季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2007年春季号
発行年月 平成19年04月 判型 B5 頁数 42
目次分類テーマ著者
巻頭言世界都市・東京としてさらなる進化を田中順一郎
特別論文まちづくり三法と地域再生小林重敬
研究論文都市税制と経済効果中神康博
研究論文土地利用の非効率性の費用清水千弘・唐渡広志
研究論文密集市街地の外部不経済に関する定量化の基礎研究宅間文夫
海外論文紹介リピートセールス価格指数における非線形な築年数効果の調整原野啓
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ノート
 住民税と固定資産税は市町村の基幹税であり、合わせると市町村税収の85%以上を占める。80年代のバブル期には、固定資産税評価額が過小であることが地価の高騰を招いているという議論が多かった。このような議論を受けて、評価額を上げてきたことが、固定資産税の比重が上がってきた理由である。平成16年度には、固定資産税が市町村税収に占める割合は40.3%で、住民税の46.2%に迫っている。
 中神康博論文(「都市税制と経済効果」)は、市町村税において、住民税と固定資産税の比率がどうあるべきかを理論的に分析し、それを日本の市町村データに適用している。
 中神論文が考慮している要因の主要なものは以下の3点である。
 第1に、固定資産税は土地だけではなく建物部分にも課税されるので、不動産市場に歪みをもたらす。このことによって、効率性のロス(死重損失)が発生する。これに対して、住民税は効率性を損なわないと仮定している。この要因しか存在しなければ、固定資産税をゼロにし、住民税だけにするのが最適になる。
 第2に、賃貸住宅は不在地主が供給していて、不在地主の利益は最適税制の選択において考慮されないと仮定している。したがって、固定資産税を上げて、不在地主の利益を減らすほうがよいということになる。
 第3に、所得分配の公平性を考慮に入れている。住民税と比較して固定資産税が逆進的であれば、最適な固定資産税率は低くなり、逆であれば、高くなる。
 実証分析においては、第1に、固定資産税の実効税率が、高齢化率が高い市町村ほど、また人口密度が低い市町村ほど高くなっているという結果を得ている。第2に、税が累進的であるか逆進的であるかについては、税収の所得弾力性が高いほど累進的であるという仮定を置いて、市町村のクロスセクション・データから住民税と固定資産税の所得弾力性を計測している。その結果、高齢化が進んでいる市町村ほど、また、人口密度が低い市町村ほど、住民税から固定資産税へのシフトがマイナスの再分配効果をもつという結論を得ている。
 市町村税において住民税と固定資産税のバランスがどうあるべきかはきわめて重要で基本的な問題である。この大問題にアプローチする理論的な枠組みを構築したことは高く評価できる。もちろん、野心的な試みであるだけに、今後の課題が数多く残されている。すべてをリストアップする紙幅はないので、以下の2点だけを指摘しておく。
 第1に、住民税は資源配分の歪みをもたらさないと仮定しているが、実際には、労働供給の歪みをもたらす。アメリカでの研究では、所得課税のもたらす死重損失のほうが固定資産税のもたらす死重損失より大きいという結果を得ていることが多い。
 第2に、賃貸住宅の家主の厚生が最適税制の設計において無視されるとしているが、日本においては古くからの地主が借家を供給していることが多いので、家主たちの地方政治における影響力は大きい。彼らの声が無視されるケースは少ないものと思われる。

 一昔前は、オフィスが住宅地に浸食してくることが問題にされ、それを阻止するための土地利用規制強化が叫ばれていた。最近では、オフィスから住宅への転換が増えていることを見ると隔世の感がある。
 清水千弘・唐渡広志論文(「土地利用の非効率性の費用」)は、東京都区部の事務所市場において、その物件が住宅であったとした場合の収益を計算し、それを事務所としての収益と比較している。
 社団法人全国宅地建物取引業協会連合会による事務所賃料データ、株式会社リクルートによる住宅賃料データを用いてそれぞれの用途の賃料に関するヘドニック推定を行なっている。これを土地建物利用現況調査による事務所ストックに適用して、各サンプル地点における超過収益(事務所用途の収益-住宅用途の収益)を計算している。
 1991年から2004年にかけての超過収益の動きを追うと、時間の経過とともに超過収益が下がってきていて、2004年時点では全体平均で27.58%の事務所で超過収益が負になっている。空間的には、とくに郊外部において超過収益が負になっているビルが拡大している。
 土地建物利用現況調査は1991年度、1996年度、2001年度の3時点のデータが利用可能であるので、事務所から住宅に転換したビルとそうでないビルとの比較も行なっている。ここでの結果は、用途転換が行なわれたビルほど超過収益が小さいという自然なものである。
 バブル崩壊後のオフィス賃料の低下によって、住宅用途のほうが事務所用途より収益率が高くなっているということはよくいわれている。これを膨大なデータを用いて客観的に検証したことは貴重な貢献である。しかしながら、ここでの分析は土地利用転換費用を考慮していないことに注意が必要である。建替えや権利関係の調整にかかる膨大な費用を考えると、住宅賃料のほうが事務所賃料より高くても、その差が十分に大きく、しかも長期にわたって継続すると予想しなければ用途転換は行なわれないし、行なうことは非効率である。
 この論文でいう土地利用の非効率性は土地利用転換費用を無視しているので、スタンダードな経済学における効率性の概念とは異なっている。したがって、この論文の結果から直接的に政府介入の必要性を議論するのは無理である。

 危険な密集市街地は、東京や大阪のような大都市圏においてもまだ多く残っている。密集市街地を安全なものにするためには、避難のための道路や公園の整備や延焼阻止のための耐火建築への建替え等が必要である。こういった面的な整備には、巨額の資金と合意形成のための長い年月が必要である。
 宅間文夫論文(「密集市街地の外部不経済に関する定量化の基礎研究」)は、密集市街地で発生している外部不経済の大きさを定量的に推定している。こういった研究は密集市街地整備の社会的便益を推計するための基礎として貴重なものである。
 密集市街地は市町村全域に広がっているわけではないので、より細かい単位のデータが必要になる。宅間論文では、町丁目単位のデータを用いて精密な分析を行なっている。
 被説明変数に公示地価を用いたヘドニック推定によって、以下のような推定結果を得ている。
(1)非密集市街地と比べて、重点密集市街地においては約2.88%地価が低く、密集市街地では2.06%低い。
(2)町丁目における燃化率が1%改善すると、重点密集市街地においては地価が0.006%上昇し、密集市街地においては0.0036%上昇する。
(3)密集市街地と非密集市街地との間の地価格差は町丁目別倒壊危険度が高いと拡大する。たとえば、重点密集市街地の地価は、非密集市街地と比べて、倒壊危険度レベル2の場合には約3.25%低いだけであるが、倒壊危険度レベル4の場合には約18.9%低くなる。
(4)重点密集市街地における公園・教育施設面積が1%増えると、地価が約0.017%上昇する。
 これらの推定結果が小さすぎるのか大きすぎるのかについては議論があるところであろう。とくに、地価公示データを用いたことから、条件の非常に悪い地点が除外されている可能性がある。密集市街地の問題は政策的にきわめて重要な問題であるので、家賃データ等の他のデータを用いた推定が行なわれて、実証分析が積み重ねられることを期待したい。(KY)
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