季刊 住宅土地経済の詳細

No.85印刷印刷

タイトル 季刊 住宅土地経済 2012年夏季号
発行年月 平成24年07月 判型 B5 頁数 40
目次分類テーマ著者
巻頭言Jリート10年と今後への期待伊藤博行
特別論文これからのUR 賃貸住宅石井喜三郎
論文住宅価格指数推計における情報選択清水千弘・西村清彦・渡辺努
論文米国における住宅ローンデフォルトと個人破産に関する実証研究三善由幸
海外論文紹介住宅、土地、そして居住者石川徹
追悼吉田あつし先生
内容確認
PDF
バックナンバーPDF
エディ
トリアル
ノート
◇一般に価格指数を作成するときには、二つの問題がある。一つは推計方法に関する問題であり、もうひとつは指数作成の基礎になる情報をどのようにして選択するかという問題である。後者の情報選択の問題はこれまで十分な検討がされてこなかった。
◇とりわけ、日本では取引価格情報の整備が遅れていたために、公示価格などの不動産鑑定評価に基づいた価格調査に依存せざるを得なかった。公示価格というのは、いってみれば不動産鑑定士によって品質調整された価格指数ということができる。
◇清水・西村・渡辺論文(「住宅価格指数推計における情報選択」)は、住宅価格指数を作成する際の情報選択の問題について考察したもので、一般的な情報選択の問題を扱うことによって、どのようなバイアスが生じるか、あるいはどのような操作をすれば、バイアスを取り除くことができるかという点について分析している。
◇言うまでもなく、住宅は標準化された財とは必ずしも言えず、品質が著しく異なっているものがたくさん含まれている。時間とともに老朽化し住宅価格は低下する。また立地の良い場所の住宅等は一般に高額になる。
◇ところで、住宅価格についてもさまざまなデータが存在する。例えばリクルート情報誌等からデータを得る場合は、最初に売り手が提示する売り希望価格、その後買い手が登場したときや売り手が売却を断念した場合にデータから消去される価格データが存在している。さらに、交渉後に契約が成立するときの取引価格というデータも存在する。
◇こうしたさまざまな種類の価格データが存在していることと、それぞれの価格について住宅の品質が異なっているという点が問題とされている。そこでよく試みられるのは、こうしたデータの中から、品質情報を取りだして、ヘドニック法を用いることである。
◇こうした品質情報が存在しない場合のもう一つの方法は、リピートセールス法である。これは、複数回売買の履歴のある同一物件のデータをトレースしていくことによって、時間以外は同じ品質というデータを用いて、品質をコントロールするという方法である。
◇よく知られているように、ヘドニック法とは、価格データを住宅の品質、すなわち立地や建築年数等について回帰して方程式を推定することである。例えば、専有面積、建築後年数、最寄り駅までの距離、都心までの時間に加えてさまざまな建物の構造を取り上げて、住宅価格についての回帰方程式を推定する。これに各変数の平均値等を代入して品質調整済の住宅価格指数を作ることができる。
◇清水・西村・渡辺論文は、単純にヘドニック法を用いる場合や、分位点ごとにヘドニック方程式を推定して、回帰係数の分布を求めたうえで、回帰係数の変化と住宅属性の変化に要因分解し、情報選択が価格指数にどのような影響を及ぼすかについて実証した研究である。
◇こうすると、実際の価格変動に対して、かなりの部分が品質の違いから生じていることがわかる。どの価格データについても、同じ結果が示されることが明らかになった。単純なヘドニック法を用いても、品質調整がうまくいけば、どの価格データについても同じようなバイアスを取り除くことができることが示される。
◇すなわち、売却や購入過程で得られる複数のデータが存在する場合に、そういうデータに対して、適切な方法で品質調整を実施すれば、どの価格データを用いても、安定的な価格指数が得られるということである。
◇これは重要な意義を持っている。例えば、希望価格のデータから実際の取引価格のデータが得られるまでには、 年以上の差があることも珍しくない。そうした異なる母集団からのデータでありながら、品質情報がきちんと得られて、適切な品質調整を行なえば、かなりの程度同じ情報量のデータが得られることを意味している。
◇分布の相違が、かなりの部分住宅の属性に依存しており、これを調整すれば住宅価格分布の格差は著しく削減されることが明らかになった。言いかえると、品質調整の重要性がますます高くなったと言うことができる。

