季刊 住宅土地経済の詳細

No.61印刷印刷

タイトル 季刊 住宅土地経済 2006年夏季号
発行年月 平成18年07月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言「マンションみらいネット」の普及を高橋進
特別論文家族・地域・住宅高木恒一
研究論文社会資本は生産性を高めたのか?大竹文雄・川口大司・玉田桂子
研究論文国民経済計算における土地のストックとサービス野村浩二
研究論文政府統計における持ち家の帰属家賃について荒井晴仁
海外論文紹介近隣効果と住宅需要行武憲史
内容確認
PDF
バックナンバーPDF
エディ
トリアル
ノート
 公共事業バッシングが始まって久しい。公共投資が悪者にされているひとつの要因は、むだな投資が行なわれているという一般の人たちのパーセプションである。本当にそうなのかどうかを見るためにベストな方法は、個別事業の費用便益分析をチェックすることである。1997年以降、国が行なうすべての公共事業について費用対効果分析が行なわれているので、原理的にはこれが可能である。しかし、膨大な数の事業を個別に見る必要があるし、分野ごとに作られている便益費用推計マニュアルを精査することも必要であるので、いまだにこの方向での十分な検討は行なわれていない。
 その代わりに頻繁に行なわれているのが、大竹文雄・川口大司・玉田桂子論文(「社会資本は生産性を高めたのか?」)のようなマクロ的なデータによる統計的分析である。これは国全体や都道府県別あるいは都市圏別の集計データを用いて、社会資本が生産性を向上させているかどうかを検証するものである。
 社会資本の生産性効果の推定はすでに数多く行なわれており、本誌にもいくつか掲載されている。これまでの研究でわかったことは、最近のデータを用いて推定すると、社会資本の生産性がマイナスに出てくる傾向が顕著であることである。むだな社会資本投資が行なわれて、その生産性が限りなくゼロに近いことはありえても、マイナスになることは考えにくい。
 著者たちも指摘しているように、社会資本の生産性がマイナスに出てくるのは、内生性バイアスによるものであろう。日本では社会資本投資が生産性の低い地域に傾斜配分される傾向が大きい。このことから、生産性の低い地域の社会資本ストックが相対的に大きくなり、生産性を社会資本について回帰するとマイナスの符号が得られることになる。
 こういった内生性バイアスを補正するために、地域別のパネルデータを用いて各地域の固定効果を除去したり、社会資本投資の地域間配分に影響する変数を使った操作変数法が試みられたりしてきた。著者によると、前者の固定効果モデルは固定効果を除去した後の社会資本の変動が小さいために、信頼できる推定結果が得られない。
 この論文が着目したのは、社会資本投資の地域間配分における政治的な側面であり、それが1994年の選挙制度改革によって大きく変わったことである。この「自然実験」を推定において活用するために、1994年から1998年の都道府県パネルデータを用いて、衆議院議員定数を操作変数のひとつとして推定を行なった。その結果、社会資本の生産性効果は約0.04と、妥当な大きさになった。
 多くの人たちがこれまでトライしてきてほとんどがうまく推定できなかった社会資本の生産性効果を推定できたことは高く評価できる。しかし、当然のことながら、多くの課題が残されている。
 第1に、都道府県データを用いた推定が行なわれているが、都道府県が適切な圏域であるかどうかが問題である。とくに、東京圏と大阪圏は複数の都道府県が一体となって都市圏を形成しているので、県ごとにバラバラにすると集計バイアスが発生する恐れがある。
 第2に、生産関数が資本と労働について一次同次であるという仮定を置いて推定している。一次同次制約の検定を行なって、それが棄却されなかったので、この仮定を置いたという手順はもっともであるが、都市圏ベースの推定を行なうと生産関数が一次同次でなく、有意に規模の経済性を持つことが多い。一次同次性が棄却されなかったのは、都道府県データを用いていて、都市圏データを用いていないことによる可能性がある。生産関数に一次同次制約を置くと、社会資本の生産性が有意に正になることが多い。これは、社会資本ストックが都市規模と相関していて、都市集積の経済性を社会資本ストックの係数がつかまえてしまうからである。
 第3に、社会資本の生産性効果は衆議院議員定数を操作変数として用いなくても、有意であり、ほぼ同じ値になっている。これまでの研究と異なり、社会資本の内生性によるバイアスが深刻でなかった原因は何かを検討する必要がある。
 第4に、選挙制度改革による社会資本投資配分の変化は、フローの「投資」の変化であり、推定に用いた社会資本ストックの変化ではない。時間とともにフローの変化がストックの変化をもたらすことは事実であるが、選挙制度改革が直接に社会資本ストックを変化させるという定式化には問題が残る。
 
