季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2005年春季号
発行年月 平成17年04月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言住宅セーフティネットと財政制度改革八田達夫
特別論文今後の住宅金融のあり方大垣尚司
研究論文不動産物件の特性に基づいた住宅市場細分化モデルの構築田中麻理・浅見泰司
研究論文地域別にみた分野別社会資本の生産性村田治・森澤龍也
研究論文国際資本移動下の土地賦存と地価工藤和久
海外論文紹介空間計量経済学におけるモデル選択唐渡広志
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 本号の3論文は、住宅市場細分化に関する実証的な研究、地域別分野別社会資本に関する実証的な研究、小国経済における土地賦存と地価総額に関する理論的研究と多岐にわたっている。いずれも先行研究にはない新しい視点でていねいに分析された貴重な研究であり、きわめて興味深い。
 
 田中麻理・浅見泰司論文(「不動産物件の特性に基づいた住宅市場細分化モデルの構築」)は、これまで問題とされていた鑑定評価法における取引事例比較法の比較対照物件の選択に理論的な根拠を与えようという問題意識で分析された論文である。取引事例比較法では、比較対照物件の選択が、この方法による価格推定の精度を高めるために重要であるにもかかわらず、従来は不動産鑑定士の経験や勘に大きく依存していたことに問題があるという点に注目して、適切な市場細分化モデルの構築を取り上げている。
 住宅市場細分化に関する既存文献の多いアメリカでは、地域による住み分けが比較的進んでいるため、空間的な地域による細分化によって市場構造をより正確にとらえることができるが、日本の場合は、住宅の別な諸特性に関する選択に、それが表れている可能性が高いと考え、不動産の特性空間における特性類似度をもとに住宅市場の細分化分析を行なっている。
 具体的には、1996年10月?1997年9月に『週刊住宅情報』に掲載され、取引された世田谷区の戸建住宅のデータ674件を用いて、不動産物件の特性に基づいて市場細分化を行なっている。すなわち、価格と単価を被説明変数として用いた2種類のヘドニック回帰分析の結果を特性によって細部化している。その結果、住宅市場を細分化する際には不動産物件の住宅専有面積、土地面積、前面道路幅員、最寄り駅までの所要時間、地域に着目する必要があるが、物件の立地する用途地域、新築・中古、道路付については、それほど細分化の必要性がないことが明らかになっている。
 さらに、不動産物件の特性に着目した細分化方法は、従来用いられてきた地域分割による細分化方法よりも高い精度あるいは同等の精度の価格予測を可能にすること、さらに市場細分化を行なうことで、細分化を行なわない場合よりも誤差の分散が有意に小さくなるということも検証されている。
 このように、田中・浅見論文は、日本の実態に基づいて不動産物件の特性に着目した住宅市場細分化方法を提示しており、この分野ではわが国においては学術的な先行研究が皆無に近い中で、きわめて貴重な研究といえる。今後は、より一般性を高めるために、異なるデータや時期、地域、特性などに関しても分析を行ない、同様の結果が得られるかどうか検証してみたらよいのではないだろうか。
 
