季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2013年夏季号
発行年月 平成25年07月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1日本の相続税制と土地山崎福寿
特別論文2-7世界の都市総合力ランキングと東京の課題市川宏雄
論文10-18都市規模の決定に関するフィールド実験中川雅之・浅田義久・青木研・川西諭・山崎福寿
論文19-27住民発意による土地利用規制が及ぼす影響の分析杉浦美奈
論文28-36中国における宅価格抑制政策の効果分析亢越・行武憲史
海外論文紹介37-39不動産の価格づけパズルの評価磯山啓明
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実験経済学では、市場を模した環境で実験を行ない、特定の市場環境下で各主体がどのように行動し、結果としてどのような結果を得られるかを探る。例えば、 人で富を分配するような状況下では、パレート最適な均衡は無数にあるが、そのなかで比較的公平な分配がなされる傾向にあることが実験で示されている。このことは、現実の市場参加者が理論モデルで想定する単に自己の利益を最大化するのとは異なる価値基準を混在させて行動していることを推察させる。実験経済学により、人々の行動規範に対してより深い理解を得ることができ、帰結としての市場均衡に対する考え方にも修正を迫ることができる。
中川・浅田・青木・川西・山崎論文(「都市規模の決定に関するフィールド実験」)は、都市インフラ負担のルールを変えて開発用都市の入札行動を実験することで、インフラ負担のルールが都市規模にどのような影響を与えるかを調べている。
中川ほか論文では現実の日本の制度に近い税金ルールとアメリカで事例があるインパクトフィールールの違いを実験した。税金ルールとは、インフラの平均費用を皆が均等に負担するルールであり、都市規模が変化するとインフラの負担額も変わることから、都市規模が変化することで負担額も変化する。理論的には、都市規模の拡大によって費用が上がっていく局面では、限界費用よりも平均費用のほうが低くなるために、開発が過剰となり、都市規模が過大となる。ちなみに、現実の都市では、財政が都市だけで閉じていないために、都市における費用自体も過小に判断され、さらに過剰なインフラ整備が起きている可能性もあるが、それは中川ほか論文の対象外のことである。それに対して、インパクトフィールールでは、新たな開発によって必要となるインフラ整備費用の増加分をインパクトフィーとして開発者に負担させるため、限界費用を課すこととなり、最適な都市規模となる。また、インフラ負担額は、一度決まればあとは変わらない。
実験結果からは、被験者がある程度学習した後は、理論通りの都市規模が再現されることが示されている。インパクトフィールールは、インフラ負担額が明確にわかるという簡便性もあるため、被験者もすぐに状況を学習し、理論による予想に近い入札行動となったのに対して、税金ルールではインフラ把握が難しく、入札行動も理論で予想されるものとは異なる例が多かった。
理論でも実験でも、明らかにインパクトフィールールが望ましいことが示され、中川ほか論文の明確なメッセージとなっている。インパクトフィールールを現実に適用する場合には、少しの開発時期のずれで、大きな負担の差が生じてしまう可能性があり、社会制度として合意が得られるのか、インフラの維持費や更新費をどのようにルール化するのかなどの課題がある。これらの点についてのさらなる研究に期待したい。

都市計画では、住民発意による都市計画の提案制度がある。それまでの行政主導による都市計画の決定ではない、新たな道を切り開くものとして制定された。住民からの要望には、自らの開発自由度を高める規制緩和案と、周辺開発を抑制することで住環境を保全しようとする規制強化案の両方の可能性がありうる。典型的には、地区の土地をまとめて開発する不動産業者は規制緩和、今後の開発にさらされそうな住環境保全を求める住民からは規制強化の提案が出される。
