季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2013年秋季号
発行年月 平成25年10月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1成熟した住宅五十嵐健之
特別論文2-9地球環境問題への対応と地域居住文化の継承・発展?田光雄
論文10-19同時決定モデル(Type4 Tobit)を用いた住宅資産と 金融資産の実証分析川脇康生
論文20-26住宅価格におけるプロスペクト理論のフィールド実験中川雅之・浅田義久・山崎福寿
調査報告27-35欧米主要国における家賃補助制度篠原二三夫
海外論文紹介36-39都市の人的資本ストック向上のための教育経済分析の進展土井直
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ノート
住宅取得は一般の世帯にとって大きな消費選択のイベントであり、自分の人生設計上のさまざまな要素を勘案して決定することになる。とりわけ住宅以外で大きなシェアを占める金融資産は予算制約を決定づける。そのため、住宅資産と金融資産の決定は同時的になされると考えるべきである。ところが、そのような分析はあまり多く行なわれていない。その理由として、そもそも家計を詳細に調べたデータがあまりないこと、そして、同時決定のモデル自体の構築では、特に住宅という長期的な視野から消費を定めるべき財を適切にモデル化することが難しいためである。
川脇論文(「同時決定モデル(Type4 Tobit)を用いた住宅資産と金融資産の実証分析」)は、この難しい課題に挑戦している。東京大学社会科学研究所のデータアーカイブにある個票データにType4 Tobit モデルを適用して分析した。Type4 Tobit モデルとは、潜在変数を仮定して、それが正ならばある変数が実現され、負ならば別の変数が実現されるというように、潜在変数によって実現変数がスイッチするモデルである。潜在変数としては住宅資産需要をとり、それが頭金の準備や住宅取得にかかわる費用などを表す閾値を超えるかどうかでスイッチするものと仮定している。超えていれば、住宅資産需要がそのまま実現され、それとともに金融資産需要も実現される。しかし、超えていない場合は、住宅取得はできず、予算制約は金融資産とその他の消費に向けられる。
分析の結果、世帯年収や世帯主年齢は予想通り住宅資産需要および金融資産需要にプラスの影響が出ていた。また、子供がいることや親から住宅購入支援額があることが住宅資産需要にプラスの影響があった。
興味深いのは、事前に頭金を長期に貯蓄してから住宅購入に踏み切るのではなく、むしろ、購入の必要が高まった時に、住宅ローンを増やすことで購入に切り替えているという結果が示唆されたことである。昨今の長期の低金利の市場環境が、そのような行為を可能にしたことは十分に推察される。
そもそも、住宅ローンとりわけ公的な住宅ローン支援は、潜在的な住宅需要を顕在化させるために作られた制度である。川脇論文では、公的な住宅支援制度の議論はなされていないものの、結果から見るに、低金利の市場環境も相ま って、制度目的が適切に達成されていると考えることもできる。
住宅資産と金融資産の同時決定問題をモデル化し、世帯の住宅取得行動を定量的に分析した川脇論文の意義は大きい。

人は必ずしも単純に将来価値の期待値を最大化するような行動をとるわけではない。むしろ、過去の売買の結果にこだわって、一見不合理に見える行動をとることが多い。実際、過去の損失があると、それを取り返そうとして、住宅の売却にあたっては高めの値段をつけて、結果としてなかなか売れないというような状況を引き起こす。バブルが崩壊しても、損失があるために、価格を下げるのに時間がかかるということになる。
そのような人の心理をとらえるための理論としてプロスペクト理論がある。プロスペクト理論とはカーネマンとトベルスキーによって展開された理論で、確率に関する人の反応が非線形であること、富の水準よりもその変化に基づいて行動する傾向があることなどを主張する。特に、人は損失を利益よりも強く意識するために、購入時よりも現在価値が下がったような物件ではあまり価格を下げようとしないことになる。
