季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2013年春季号
発行年月 平成25年04月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1公益財団法人としてのスタートにあたって牧野徹
特別論文2-7イギリスの税制、日本の税制佐藤和男
論文10-19持ち家の帰属家賃の測定清水千弘
論文20-27サービス付き高齢者向け住宅への補助政策の経済分析丹呉允・高山知拡
論文28-35地震リスクとオフィスビルの不動産価値との関連性小松広明
海外論文紹介36-39フードデザート研究の現状とこれから関口達也
内容確認
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ノート
住宅が日本の国富の大きなシェアを占めていることはよく知られている。このため、住宅の価値を的確に把握することが国富を知るうえで重要となる。その方法として、経済統計では帰属家賃を求めて計算している。帰属家賃とは、持ち家に対して、所有者が自分の住宅に対して払うと想定される家賃額である。持ち家が賃貸住宅として市場に出された時の家賃額ということになる。もちろん、そのような家賃は実際には払われないので、推計するしかない。
清水論文(「持ち家の帰属家賃の測定」)では、適切な持ち家の帰属家賃を推定する方法を探求している。帰属家賃を推計する主な方法としては、近傍の賃貸住宅の家賃から推計する近傍(等価)家賃法と住宅を保有することの機会費用から推計するユーザーコスト法とがある。
清水論文では、近傍家賃法で推計した結果、推計された帰属家賃と県民経済計算による持ち家の帰属家賃とは、時期によっては10倍の乖離があったことを示している。この理由として、賃貸住宅市場と持ち家市場における住宅品質に差があることに加えて、住宅価格と家賃の変動は完全には連動しておらず、結果としてバブル期など価格変動が大きい時には大きく乖離してしまうことを指摘している。また、ユーザーコスト法では、資産価格変動に大きく依存してしまい、不自然に負の値になったりする問題がある。
そこで、清水論文では、ディワートにより提唱された、両方の方法を折衷させた機会費用を用いる方法で推計した。ディワートの方法とは、ユーザーコストと近傍家賃法による家賃の最大値を機会費用と考えて、計算する方法である。ユーザーコスト法による不自然な負の値の弊害を減じることができるのが利点となっている。
ただ、この方法でも時期によっては3.5倍の乖離が見られることを明らかにしている。国民経済計算や消費者物価統計で大きなウェイトを占める帰属家賃が、いかに推計が困難な対象であるかを明らかにしたという意味で画期的な研究である。
そもそも、帰属家賃という概念は、市場で観測される統計量ではなく、あくまで仮想的な概念である。そのため、正解がない問題に対して、精度を求めねばならないという難しい状況にある。その意味では、経済統計において、帰属家賃よりも信頼性の高い別指標を用いるほうが良い可能性を示唆しているとも言える。また、学問的には、まだ大きく改善の余地がある挑戦しがいのある分野であるとも言えるだろう。
今後のさまざまな討議を呼び起こす可能性のあるエポックメイキングな論文であると言えよう。

今後、高齢化がさらに進行することは確実であり、その際に高齢者の生活支援をどのように社会的に整備していくかは喫緊の課題となっている。そのためにも、効率的で効果的なサービスの供給が求められている。
高齢者用住宅のなかでも、バリアフリー構造を有し、安否確認や生活相談サービスがあり、かつ事業者からの一方的な解約などを防ぐ契約の住宅をサービス付き高齢者向け住宅という。この住宅が、高齢者の生活支援という意味で、重要な一翼を担うことが想定されている。
丹呉・高山論文(「サービス付き高齢者向け住宅への補助政策の経済分析」)では、このサービス付き高齢者向け住宅(以下、サービス付き)への補助政策の効率性について評価を試みている。
介護施設とサービス付きを比較すると、介護施設への補助のほうが手厚い。そのため、サービス付きの需要が相対的に低くなる。介護施設への過大な需要量を軽減するために、現状では総量規制がある。すなわち、需要者と供給者の割当によって、マッチングをしているのである。実際には、要介護度の高い者が多く割り当てられており、その意味である程度効率的に運用されている可能性はあるものの、価格機構が働かない分、非効率性は避けられないとしている。
