季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2004年秋季号
発行年月 平成16年10月 判型 B5 頁数 42
目次分類テーマ著者
巻頭言国土利用の課題藤原良一
特別論文株式会社形態によるマンションの管理・運営八代尚宏
研究論文コミュニティ構成と地方公共サービス支出大重斉・中神康博
研究論文住宅の品質と所有形態岩田真一郎・山鹿久木
研究論文小地域情報を用いたホームレス居住分布に関する実証分析鈴木亘
海外論文紹介持家居住が子どもの成育の質に与える影響行武憲史
内容確認
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ノート
 本号の3論文は、都市財政に関する理論的な研究、住宅の品質をめぐる住宅市場に関する理論的な考察に基づいた実証研究、住宅困窮者に関する実証研究と多岐に渡っている。いずれも、最先端の国際的な学問的動向をふまえたうえで、現在の日本において重要な都市問題や住宅問題に関して、経済学的な観点から厳密な分析を行なっており、きわめて興味深い。
 
 大重斉・中神康博論文(「コミュニティ構成と地方公共サービス支出」)は、先住世帯と新規参入世帯から構成されるコミュニティを想定し、先住世帯数の変化と容積率の緩和が、地方公共サービスの水準と経済厚生にどのような影響を及ぼすかに関して理論的な分析を行なっている。
 本論文では、コミュニティ移住のタイミングという観点で、コミュニティの構成をとらえている。すなわち、日本における2世帯住宅世帯や、親から住宅を相続した世帯を先住世帯と考え、これからコミュニティに新規参入しようとする世帯を新規参入世帯ととらえている。そして、これらの世帯がコミュニティ内で混在するとき、彼らがコミュニティ政府に求める地方公共サービスの内容に差異が生じる可能性に注目して、地方公共サービスが固定資産税によってファイナンスされる場合に、その水準がどのように決定され、各世帯グループの経済厚生にどのような影響があるのかを分析している。なお、ここで地方公共サービスとは、教育や介護のように、私的財の性質を持ちながら公的に供給される財サービスをさす。
 モデルとして、ある都市のなかのひとつのコミュニティを考え、完全競争的な住宅サービス市場、1次同次の住宅サービス生産関数、先住世帯と新規参入世帯という2つのタイプの世帯が居住していると想定する。そして、第1段階で新規参入世帯がコミュニティを選択し、第2段階で住宅サービスと地方公共サービスの水準が同時に決定されるという2段階にわたる意思決定のタイミングを仮定している。このような想定のもとで、主体的均衡と市場均衡条件を導出し、それに基づいて、先住世帯数が変化したり、容積率が緩和された場合の、そのコミュニティの地方公共サービス、固定資産税率、新規世帯数、経済厚生などに及ぼす影響を比較静学的に分析している。その結果、コミュニティが先住世帯と新規参入世帯によって形成され、先住世帯がそのコミュニティにおける政治的な力を持つとき、固定資産税を課税ベースとする地方公共サービスの供給はファーストベストの水準に比べて過少となる、コミュニティの先住世帯数が増加して政治的パワーが増すほど、地方公共サービスの水準は増大するという結論が得られている。さらに、コミュニティの容積率が緩和された場合は、新規世帯が移動できない場合には、地方公共サービスの水準は増大し、先住世帯の経済厚生は改善されるが、自由に移動できる場合には、地方公共サービスの水準が減少し、必ずしも先住世帯の経済厚生が改善されるわけではないということが、示されている。
 このように、大重・中神論文は、きわめて興味深い結論を得ているが、今後は、同論文でもふれられているように、日本の実態をイメージしているのであれば、地方交付税や国庫支出金の効果を明示的に考慮すべきであろう。また、是非この論文で得られた理論的な結果を、実証分析につなげていくことを期待する。
 
