季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2010年冬季号
発行年月 平成22年01月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言住宅政策の現状川本正一郎
座談会「エコ住宅」の現状と課題金本良嗣・平生進一・ 野城智也・山下英和
研究論文土地取引への不動産取得税の影響井出多加子・浅田義久
研究論文事業用土地の需要関数と買換え特例制度杉野誠・宅間文夫
海外論文紹介住宅密度が自動車利用とエネルギー消費量 に与える影響岩田和之
内容確認
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本誌が創刊されて以来、住宅市場や土地市場をめぐる実証分析はかなり様変わりした。創刊当時はデータの手入力などそれほど珍しいことではなかったが、いまや不動産関連データのデジタル化も進み、膨大なサンプル数による実証分析もいとも簡単に処理できるようになった。土地・住宅に関するヘドニック価格指数や住宅需要関数の推計などその恩恵に浴した分野は枚挙にいとまがないが、土地政策や住宅政策など政策にかかわる実証分析は、省庁による情報開示などの制約もあってそれほど容易ではなかった。しかし、近年その省庁による情報開示も急速に進み、かつては難しいとされてきたデータへのアクセスも可能になりつつある。本号に掲載された2 本の論文もこうした流れのなかで生まれてきたものである。

井出多加子・浅田義久論文(「土地取引への不動産取得税への影響」)は、不動産取得税に関する実証分析である。エコノミストのあいだでは、不動産取得税は土地取引を阻害しており、経済学的な根拠に乏しい不動産取得税は撤廃してもよいのではないかという声は多いが、実際に不動産取得税が土地取引に及ぼす影響に関する確固たる論拠があるわけではない。
井出・浅田論文は、国土交通省が1970年以来毎年行なっている『土地保有移動調査』というデータをベースに、土地購入に与える不動産取得税の影響について個人および法人に対する実証的な分析を試みている。このデータは個人および法人の土地購入者の個票データをもとに集計されたものであるが、こうしたデータを用いた実証分析はこれまでになかったものである。
井出・浅田論文では、不動産取得税に関する特例措置が1990年代に3 度変更されたことに着目して土地購入確率や土地需要関数の推計を行ない、不動産取得税について理論モデルと整合的な実証結果が得られている。『土地保有移動調査』には土地を購入しない個人および法人についての情報は含まれていないため、購入確率の推計に際して、購入した個人および法人のミクロ情報から購入しなかった個人および法人のミクロ情報を加工するという工夫を施し、それを加えてプロビットモデルを推計している。誰の行動を分析しているのかという点を含めて、計量モデルの確率的な前提を明確にする必要があるように思われる。また、不動産取得税の土地取引における影響力の程度については言及されておらず、その点惜しまれる。
一方、杉野誠・宅間文夫論文(「事業用土地の需要関数と買換え特例制度」)は、事業用土地に対する土地譲渡益重課税のもとでの買換え特例制度の効果に関するミクロデータに基づいた実証分析である。それを可能ならしめたのは、やはり国土交通省によって1972年度以来毎年実施されている『企業の土地取得状況等に関する調査』の個票データへのアクセスである。
杉野・宅間論文は、企業の事業用土地の需要関数および購入・売却の確率モデルに対して、法人譲渡益重課税と買換え特例制度が及ぼす影響について分析している。実証結果によれば、法人譲渡益課税は事業用土地の保有および売却においてロックイン効果をもたらす一方、土地譲渡益重課税のもとでの買換え特例制度が土地売却を促進させる間接的な効果があるという。実証分析は、資本金1 億円以上の非上場企業を含む1990年から2005年までの5616社の企業の個票データをベースにしているが、土地需要関数や売買確率モデルの推計に際して、データの確率的な性質および計量モデルの誤差項がもつ確率的な仮定ついてより丁寧な説明が求められよう。また、買換え特例制度の影響を分析するために、「買換え特例ダミー」「保有期間地価上昇率」「実効譲渡益税率」の交差項が説明変数として用いられているが、この変数から買換え特例がもたらす直接的な効果を識別することはできないのは残念である。

本号に掲載された2 本の論文は、いずれもこれまでアクセスすることが難しかった個票データにもとづくユニークな実証分析であり、政策に対する検証が求められるなか、こうした分析が果たす役割は今後ますます重要性を増すことになるだろう。政策分析に関わるデータへのアクセスがさらに進むことを期待したい。(Y・N)
価格(税込) 750円 在庫

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