その場合、サービス付きへの補助を充実すれば、介護施設への過大な需要は抑制されるため、効率性改善の余地があることとなる。
サービス付きには介護事業所や診療所等を併設しているものと、併設していないものがある。併設しているもののほうが、移動費用削減や人材の多能工化という観点から優れている可能性があるものの、価格に差異を設けることができず、この点でも市場に歪みが生じる可能性があると指摘している。
丹呉・高山論文はサービス付きに対する補助政策の有無を定量的に比較している。結果として、総量規制による入所割当が効率的な場合、もしくはサービス付きへの自主的な移行が少ない場合には、純便益は負となり、政策として推奨できないと指摘している。逆に言えば、割当が非効率でかつサービス付きへの自主的な移行が多い場合にサービス付きへの補助施策が正当化されることとなる。補助によるサービス付きの魅力度向上が大きく期待できるかどうかが重要であると言えよう。
高齢者の生活支援は、今後、さらに高齢者割合が増加しているために、社会全体としての効率的な制度設計が鍵となる。
本研究のような分析をさらに精緻に進め、効率的で効果的なサービスの供給体制を築くことが期待される。

阪神・淡路大震災では、地震の揺れによる建物倒壊が多く発生し、耐震性の重要性を知らしめた。その後、災害復興や耐震面での制度的進展はあったものの、耐震性についての人々の認識はやや薄れてきていたかもしれない。2011年の東日本大震災では、津波被害が大きかったものの、その後の余震も含めて広範囲で地震を経験することとなり、社会における耐震性能に対する関心が高まった。
耐震性能を端的に知る方法は現行の耐震基準に合致しているかどうかであり、1981年_月_日以降の建築確認をとっているかどうかが目安とされる。しかし、旧耐震基準であるからといって、現行の基準に合致していないとは言い切れない。そのため、本来は建物自体の耐震性能を個別に測るしかない。
不動産市場で使われている指標として、PML 値がある。PML 値とは予想最大損失率であり、建物使用中に予想される地震に対して予想される最大の物的被害額の建物再調達価格に対する比である。
小松論文(「地震リスクとオフィスビルの不動産価値との関連性」)では、このPML 値を利用して、オフィスビルの不動産価値に地震リスクがどの程度影響を与えているかを分析している。
地震リスクとオフィスビル価格との関係を分析したところ、PML 値が価格に負の影響を与えていること、さらに、建物倒壊危険度が高い地域ほどその影響は大きくなることを明らかにしている。PML 値は予想される最大被害予測値であって、被害総額の期待値ではない。PML値が大きければ、最大被害値も大きいが、それは被害を受けやすいことも示しているので、長期的な被害総額の期待値はPML 値以上に大きめになると考えることができる。そのため、上記のような結果は、耐震性能に敏感な不動産市場であるならば、極めて自然な結果である。
小松論文では地震リスクと賃料との関係についても分析している。ただ、PML 値はデータとして得られていないために、地域の建物倒壊危険度のみとの関係の分析となっている。結果として、建物倒壊危険度が高い場合には賃料にも負の影響があることが示されている。しかも、危険度が高いほうが負の影響も強く推定されており、これも自然な結果となっている。さらに、小松論文では地震リスクとキャップ・レートとの関係について分析している。キャップ・レートとは、資本還元利回りのことで、家賃収入から諸費用を差し引いたものを価格で割ったものと考えることができる。前分析で、家賃にも価格にも地震リスクは反映していることが判明しているため、地震リスクとの関係は明確ではない。分析の結果、建物倒壊危険度とキャップ・レートの間には統計的な有意性が認められなかったと報告している。価格と家賃に地震リスクが十分に織り込まれているならば、さほど有意な影響が見られないということもうなずける。
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