 岩田真一郎・山鹿久木論文(「住宅の品質と所有形態」)は、住宅の所有形態の違いと、建物の所有権に影響を与える借地借家法が、建物の品質にどのような影響を及ぼすかを、理論的な考察に基づいて、実証的に分析した論文である。本論文では、自己の土地に建てた持ち家を持ち家、他者の土地を借りその上に借家人が建てた持ち家を借地、土地と建物の両方が他者のものを借家と定義している。
 本論文は、家主と借家人という両方の経済主体が建物の品質に影響を与えるような投資を行なう場合を想定して、住宅の所有形態の違いが住宅の品質維持にどのような影響を及ぼしているかということと、借地借家法の継続地代および家賃抑制主義が住宅の品質にどのような影響を与えているかを分析している。
 まず理論的な考察として、家主の行動は建物の品質にプラスの効果を及ぼすが、借家人の生活活動は建物の品質にマイナスの効果を及ぼすということを前提とすれば、借地と借家の品質維持は持ち家の品質維持よりも悪くなること、借地借家法の影響が強くなると、借家は住宅の品質がさらに悪くなり、借地は借地権保護によってより悪くなる場合が多いが、良くなる場合もあるということを述べている。
 次に、平成10年と15年の住宅需要実態調査の個票データを用いて、それを実証的に検証している。具体的には、住宅の品質を表す2値変数を従属変数、所有形態ダミーや住宅属性を独立変数としたプロビットモデルで、所有形態の違いが住宅の品質に与える影響を分析している。また、サンプルを借地と借家にしぼって、seemingly unrelated bivariate probit modelによって、借地借家法の継続家賃抑制主義が住宅の品質に及ぼす効果を分析している。なお、借地借家法の影響の強さを表す独立変数としては、入居時期を代理変数として使っている。その他の独立変数としては、改築ダミー、引越し予定ダミー、住宅の属性を用いている。なお、seemingly unrelated bivariate probit modelを用いているのは、引越し予定ダミーの内生性を考慮しているためである。理論的考察と整合的な実証結果が得られている。
 論文の脚注でもふれられているように、実証分析で用いられている住宅の品質に関するデータが建物の概観からの評価のみで、内部の老朽度の評価を含んでいないため、真に理論的な考察と整合的な形での実証分析になっているかどうか多少の問題点は存在するが、本論文は、土地と建物が別々の不動産として考えられている日本の住宅市場に固有の制度的特徴に起因する問題を、住宅の品質と関連させて分析した初めての野心的な試みであり、今後、より理論と整合的なデータにより、さらに厳密な実証分析が行なわれることを期待する。
 
 鈴木亘論文(「小地域情報を用いたホームレス居住分布に関する実証分析」)は、大阪市における住宅困窮者(ホームレス)に関する目視調査と、小地域情報を用いて、ホームレスの居住分布を、実証的に分析した論文である。
 具体的には、定住・非定住別ホームレスの居住規定要因を、小地域間の相関関係を明示的に考慮して、地域の空間自己相関分析モデルとして、SARモデル(Simultaneously Autoregression Model)およびMAモデル(MovingAverage Model)を用いて、検証している。従属変数としては、面積当たりホームレス数を用いている。独立変数としては、居住スペース要因として公園・河川敷面積比率、食料調達要因としてコンビニ数など、就業アクセス要因としてハローワークからの距離など、行政サービス要因として福祉事務所からの距離など、医療アクセス要因として診療所・病院数などを用いている。
 実証結果を見ると、ホームレス全体のサンプルでは、就業アクセス要因がどのモデルでも有意となっている。定住・非定住別の推定結果によると、定住の場合は自立度が高いが、非定住の場合は就業アクセスや食料調達など周辺環境への依存度が高いことが示されている。
 本論文では、さらに、ホームレスの居住が近隣地価に及ぼす影響も分析している。具体的には、定住・非定住別に、ヘドニック地価関数を推計している。従属変数は、大阪市の地価公示や都道府県地価調査の住宅地価を用い、独立変数は、ホームレス数を現数値のまま入れると内生性の問題が存在するため、ホームレス数を従属変数とした先のモデルの推定結果からホームレス数の予測値を計算し、それを地価関数の独立変数として用いている。結果として、ホームレス居住が近隣地価を下げていることが示されている。
 このように、鈴木論文は、小地域データに固有の実証分析上の問題点を明示的に考慮して妥当な結論を得ており、きわめて重要な住宅政策上の示唆を与えた非常に価値のある研究である。(SM)
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