季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2009年冬季号
発行年月 平成21年01月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言経済の活性化は住宅から岩沙弘道
座談会高齢社会の住まいをどう考えるか岡崎敦夫・岡本利明・園田眞理子・中川雅之
研究論文パネルデータによる家計の転居行動分析直井道生
研究論文省エネルギー判断基準規制の費用便益分析と定量的政策評価戒能一成
海外論文紹介教育サービスの質と人口構成が住宅取引価格に与える影響小西俊作
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 住宅市場の把握のために一時点で多くのサンプルを集めたデータをクロスセクションデータと呼び、ひとつのサンプルについて時系列的に調べたデータをタイムシリーズデータと呼ぶ。この2つの特徴を兼ね備えた、複数の同一調査対象を時系列的に追跡したデータをパネルデータと呼ぶ。パネルデータでは、時点間比較と調査対象の違いによる比較とを同時に行なうことができ、潜在的には多様な分析を行なうことができる貴重なデータである。
ところが、調査対象が人の場合には、継続的な調査の拒否や、居所が不明となって調査不可能になることが多々ある。このサンプル脱落という現象は、サンプル数を減少させ、また残ったサンプルにバイアスをもたらすため、分析結果にもバイアスを生ぜしめる可能性が高い。特に住宅の場合には、転居が追跡不能原因になりやすく、そのために転居率には下方バイアスがかかることが想定される。
 直井論文(「パネルデータによる家計の転居行動分析」)は、このサンプル脱落の効果を統計的に調べた研究である。サンプル脱落の統計的効果の説明は直井論文でていねいに記述されているため、ここでは結果について述べたい。
 分析結果によれば、世帯主が40代、有配偶者、女性世帯主などの場合に転居が少なく、それを加味すると、明瞭に転居率が高く推計されることが示されている。また、転居率だけではなく、転居関数が

より適切に推計されることから、世帯の諸要因による転居傾向をより的確にとらえることができる可能性を示している。ただし、直井論文で報告されたモデルを比較すると、サンプルセレクションモデル(脱落傾向を加味したモデル)が、すべての変数において改善されているとはいえず、今後の改善の余地がある。
 パネルデータは、住宅市場の理解のために多大な示唆を与えてくれる可能性がある。しかし、サンプル脱落というパネルデータ特有の問題点に対して適切に対処しないと、場合のよっては誤った結論を導いてしまう危険もある。直井論文は、その重大な警鐘を鳴らしているとともに、そのための対処方法を示唆するものとして、大きな貢献をしていると言える。

 省エネルギーは重要な国家的課題となっており、建築分野でもその推進が必要とされている。省エネルギーを促進するために、省エネルギー法によって基準規制が導入されているが、その効果について十分な検討がなされていない。
戒能論文(「省エネルギー判断基準規制の費用便益分析と定量的政策評価」)は、この点での貢献を試みている。
 戒能論文では、建築物の業種別・用途別エネルギー消費量の将来推計を行なっている。具体的には、将来の床面積を推定し、エネルギー効率をもとにエネルギー消費量を推定する。そのうえで、規

制が存在する場合と規制が存在しない場合を比較して、政策の便益を推定している。また、規制によって設計や資材の変更が強いられるための建設費の変化を推定して、政策の費用を求めている。基本的には現状の傾向をそのまま外挿した予測となっているため、傾向が変われば予測値も変わることに注意する必要がある。
 分析の結果、短期的には費用を上回る便益が得られず、全体としても費用に比較して便益が小さいことが判明した。その理由として、建築物の耐用年数がきわめて長いこと、規制に対応するための追加的費用の変化が大きいことを戒能論文は指摘している。このことをもって、既存建築物のエネルギー効率向上を促進する措置が合理的と結論づけている。
 今後の長期的な傾向から考えるとエネルギー価格は上昇することが想定され、その場合には費用便益比は改善する可能性がある。また、省エネルギー技術の発展により、同じ省エネルギー効果でもより廉価な建設方法が普及する可能性も考えられる。しかし、新築建物だけでは省エネルギー効果が小さいという戒能論文の結論は十分に傾聴に値する。今後精緻な予測を行ない、政策効果をより正確に推計することにより、適切で効率的な省エネルギー政策の推進が望まれる。


(Y・A)
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