中川・浅田・山崎論文(「住宅価格におけるプロスペクト理論のフィールド実験」)はそのような状況を、実験的に分析している。具体的には、マンション所有者に対して、その属性(これにより、マンションの現在価値を推計)、購入時の価格、売却する場合のオファー価格を尋ねている。
分析の結果、プロスペクト理論が予想する通り、相対的なオファ ー価格は相対的な利得の増加関数となっており、かつ利得が正の場合のほうが、損失が発生しているときよりも傾きが大きくなっている。このことは、購入時よりも現在価格が低い場合の下げ幅のほうが、上がった時の上げ幅よりも小さめになることを示している。
もう一つの重要な結果として、将来の損失を見越して合理的な価格付けができないという実験結果が得られている。このことは都市・住宅政策に重要な示唆を与える。市場を構成する個々人が、単純に経済合理的に行動することを前提として制度設計をすることが誤りになるということである。やや敷衍して考えれば、不動産市場価格が全体としては下がっていくと予想される今後の状況において、市場に任せるだけでは、適切に取引が行なわれず、売却できずに過剰に空家が発生してしまう懸念があるということになる。
市場構成者の行動規範をプロスペクト理論が予想する行動規範に直して、政策の効果分析を行なわねばならないことを中川・浅田・山崎論文は示唆している。中川・浅田・山崎論文をもとにして、新たな政策分析がなされ、適切な市場環境整備および政策介入手法の構築がなされることを望みたい。
なお、本筋からは離れるが、中川・浅田・山崎論文で取られた危険回避度を求める質問の仕方も興味深い。降水確率が何%で傘を持 っていくか、子供の大学の合格確率が何%ならば滑り止めをアドバイスするかという質問は、どちらも身近で答えやすく、今後の研究にも役立てることができそうである。

日本でも所得格差が広がりつつあり、特に20〜30歳代の年齢階層の格差が広がっている。これが世帯形成に向けて準備する世代であることを考慮すると、十分な住宅が持てないことによる世帯形成の遅れも懸念される。
所得が低い人々の住宅を確保する政策としては、公的な賃貸住宅の供給と民間賃貸住宅に対する家賃補助がある。日本では、前者は大規模に行なわれ、公営住宅はもちろん、都市再生機構住宅、公社住宅などがある。他方、家賃補助は地方自治体で独自に行なわれている例はあるものの、その規模は限られている。
ただ、住生活基本計画でも住宅セーフティネット機能を民間住宅市場でも果たすことが位置付けられており、家賃補助の制度検討の重要性はいまだに高いといえよう。
篠原報告(「欧米主要国における家賃補助制度」)は、共同で行なわれたイギリス、アメリカ、ドイツ、フランスの家賃補助制度の状況の調査結果を報告している。
イギリスでは、住宅給付金が、公営住宅、社会住宅、民間賃貸住宅に支払われる。ただし、それぞれの名称は異なる。また、資産が多い人には給付されない、などの適格要件がある。適格要件を満たせば必ず支給されるエンタイトルメント型である。全世帯の17.6%が住宅給付金を受け取っており、平均で月332.84ポンドの受給額となる。総支給額は207億ポンド(約3.1兆円)。透明性の確保や住宅選択の拡大などの改革を行なってきているが、目下の課題としては、財政負担の抑制がある。
アメリカでは、住宅バウチャー制度がある。受給資格としては、所得要件や対象住宅の質的要件がある。イギリスと異なり、予算を限度として給付される。そのため、受給できずに待機者が出ているのが実情である。制度の課題としては、社会的ミックスの実現、居住者の自立向上、低所得者支援の総合化などがある。
ドイツでは、住宅手当制度がある。家賃限度額以内の住宅に居住することが適格要件となっている。エンタイトルメント型給付である。賃貸住宅だけでなく、持家住宅も対象となる。制度の課題としては、失業手当制度との調整が必要なこと、社会住宅制度との連携が必要なことなどがある。
フランスでは、住宅手当などの制度がある。子供がいる世帯、低所得者などが対象となる。賃貸住宅でも持家住宅でも施設居住でも受給できる。受給資格として、所得要件や住宅の質的要件がある。フランスも適格要件を満たせば必ず支給されるエンタイトルメント型の制度となっている。制度の課題としては、財政負担の増加がある。
住宅以外も含めた弱者対策の仕組みと合わせてより理解を深めることで、日本の制度の議論にも生かせることを望みたい。
(Y・A)
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