 村田治・森澤龍也論文(「地域別に見た分野別社会資本の生産性」)は、都道府県別データによるコブ=ダグラス型生産関数のパネル推計を行ない、分野別社会資本の生産性効果を分析している。社会資本の分類は、4分野(農林水産基盤、産業基盤、運輸・通信基盤、生活基盤)と、9分野(農林水産施設、道路、港湾・空港、運輸・通信業(旧電電公社・国鉄)、運輸・通信業(その他)、道路(市町村道)、都市公園・自然公園・下水道・上水道、社会保険・社会福祉施設・学校・病院、治山・治水施設)に分けている。
 なお、「都市公園・自然公園・下水道・上水道」の社会資本は居住環境と密接に関連しているので、住宅関連社会資本と捉えることができるため、9分類の結果から、住宅関連の社会資本はプラスの生産性効果を有していると解釈することが可能であると述べている。
 さらに、全国の都道府県を10地域に分割した地域ダミーを用いた推計を行ない、どの地域のどの分野の社会資本が生産に対して効率的であるかも検証している。
 その結果、社会資本の限界生産性は、首都圏、関西地方で高く、分野別では、農林漁業、港湾・空港、市町村道での限界生産性が高いことが明らかになっている。また、東北地方での社会資本の限界生産性がもっとも低く、とくに、東北、中国、四国、九州地方の運輸・通信関連社会資本の限界生産性はマイナスという結果が得られている。なお、推計方法としては、パネルデータを用いていることから、最小二乗法(OLS)による推定結果と、固定効果モデル・変量(ランダム)効果モデルのうち、ハウスマン検定によって選択されたモデルの推定結果を掲載している。
 本論文の結果を総合すると、今後、社会資本の整備を進めるにあたっては、首都圏や関西地方などの国県道・有料道路、市町村道、農林漁業施設、治山・治水を優先的に進め、東北、九州、中国、四国地方などでの運輸・通信関連の社会資本整備は再検討すべきである。また、住宅関連社会資本と考えられる「都市公園・自然公園・下水道・上水道」の社会資本については、首都圏、四国、関西、中部などの地域で整備を進めていくことが有効である。すなわち、地域別、分野別に公共事業の精査を行なっていく必要性があると述べている。
 このように、村田・森澤論文は、1975?1998年までの都道府県別パネルデータを用いて、ていねいに分野別地域別に社会資本の生産性を分析した初めての研究といえよう。その意味で、非常に貴重な研究である。
 今後は、日本経済が1999年以降も、かなり大幅な構造変化を経験していると考えられることから、最近まで期間を延ばしたデータで同様の結論が得られるか検証してみたらおもしろいのではないだろうか。また、データの制約が大きいとは思われるが、都道府県以外の地域単位(たとえば、大都市雇用圏:MEA)のデータを用いた分析を行ない、同様の結論が得られるかをみることも可能であろう。さらに、生産関数をコブ=ダグラス型と特定化していることが、分析結果にどの程度影響しているかの検証も必要であろう。
 
 工藤和久論文(「国際資本移動下の土地賦存と地価」)は、国際資本移動が自由である小国経済において、長期均衡では一国の地価総額が、その土地賦存量のU字型のグラフを持つ関数となりうることを示した、理論的な研究である。
 具体的には、土地が生産要素でもあり消費財でもある可変的割引率の重複世代モデルを用いて、分析を行なっている。
 まず、コブ=ダグラス型生産関数を仮定して、地価総額は土地賦存量が小さい水準では賦存量の増加とともに減少するが、ある土地賦存量水準で反転し、それ以上の土地賦存量では賦存量とともに地価総額が増加することを示している。この結果は、一国の地価がバブル水準にあるかどうかの判断をする際のひとつの視点を与えていると考えられる点で興味深い。
 本論文で想定されている貯蓄モデルでは、この結論は、以下のような理由によると考えられる。長期的には土地賦存の小さい国の消費者もそれがより大きい国の消費者と同じだけ豊かになることができるが、そのためには、土地賦存の小さい国の国民は貯蓄をして海外投資をし、土地以外の富を蓄積し、所得を増やして土地以外の財・サービスを多く消費しなければならない。そのとき同時に土地にも多くの支出がされるであろう。それによって土地の狭い国の土地価格は大きく上昇し、地価総額が大きくなるのである。
 また、均衡における遺産額も土地賦存量に依存しており、土地賦存量が大きいほど遺産額が小さくなるということが明らかにされている。これは、土地賦存量に依存しない一定の効用水準を実現するには、土地賦存量の小さい国の住民はより多くの財の消費をしなければならないが、それはより多くの遺産を受け取り、その利子所得を消費することによって可能になるからである。
 さらに、均衡における対外純資産額は、土地賦存が大きいほど小さいということも、示されている。土地賦存が大きいほど自国生産は大きく、均衡における財消費は小さくてよいからである。
 このように、工藤論文は、土地賦存量と地価というきわめて重要なマクロ的な関係を、厳密に理論的に分析した貴重な研究である。今後は、ここで得られた結論の実証的な裏付けが得られるとおもしろいのではないだろうか。(SM)
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