◇米国では、個人が債務を返済できなくなった場合に二つの選択肢がある。ひとつは、住宅ローン・デフォルトであり、一定期間債務の返済が滞り、正常な返済への復帰が困難になると、担保物件の処分に至る。
◇もうひとつは、個人の民事再生を目的とした個人の破産制度である。個人破産についてはさまざまな優遇措置があり、債務者の資産を保全することが求められている。住宅ローンのデフォルトの場合には、一時的な債務の返済が滞った後に、債務者との面談等を通じて担保物件の任意売却という段階的な過程が踏まれていくのに対して、個人破産法では延滞を経由せずに、債務者が個人破産を選択することが可能になっている。
◇個人破産法の大きな特徴は、州ごとに破産の免責額が決まっていることである。すなわち、精算手続き終了後に、破産を申し立てた債務者が一定の資産を確保することができるようにされている。したがって、実質的な債権から債務を引いた残差、すなわち実質的な債権額に対して免責額が決まっており、免責額を上回った金額だけが責任財産とされ、債務者の返済へと充てられることになる。
◇また資産ごとに、それぞれの免責額が決められているのも興味深い。住宅だけでなく、自動車や生活に必要と考えられる個人財産については、それぞれの免責額が決められている。
◇企業の再生と同じように、債務から独立し、個人が生活を再建することを目的としたものであるという点を考えれば、破産に対する免責額があることは十分考えられる。しかし同時にモラルハザードをもたらす可能性も高い。債務者はこうした住宅免責額があるために戦略的な行動をとり、安易に個人破産を選択する可能性も指摘されている。
◇三善論文(「米国における住宅ローンデフォルトと個人破産に関する実証研究」)では、米国における住宅ローンの債務不履行と、個人の再生を目的とした個人破産がどのような場合に選択されるかという問題について実証的な観点から分析されている。制度について丁寧に説明されており、アメリカの先行研究についても、要領よくまとめられている。
◇この研究の特徴は、住宅ローンデフォルトと個人破産を同時に一つのフレームワークのなかで取り扱うことにある。こうした研究はこれまでにないものであり、その点がこの論文の特色であると言える。
◇多項ロジット・モデルを使って、住宅ローンと一般ローンの返済に関して、債務者がどのように戦略的な行動をとり、どのような場合に個人破産や住宅ローンデフォルトを選択するかについて実証研究がなされている。
◇主要な結果は予想された通り、ローンの額が住宅資産の価値に対して大きくなるにつれて、個人は住宅ローンデフォルトを選択する可能性が高いという結果が得られている。また「過去 年間において融資の申し込みを断られた経験のある」というダミー変数を用いて、借入制約の効果を求めたところ、それが個人のデフォルトに関して有意な影響を及ぼしていることがわかった。
◇気になるのは、住宅ローンと一般ローンについて、定期的に返済義務を負っている個人にサンプルを限定している点である。住宅ローンや一般ローンを負っていない世帯を含めなかったことは、何らかのサンプルセレクション・バイアスをもたらすのではないだろうか。
◇住宅ローンや一般ローンを借りる人のなかには、こうした戦略的な行動を考えてローンを組んでいる人が少なからずいるのではないだろうか。その意味で戦略的な行動を取る人だけをサンプルに含めている可能性が高いように思われる。
◇また、消費者は地価の上昇について、backward-looking の期待を持っているという結論を導いているが、他の期待仮説を用いた場合との比較をしたうえで、backward-looking の期待形成のほうが、説明力が高くなるかどうかという検証が必要であるように思われる。実証研究の中身についてはもう少しコンパクトな形で説明ができるように思われる。(F・Y)
価格(税込) 750円 在庫

※購入申込数を半角英数字で入力してください。

購入申込数