまだ発展途上とはいえ(例えば「重み」に何を使うかには明確な指針があるわけではない)、当該論文図1に見られるような非線形性を正面から扱うことを可能にする手法が開発されたのは、今後の研究の広がりを期待させるに十分であろう。(KN)
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