季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2014年春季号
発行年月 平成26年04月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1バブルと住宅・不動産市場の動き吉野直行
特別論文2-7市場経済における都市計画竹歳 誠
論文10-21最適な土地利用規制方法とその決定要因河野達仁・ジョシ キリティ クスム
論文22-28応急仮設住宅と被災者の支援宇南山 卓
論文29-35活断層リスクの社会的認知の変化と周辺地価形成の関係の検証顧 濤・中川雅之・齊藤 誠・山鹿久木
海外論文紹介36-39住宅価格と出生率石野卓也
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トリアル
ノート
都市問題の中心的な課題の一つに交通渋滞の問題がある。交通渋滞は通勤者に不快感を与えるだけでなく、通勤時間を長引かせるため、経済的にも非効率である。しかも各個人は、自分の選択が他の人に影響することを考慮しないという点で負の外部性をもたらすもので、自由な市場取引だけでは解決しない問題である。
この問題に対しては、従来から交通集中を回避するために、容積率を規制するなどの対応がなされてきた。しかし、その規制水準の合理性については、必ずしも十分な理論的根拠が提示されているとは言いがたい。そのため、都市の発展の中で、現行規制のあり方がしばしば問われてきた。
河野・ジョシ論文(「最適な土地利用規制方法とその決定要因」)は、混雑外部性がある場合における容積率の最適な規制水準を示そうとするものである。
ここでは政策手段として容積率規制だけでなく都市境界規制も組み合わせて、最適な規制水準のあり方を論じている。またその規制水準を閉鎖都市と開放都市の異なる状況下で分析している。
閉鎖都市とは、規制や政策が実施されても居住者は都市内部にしか転居せず、都市内部で人口が一定で変化しない都市のことであり、開放都市とは、規制や政策によって都市内部に転入したり、外部へ転居が生じたりするなどして、人口が変動する都市のことである。
人々が都市の中心業務地域に通勤する状況を前提に、その周辺居住地における容積率をコントロールする状況を考える。閉鎖都市においては、容積率を規制すると、人々が都市内部で転居することで通勤費用が変化する。都市の中心部から離れて居住する人が増えるほど通勤費用は増加するため、都市の中心部に近い居住地の容積率規制を緩めるほうが、規制による死過重も発生せず、混雑が減って通勤費用が低下する。
この効果を考えると、容積率を市場均衡で達成される水準より高めるほうが望ましく、そのため、容積率の上限を定めるのではなく、むしろ中心部周辺の居住地では下限を定める規制が望ましくなり、他方、郊外部では人口を減らしたほうが混雑は低下するから、上限規制が望ましくなると論じている。
また、人口を都市中心部周辺に居住させたほうが、混雑と通勤費用を軽減できて社会的厚生が高まるため、境界規制も市場均衡水準よりも狭めることが望ましくなる。
これに対して、人口が変化する開放都市では、混雑を軽減するために、規制によって人口もコントロールできる。そのため、境界部を狭めるとともに容積率を引き下げる、すなわち容積率の上限規制を、郊外部のみならず中心周辺部でも定めて人口自体を減らすことが望ましい規制となる。ただし、郊外部ほど市場均衡水準からの乖離は大きくなる上限規制が最適となる。この理由は、中心周辺部に人口を集中させるほうが交通費用を軽減できるという点は閉鎖都市と同じだからである。
興味深い分析であるが、居住地のみを分析するもので、中心業務地域の問題は基本的に扱われていない点には注意が必要である。また、河野・ジョシ論文は、最適な容積率の規制水準を扱うものであり、容積率規制が最適な政策であることまでは示していない。混雑料金との関係など、より詳細な分析が有効な規制のためにも重要であろう。

東日本大震災から 年が経ち、震災からの復興も大きく進みつつあり、その検証と評価はこれからの課題となろう。他方で、阪神・淡路大震災については、すでに20年近く経過したこともあり、さまざまな検証が可能となってきている。
宇南山論文(「応急仮設住宅と被災者の支援:阪神・淡路大震災のケースを中心に」) は、震災時に建設される応急仮設住宅の役割とその問題点について議論している。
