季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2005年秋季号
発行年月 平成17年10月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言新時代に対応した住宅政策豊蔵一
特別論文建物/街区の評価・格付けとサステナブル建築の推進村上周三
研究論文公共部門の効率性向上のためのレベニュー債券吉野直行
研究論文首都圏における浸水危険性の地価等への影響齋藤良太
研究論文持家資産の有無が家計の消費と労働供給行動に及ぼす影響周燕飛
調査研究リポート紹介住宅・不動産の日独比較三木義一
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ノート
 吉野直行論文(「公共部門の効率性向上のためのレベニュー債券」)は、アメリカで用いられている財源調達手段であるレベニュー債券の日本での導入について、興味深い提言をしている。レベニュー債券を導入することによって、効率の高いインフラ整備を可能にし、逆に非効率なプロジェクトを排除する機能があると論じている。
 社会資本の効率性が1980年代以降低下していることを背景にして、どのようにすれば、財政の赤字や社会資本の効率性の低下をチェックできるかという点が重要な論点になっている。論文の中では、簡単なモデルが展開されており、地方政府と中央政府が存在しており、社会資本を用いて生産が行なわれる経済モデルを用いて議論が展開されている。ここでレベニュー債を発行することによって、効率的な社会資本の整備が実現でき、また地方財政の赤字をチェックできると論じられている。
 このレベニュー債券のもとでは、プロジェクトの効率性が債券価格に反映される結果、プロジェクトが効率的でない場合には、債券価格が下落して投資家はキャピタルロスを負うことになる。また逆に、プロジェクトが効率的な場合には、債券価格が上昇する結果、投資家はキャピタルゲインを得ることになる。
 こうしたことが予想されるため、投資家はプロジェクトの選別を厳格にするために、プロジェクトの透明性を確保するための政治的圧力を強める結果になる。つまり、この債券による資金調達の際に、コストとベネフィットの厳正な比較を政府に要請することが期待されている。
 しかし、公共サーヴィスに期待される外部効果やその排除不能性のために、十分な収入が得られないという点を考慮すると、プロジェクトからの十分な収入が生じることを想定するのは、公共プロジェクトの定義に反するのではないだろうか。つまり、こうした十分なインカムゲインが実現できるのであれば、そもそもこの事業は民間部門で供給されるのではないだろうか。民間のプロジェクトとして供給できないものであるからこそ、政府が供給しなければいけないのであって、もし債券を発行できるだけの十分な収益が実現できるような事業であれば、民間部門に任せたほうが効率的なのではないだろうか。
 
 齋藤良太論文(「首都圏における浸水危険性の地価等への影響」)は、重大な都市災害のひとつである浸水害のリスクを、地価のヘドニック関数を推計することによって分析した貴重な研究である。この研究では、興味深いいくつかの実証結果が得られており、今後のこうした研究蓄積の契機となる論文であると考えられる。
 齋藤論文では、浸水予想区域にある地域の地価やマンション価格がどの程度下落しているのかを分析するとともに、過去に浸水した履歴が地価にどのような影響を及ぼすかを分析している。多摩川、荒川、といった二大河川の流域や神田川の小河川流域を分析対象にしており、山手線の内側の地域は除かれている。地価のデータは地価公示を用い、主にその対象は住居系の対象地域を選んでいる。通勤時間や容積率等によってデータをコントロールしたうえで、浸水区域にその地域が含まれているかどうかによって、地価がどのような影響を受けているかを分析している。
 浸水経験がある地域の地価は、有意に低下していることが明らかにされている。しかし、東京都の発表している浸水区域のダミー変数が必ずしも有意となっていない点は、注目に値する。これは、過去の履歴のほうが地価に有意な影響を及ぼすという意味で、消費者がマンションや土地を購入する際に、過去の浸水履歴を重視することを意味している。