杉浦論文(「住民発意による土地利用規制が及ぼす影響の分析」)では、規制強化型の住民発意による土地利用規制が及ぼす影響について分析を試みている。まずは、理論的考察により、住民発意の上乗せ規制は地価が上昇する傾向がある、合意形成が大変なほうが地価が減少する傾向がある、規制策定から長いと地価が減少する傾向がある、規制地区の周辺でスピルオーバー効果が存在するなどの仮説を立てて、それを検証している。パネルデータに対して固定効果モデルによる分析を行なった結果、これらの仮説はおおむね支持されている。
杉浦論文ではさらに規制手法についても検討しており、壁面後退や最高高さ規制など外部性を直接的にコントロールできる手法のほうが、最低敷地面積規制のように妥協によって規制値が決められやすい規制よりも望ましいことを論じている。住民発意の土地利用規制に対する本研究の示唆は大きく、今後の制度の運用において大いに参考になる。
固定効果モデルでは、地域によっては異なるが時系列的に変わらないような要因はコントロールされる。ただし、誤差項と地域の特質との間に独立性が成立しない場合には、回帰係数は必ずしも正確な効果を表すことにならない。
杉浦論文でも述べられているように、住民発意の規制がまとまる地域は、その他の地域に比較して地域環境が異なる可能性がある。そのため、実際の地域環境にも配慮した分析を行なうことで、より精緻な分析になるだろう。そのような研究の今後の発展が望まれる。
都市計画規制に関する市場影響分析を定期的に行なって、その時点その時点での都市計画の的確性を確かめ、問題があれば適正な規制のあり方に正していく仕組みが必要である。杉浦論文はその必要性についても重要な示唆を与えている。

近年の中国の経済発展にはめざましいものがあり、不動産価格は急上昇した。巨額の投資資金が不動産市場に流れ込んだ結果、価格が高騰したのみならず、ボラティリティも拡大し、不動産取引のリスクが高まり、健全な住宅市場の形成に支障になると判断された。そのため、中国政府は不動産価格を抑制する施策を進めた。それが国八条および新国八条である。
亢・行武報告(「中国における住宅価格抑制政策の効果分析」)では、国八条および新国八条による新規住宅購入に関わる制度の違いがどのような影響を及ぼしているかをDID 推定によって調べている。
DID とは差の差(Differencein-Differences)という意味で、DID 推定は施策実施地域群と実施していない地域群についてパネルデータが完備している時に、2つの地域群の差を施策実施前後で比較することで、施策効果を推定するものである。DID 推定は施策評価を定量的に行なう方法としてしばしば使われる。
中国では施策実施の段階が異なる3つの地域群(グループ1?3)と施策の適用がない地域群の計4地域群(コントロールグループ)がある。そこで、この3つのグループでの効果をそれぞれ分析している。
分析の結果、北京、上海、深圳など不動産投資が早くから集中し、新規住宅購入規制政策を早めに導入した諸都市(グループ1、2)では抑制策に住宅価格を下げる有意な効果があったことが示されている。しかし、2011年1月の新国八条公表後に抑制策を実施した諸都市(グループ3)では、効果が低かった。亢・行武報告ではその理由として、後者では実需による不動産価格の上昇であったために、投資意欲減退につながる抑制策の効果が限定的だったのではないかと推論している。
大都市では、投機的な資金の流入による過剰需要が存在していた可能性が高く、そのために抑制策によって顕著に住宅価格が抑えられたものと思われる。
定量的にはとらえにくかった中国の不動産市場の実態を明らかにした点で、亢・行武報告は大きな意義がある。
なお、DID 推定を行なう前提として、施策実施以外の要因による施策実施地域群と施策非実施地域群における差に変化がないことを仮定している。しかし、実際には、段階的に施策が実施されたことと、そもそも政策的なニーズが高いからこそ施策が実施されたという面があり、地域の発展段階や経済規模とグループとには相関関係が見られ、抑制策の純粋な比較というよりも、適用都市自体の特性や施策実施時期による影響が大きく現れているようにも見える。亢・行武報告でも述べられているように、より精緻な分析にはDID 推定だけではコントロールしきれない面もある。今後のより詳細な分析に期待したい。
(Y・A)
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