宇南山論文によれば、震災時点(1995年 月)で1993年10月時点と同程度の空き家率であったとすると、被災地域でも、震災直後に約13.7万戸の空き屋が存在していたと試算している。そのため、プレハブによる応急仮設住宅の大部分が不要であった可能性が高い。
しかも、応急仮設住宅の建設コストは、1戸あたり350万円にもなり、神戸の借家家賃を直接補助するほうがコスト面でも大幅に有利であったと指摘している。
また、災害救助法が「災害の発生した地域」において救助や支援を実施するという「現在地救助の原則」に従っていることが、被災者の転居を制限した可能性を指摘している。被災地を離れれば、被災者としての支援が受けられなくなってしまうために、住民が被災地域内にとどまろうとするからである。
宇南山論文では、この人口動態への影響をDID(Difference inDifference)の手法を用いて試算している。具体的には、隣接する人口類似地域の人口の変化を、震災がなかった場合の被災地の人口変化とみなし、実際の震災前後の被災地の人口の変化と比較して、その差を震災による転居への影響として試算するものである。試算によると、震災によって約1万9000人の県外転出が抑制されたとしている。被災者の自立のためにも自由な転居と転居先での適切な援助が認められるべきであろう。
さらに、宇南山論文は、「応急仮設住宅入居者調査」を基に、仮設住宅が高齢者や低所得者への経済的な支援として実施されていたと指摘し、これらの考察に基づいて、災害救助法の現物主義、現在地主義の矛盾と一時支援という目的と実情の齟齬の問題を指摘している。
上記のような宇南山論文の指摘は、データの制約のため、統計的には十分な検証ができないという点では、注意深い検討が求められると思われる。しかし、東日本大震災では、阪神・淡路大震災の時の教訓もあり、「見なし仮設住宅」という民間住宅の賃貸への補助が
多用されたことは記憶に新しく、宇南山論文のような検証や議論の蓄積が、被災者の立場に立った支援と救助のあり方を考える上で重要な資料となろう。

被災者支援は震災の事後的な問題であるのに対し、事前の問題、すなわち、震災や地震のリスクに人々がどう対応しているのかを評価することも、防災対策を考えるうえで重要となる。東日本大震災では、津波による被害が大きかったが、阪神・淡路大震災では、活断層に対するリスクが大きくクローズ・アップされた。
顧・中川・齊藤・山鹿論文(「活断層リスクの社会的認知の変化と周辺地価形成の関係の検証」)は、1995年1月の兵庫県南部地震(すなわち阪神・淡路大震災)の震源となった活断層に対して、震災の前後で人々の認識がどう変化したかを、地価への影響を検証することでとらえようとするものである。
顧・中川・齊藤・山鹿論文では、すでに彼らが分析した線形回帰モデルの結果として、兵庫県南部地震に地理的に近い上町断層帯周辺(断層帯から ?以内)の地価が、断層に近いほど1995年以降有意に低下し、さらに1996年以降では、特に住居地で有意な低下が観察されることを紹介している。
そのうえで、この線形回帰モデルの推定結果の頑健性を、二つの追加の推計によって検証している。
一つ目の検証は、上町断層帯までの距離に対してはパラメトリックな仮定を置かず、他の変数については線形性を仮定したセミ・パラメトリック・モデルによる検証である。この推計でも、1995年1月以前には上町断層帯までの距離に関する説明力はほとんど有意ではないが、1996年以降には有意に転じたとし、頑健性を確認している。
もう一つは、公示地価データに含まれる測定誤差の問題を検証するために、地価公示データをパネル化して固定効果モデルで分析した推計である。この固定効果モデルでも1995年を境に活断層までの距離が近いほど有意に地価が割り引かれる傾向を確認している。
顧・中川・齊藤・山鹿論文の分析は、活断層リスクと地価形成の問題としてとらえられるだけでなく、人々が地震のリスクをどのように認識して居住地を選択するのかという点を理解するうえでも極めて意義深い。防災の観点から、居住地や土地利用をどうコントロールしていくのか、そのための貴重な基礎的情報ともなり得るだろう。(H・S)
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