 マンション分譲価格についても、ほぼ同様の結果が得られているが、都の河川浸水区域については有意な結果は得られていない。階数ごとにマンションの分譲価格が受ける影響がどの程度異なるかを分析したが、高層階のほうが負の影響が小さくなるという結果は必ずしも得られなかった。
 一般に、高層階のほうが良い景観が得られるとの理由から、分譲マンションの価格は高くなる傾向にある。この影響を変数として導入したうえで、マンション価格を推定する際の説明変数として、そのマンションの階数と浸水ダミー変数をクロスさせることによって、より正確な分析ができるのではないだろうか。
 最後に、地価への影響とマンション分譲価格への影響を比較して、地価の影響の3倍から4倍程度大きい値が、分譲マンション価格の低下に表れているという結果については、単純に地価の低下がマンション価格の低下を引き起こしているというよりも、むしろ浸水によって、マンション本体も甚大な被害を受けることが予想される結果、それが新規のマンション価格の低下を引き起こしている、と考えるべきではないだろうか。
 さらに、浸水被害のある地点と地震等によって深刻な被害が発生すると予想される木造密集住宅地域等の相関がかなり高いのではないだろうか。こうした相関を考えると、単純に浸水のための被害だけでなくて、他のリスクのために地価やマンション価格が下がっていることも予想される。
 
 地価の上昇が貯蓄率に影響を及ぼすか否かという点は、マクロ的な観点からも依然として重要な問題である。よく知られているように、金融市場の不完全性を前提にすると、地価の上昇は頭金の増大をもたらす結果、貯蓄に対するインセンティブを高める。これは将来持家を購入する人たちの行動であるが、すでに持家を保有している人たちには異なる効果が予想される。こうした人たちにとっては、資産価値の上昇は将来の恒常所得の上昇を意味する結果、貯蓄の減少や消費の増大をもたらすと考えられる。このように、持家資産を保有しているか否かが貯蓄に異なる影響を及ぼすことから、分配効果に注意しなければならないことになる。
 周燕飛論文(「持家資産の有無が家計の消費と労働供給行動に及ぼす影響」)は、90年代以降に起こった資産デフレが、持家資産を所有している家計と所有していない家計との間で、どのように異なる影響を及ぼしたかを分析した論文である。分析は、コホート・データを用いて、1956年以前生まれの人たちとそれ以降の人たちとの間に、消費行動や労働供給にどのような相違があるかを分析している。
 ここで1956年以前の生まれの人間とそれ以降の人間とを比べるのは、後者の人間たちが住宅を購入した後で資産デフレを経験したことによって、債務超過に陥った可能性が高い点を考慮したものである。内生性を考慮して持家確率を変数として導入したうえで、持家確率の上昇が消費を高めているか否かを分析している。
 この結果、第1に、持家確率の上昇が消費を低下させていること、すなわち1956年以降の生まれの人たちを対象に推定した場合には、それ以前には見られなかった負の影響が観察されている。
 第2に、共働きか否かを非説明変数として、プロビット・モデルを推計している。それによれば、1956年以降生まれの人間を対象にすると、やはり持家確率が上昇することによって、共働きの確率が上昇することが報告されている。これは、持家世帯がデフレを経験することによって、被ったキャピタルロスや恒常所得の減少を補うために、共働きを選択するというメカニズムが反映されたものと解釈されている。
 コホート・データを用いることによって、興味深い分析がなされているが、注意しなければならないのは、いつの時点で住宅を購入したことがデータとして入手できないために、世代間のさまざまな経済環境の違いのすべてが、消費の変化を説明することになってしまう点である。
 たとえば、1956年以降生まれの人たちが住宅を取得した時期には、住宅金融公庫の融資額の増額や大幅な住宅ローン減税が準備されており、かなり所得水準の低い人たちも住宅を購入したと考えられる。その結果、所得水準の低い人たちの消費水準は当然低い結果、こうした消費の低下をもたらしていると考えることもできる。また、資産デフレを経験した人たちは、同時に失業も含めて所得水準の低下も負っている世代である。したがって、持家確率という変数だけでなく、消費の低下には、多くの他の変数の影響も含まれているように思われる。(YF)
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