季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2013年冬季号
発行年月 平成25年01月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1-1これからの住宅政策井上俊之
座談会2-18スマートシティは都市を変えるか?河合淳也・谷口守・中川雅之・和田信貴
論文20-27家計の失業・所得変動リスクと住宅取得タイミング直井道生
論文28-35土地のアメニティと居住地選択森岡拓郎
海外論文紹介36-39不確実性下での建物取り壊しの意思決定と価格に関する研究定行泰甫
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ノート
住宅市場以外の動向が住宅市場にどのような影響を与えているか分析することは、住宅経済において重大な関心事である。特に、近年、経済が低迷して、フルタイムの雇用需要が縮小し、新規に職を得る年齢層である若年層の労働市場環境が悪化している結果として、所得が低かったり、雇用が安定しないなどの理由で、大きなローンを背負っての持家取得が難しくなっているという実態がある。
直井論文(「家計の失業・所得変動リスクと住宅取得タイミング」)では、若年層の労働市場環境の悪化が住宅取得のタイミングを遅らせているのではないかという仮説を検証している。既存研究では、持家は最終的な住宅所有形態であり、どのような世帯においても常に正の住宅取得確率があるというモデルで分析されている。そのため、非常に長期間にはすべての世帯が取得するであろうことが暗黙に仮定されていることになる。ところが、年齢別持家率の実態を見てみると、約 割で頭打ちとなっている。そのため、理論モデルと実態には齟齬があった。
直井論文では、Split Population Duration Model を用いている。すなわち、世帯を2群に分けて、一つの群はこれまでのモデルと同様だが、もう一方の群は持家住まいを諦めている(すなわち、住宅取得確率は である)と仮定してモデルを構築している。
分析の結果、実際に持家取得諦め群に入る確率がほぼ 割と推定され、持家取得確率は過大とならず、また、失業・所得変動リスクなど労働市場環境の悪化の効果が過小推計されることを防いでいる。
住宅ローンを組む場合には、金融機関は年齢、雇用形態、職業、所得などの諸情報からローンの可否、上限値などを定めている。ここで分析に用いた失業リスク、所得変動リスクの一部はそのような住宅ローンの可否などと関係していると思われ、現実の審査に使われる変数をとり入れることで、より精度の高い分析になるのではないかと思われる。
標準的なモデルの仮定自体に、実態との齟齬を見出し、それを改めて、適切な実証分析に改めている点で、参考になる論文である。

住宅市場において、住宅や居住地の選択は、居住環境、価格、世帯事情による需要、世帯の価値観の表れとしての選好の相互作用が顕在化する重要な局面であり、数多くの分析がなされてきている分野である。
住環境を分析にするにあたって、それぞれのサンプル地点における住環境指標で捉えられる要素と、把握が難しい要素がある。往々にして、把握が難しい要素は単純に誤差として片付けられてしまうことが多い。しかし、現実には、その誤差にこそ、重要なアメニティに関する情報が隠されていることがある。
森岡論文(「土地のアメニティと居住地選択」)では、従業地が与えられた家計の居住地選択問題と敷地の広さの選択問題をモデル化し、居住地のアメニティについて分析をしている。モデルの特徴として、土地の選択問題に限定することで、建物の品質と土地アメニティの間に存在する相関関係による内生性の問題を回避し、関東全域について、1kmメッシュ単位で説明変数では捉えきれない魅力度を計測することに成功している。モデルでは、従業地が多様であること、人々の嗜好に多様性があることなどを許容している。
分析をすべてメッシュ単位で行なうために、変数の準備のために多くの工夫や作業を行なっており、変数構築方法自体にも参考になる点がある。
分析の結果を見てみると、住宅地としてブランド性があると言われている地域で残差が高く、変数では見えないアメニティが高いことが示唆されている。説明変数は各種施設までの距離など、主として利便性に関わる指標が含まれている。他方で、どのような人々が住んでいるかといったコミュニティの質やその地の文化性などが含まれておらず、それらが残差として現れていると推測できる。また、著者も述べているように、時間距離ではなく直線距離を用いたことによる偏りが残差にも現れている。
分析で用いた操作変数の条件が満たされていると言えるかどうか、土地の広さを選ぶ要因が地代(地価)のみと考えてよいか、などの問題はあるものの、興味深い定量分析結果を提示できている。
(Y・A)
価格(税込) 750円 在庫

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