季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2014年秋季号
発行年月 平成26年10月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1住宅政策の今後の展開橋本公博
特別論文2-7住まい・まちづくり新時代藤本昌也
論文10-18都市内失業と都市構造・宅地開発の分析佐藤泰裕・肖佛
論文19-28木造住宅密集地域の現状と課題宅間文夫・山崎福寿・浅田義久・安田昌平
論文29-35期限付きキャッシュバック制度が退去行動に与える影響森知晴・大竹文雄
海外論文紹介36-39住宅所有における負の純資産額と抵当権の実行の関係鈴木雅智
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同じ都市の中においても、地域によって住民の特性は異なる。特に都市内部では、失業者の多い地域と少ない地域が明確な形で現れる傾向があり、地域の治安や良質なコミュニティの形成という観点からも、しばしば重要な論点として議論されることがある。
この点で住民の居住地選択が、どのような要因によって決められているのかを正しく理解することは、政策的な観点からも重要なものとなる。
佐藤・肖論文(「都市内失業と都市構造・宅地開発の分析」)は、同一都市内部における失業者と就業者の居住地選択の問題を理論的に分析し、その上でデベロッパーの宅地開発への政策的な影響を論じるものである。
前提としている都市住民の行動は以下のようなものである。まず、住民は、失業者と就業者の二つのタイプに分けられる。ここで、失業者は就職すれば就業者となる点には注意が必要である。
就業者は都心部へ通勤することで賃金所得を得ることができるが、そのためには通勤費用がかかる。この通勤費用は就職先企業のある都心部から離れるほど高まる。他方、失業者は余暇からの効用や政
府からの失業給付などを受けて生
活している。失業者は、このとき
職探ししなければならないが、この職探し費用も就業先企業が多い都心部からの距離に応じて高まることになる。ただし、この職探しにかかるコストは、失業者の職探しの熱心さに依存するが、都心部からの距離が同じなら、就業者の通勤コストよりは低くなることを前提とする。
就業者の通勤費用や失業者の職探しの費用は、都心部からの距離に比例するから、両者の居住地選択の違いに影響を与えるのは、一見これらの移動コストの大きさの比較のように思われるかもしれない。しかし、職探しの結果、失業者は就業者になる可能性があるため、この就業できた場合に得られる賃金所得の期待値と失業時の余暇や失業給付などの利得との差額がむしろ重要な要因になる。
就業できることによる期待賃金が失業時の利得より高い場合には、失業者にとっては職探しをする利益が大きくなり、都心部付近に居住する限界的な評価は高まることになる。特に、失業者の職探し費用は就業者の通勤費用より低いから、賃金所得の期待値が失業時の利得よりも高ければ、失業者の都心部に居住する価値は、就業者のそれを上回る。そのため、失業者が都心部近くに住み、就業者がむしろ郊外部に住むような居住地の選択がなされる(空間統合均衡)。
他方、失業時の利得が期待賃金より高い場合には、失業者は職探しをするメリットが小さくなるので、彼らが都心部近くに住むことの評価も小さくなる。そのため、就業者が都心部近くに住み、失業者が郊外部に住むような居住地の選択が達成される(空間ミスマッチ均衡)。
その上で、職探しの熱心さや賃金が上昇すると、失業者も就業者になり就業者自体が増えるため、例えば空間ミスマッチ均衡では、就業者向けの都心近くでの宅地開発が活発となり、他方で、失業給付の増加は失業者の住む郊外の宅地開発を活発化させることなどが理論的に示されている。さらに、上記のような均衡の違いによって、宅地開発への課税や所得分配政策のような政策的な介入が、どのような影響を与えるかについても分析されている。
ただし、佐藤・肖論文のモデルは、どのような均衡が社会的な厚生の観点から望ましいのかというような規範的な分析ができるようには作られていない。失業給付の意義を都市政策の観点から考える上でも、規範的な分析が可能なモデルへの拡張を期待したいところである。

東日本大震災以降、大規模地震を想定した防災対策が急がれるようになっている。特に都市部では、阪神淡路大震災で見られたような大規模な火災の延焼を防ぐためにも、木造住宅の密集市街地における再開発や不燃化対策が喫緊の課題となっている。