 野村浩二論文(「国民経済計算における土地のストックとサービス」)は、国民経済計算や産業連関表における土地の扱いが完璧な整合性を持っているわけではないことを指摘している。
 現行の国民経済計算体系では、土地の賃貸は生産活動とはみなされず、賃貸料は財産所得として定義されている。一貫して適用されれば、この定義でも問題はないはずであるが、産業連関表の実際の測定においては、必ずしも整合的でない取り扱いが見られる。自己所有の土地については、帰属地代分は所有者の営業余剰に含まれる。借地の場合には、地代のみを分離して払っているときには使用者の営業余剰に、建築物の賃貸料と地代とを一体として払っているときには、土地所有者の営業余剰に含まれる。したがって、所有か賃貸かによって地代分が誰の生産額に入るかが異なることになる。生産活動自体には相違がないので、これは不合理である。
 こういった問題を解消するために、土地の賃貸を生産活動とみなすことと、土地ストックのうちで、生産要素として生産に用いられている部分を区分して、生産要素としての土地の投入量の変化が見えるようにすることを提案している。この提案に沿った国民経済計算体系の詳細は示されておらず、完全に整合的な体系が構築できるかどうかは必ずしも明らかでないが、重要な問題提起であり、さらなる検討が望まれる。
 
 荒井晴仁論文(「政府統計における持ち家の帰属家賃について」)は、国民経済計算等の政府統計における住宅の帰属家賃の推計方法を検討している。持ち家については貸家と違って家賃の支払いが行なわれていないが、住宅サービスが提供されていることは同じである。問題は、家賃のデータがないときに、持ち家の価格(帰属家賃)をどう推計するかである。
 帰属家賃の推計においては、貸家の家賃データを用いる以外の選択はほぼ考えられない。その際に問題となるのは、住宅の多様性である。戸建てか集合住宅か、木造か非木造かといった構造特性や都心への距離のような立地特性によって、家賃が大きく異なっている。住宅属性による調整をどういう方法で行なうかが各種政府統計によって異なっている。
 国民経済計算では、昨年までは住宅属性の考慮を行なわず、単純に「持ち家の総床面積×貸家の単位家賃」で計算していた。改訂後は、所在地、構造、建築時期で住宅を区分し、区分ごとに貸家の単位家賃を推計し、これを各区分の床面積に掛け合わせている。平成12年度の推計値は、旧来の方式では49.9兆円であったが、新しい方式では42.8兆円となり、7兆円も減少した。
 全国消費実態調査では、ヘドニック回帰を用いて帰属家賃を推計している。国民経済計算とは統計の目的が異なるので、単純な比較はあまり意味がないが、平成11年全国消費実態調査による持ち家帰属家賃に持ち家住宅総数をかけて帰属家賃総額を計算すると、25.0兆円となり、国民経済計算よりはるかに小さい値になる。
 帰属家賃と家賃関数に関する先行研究は、全国消費実態調査のヘドニック回帰における住宅属性のコントロールは必ずしも適切でないことを示唆している。荒井論文では、独自のヘドニック回帰によってこの問題点の分析を行なっている。分析結果によると、地域区分・地域ダミーを採用しただけでは、住宅の立地属性のコントロールは必ずしも十分でなく、規模が大きくなるほど割安になる家賃関数が計測されて、比較的規模の大きい貸家の家賃が過小評価される可能性がある。これは、小規模借家が利便性の高い場所に集中していることによって、比較的規模の大きい貸家の家賃が過小評価されるからである。より正確な帰属家賃の推計のためには、通勤時間や交通機関までの距離等の詳細な立地属性を用いたヘドニック回帰が必要であるとしている。(KY)
価格(税込) 750円 在庫

※購入申込数を半角英数字で入力してください。

購入申込数