宅間・山崎・浅田・安田論文(「木造住宅密集地域の現状と課題」)は、東京、大阪、京都の三大都市部における木造住宅密集地域(木密地域)の問題についての聞き取り調査をまとめるとともに、木密地域における危険性などを外部不経済の効果として推計したものである。
聞き取り調査では、いずれの都市においても道路の拡張整備を基本として公園広場の整備などの延焼遮断帯の設置が進められてはいるが、用地取得の難しさや道路拡幅のためのセットバック規制の機能不全などが指摘されている。
なかでも興味深いのは、京都市の対策である。もともと袋路や狭隘道路が多いうえに、歴史的景観との調和が求められる開発規制が導入されているため、再開発的な事業は極めて困難な地域である。このため不燃化率などを高めることを目指して、セットバック幅を緩和した 項道路を指定したり、さらに狭い道に対しては 項道路を指定するなどの対応によって建て替えを可能にすることなどを検討したりしているという。
外部不経済の大きさについては、東京23区内の家賃データを用いたヘドニック分析によって、実証的な推計が行なわれている。ここで、木密地域では、その地域自体の収益性が低いために、土地所有者等が住宅投資自体を低下させてしまう効果がある。そのため、結果として住環境の悪化が進み、木密地域の深刻化を助長させているという内部性を考慮する必要がある。
この点を考慮して、住宅密度を家賃の関数とした推計式を加え、将来地価(ただし推計した将来家賃を代理変数とする)を操作変数に用いて推計している点に論文の特徴がある。
推計の結果、通常のOLS では集積の利益のような正の外部性と木密地域の負の外部性を別々に評価することができず、負の外部性を過小評価してしまう。これに対して操作変数を用いることで、正の外部性と負の外部性を別個に評価することでき、その推計結果から試算される外部不経済の平均家賃への影響は、家賃を約1.26%低下させることになるという。個人的な感想だが、値はかなり低いようにも思われる。
宅間・山崎・浅田・安田論文でも指摘されているように、推計では集積の利益などの正の外部性の過小推定の問題がなお残っているのかもしれない。また、賃貸住宅情報誌の掲載家賃を用いているため、家主の希望家賃であり、実際の契約家賃より高い可能性もあるだろう。外部費用の推計は、政策効果の分析の上でも重視されるべきものであり、さらなる精緻化を進めてほしい。

近年、高齢化にともなって都市部においても空き家が高い頻度で発生しており、社会的にも重要な問題となってきている。既存住宅ストックの有効活用の観点からも、空き家問題に対する政策的介入の必要性がしばしば指摘される。しかし、空き家対策の政策効果についての実証的な観点からの分析はまだ少なく、その必要性が高まってきている。
森・大竹論文(「期限付きキャッシュバック制度が退去行動に与える影響」)は、大阪市住宅供給公社が空室率の改善を目的として2004年から導入したキャッシュバック制度という家賃補助制度について、この制度利用者の退去とその時期の選択にどのような影響を与えているかを実証分析しているものである。森・大竹論文では、公社の実施したキャッシュバック制度を利用して入居した世帯が、そのキャッシュバックを受けられる期間の終了に応じて退去するか否かを検証している。これは逆に制度利用者の当該賃貸住宅への定着の度合い分析したものと解することができる。
森・大竹論文では、キャッシュバック制度を利用している世帯を「子育て世帯」と「非子育て世帯」に分けてCox の比例ハザードモデルを用いて分析し、これらの世帯構成と退去確率の関係を評価している。
実証分析の結果、キャッシュバック制度を利用した「非子育て世帯」では、制度終了時に退去確率は有意に高まり、特に制度終了時の前後数カ月について退去確率が有意に高まっていることが示されている。他方、キャッシュバック制度を利用した「子育て世帯」では10%の有意水準で17%程度退去確率が上昇するにすぎず、時期についても制度終了時前後に若干の増加が観察されるが、統計的には有意な効果を見出せないとしており、「子育て世代」の定着度が高いとされる。この点で長期の空室率削減のためには、新婚・子育て世代に対象を絞ったキャッシュバック制度の効果が大きいとしている。
著者らも指摘しているように、空室率をどの程度減らしたか、という数量的な分析はなされておらず、制度の全体的な観点からの評価も必要となるように思われる。
(H・S)
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