季刊 住宅土地経済の詳細

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タイトル 季刊 住宅土地経済 2015年秋季号
発行年月 平成27年10月 判型 B5 頁数 40
目次分類ページテーマ著者
巻頭言1地震大国日本の課題?木茂
特別論文2-7土地・住宅の特性からもたらされる課税の複雑さ中里実
論文10-19生前贈与と住宅取得間の戦略的相互作用行武憲史・岩田真一郎・井出多加子
論文20-27子育て支援政策が居住地選択と出生行動に与える影響について田中隆一・中嶋亮
論文28-35コンパクトシティが都市財政に与える影響沓澤隆司
海外論文紹介36-39住宅取引におけるプリンシパル・エージェント問題原野啓
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少子高齢化が進む日本では、いかにして高齢者の貯蓄を有効活用するか、いかにして少子化を緩やかなものにするか、それらに耐えうる都市構造を作り上げるかが、きわめて重要である。今回はそれらを扱った3本の論文を掲載した。

行武・岩田・井出論文(「生前贈与と住宅取得間の戦略的相互作用」)は、親からの住宅取得に関する生前贈与の効果を、理論的、実証的に検証したものである。
政府は、高齢者の貯蓄を有効活用するため、税制等を用いて、親からの生前贈与の優遇を行なっている。既存研究においても、これが子供の住宅取得額を増やすことが報告されてきた。しかし、親からの生前贈与が、住宅取得額を確実に増やすのは、それが利他的な動機に基づく場合であることが指摘される。
行武・岩田・井出論文の重要なアイデアは、親の老後の私的介護との交換を期待した交換動機に基づく生前贈与は、必ずしも子供世代の住宅取得を増加させるものではない、とする点である。提供されている理論モデルでは、住宅消費への予算制約を通じた贈与の正の影響が、子供の介護サービスに対する効用を通じた負の効果によって弱められることが示され、親の生前贈与が子供の住宅取得額に与える方向性は、事前には確定できないと主張される。つまり、子供は家庭内負担が重くなるので、親の贈与を使ってより高い住宅を購入することを躊躇する可能性がある。
このアイデアを、2万7018世帯のマイクロデータと、内生性を考慮した緻密な手法を用いて検証している。その結果、単純なOLSを用いた場合には、既存研究と同様に、生前贈与の有無または生前贈与の額は、住宅取得額に正の有意な影響を与えていた。しかし、交換動機を明確に考慮した、操作変数法を用いると、その正の有意な影響は消え去るという結果が報告される。
また、年齢別のサブサンプルを用いた分析では、35歳未満においては、生前贈与の正の効果が観察されるものの、35歳以上になるとそれが消え去ることが報告され、若年世代に対する親の行動が、必ずしも交換動機に基づいていないという解釈が示される。
行武・岩田・井出論文の指摘は、政策的にも重要な意味を持つ。前述のとおり、政府は高齢世代の貯蓄の活用方策として、生前贈与を優遇する政策を展開している。これは、住宅のみならず教育に関する生前贈与にも適用されている。しかし、これが交換動機に基づくものである場合は、生前贈与は親世代の貯蓄の減少と子供世代の貯蓄増加を交換するだけの効果しかもたないことになる。
最後に、年齢別のサブサンプルを用いた実証分析結果に関連して、あえて異なる解釈の可能性を指摘したい。
35歳以上の世帯が、親からの生前贈与によって住宅取得額を増やしていないということは、それをローン借入額の減少に使用しているということを意味する。35歳以上で、借り入れ制約が緩和され、ある程度以上の面積の住宅取得が可能となった世帯は、「これ以上のクオリティの住宅消費」と「借入額減少による将来消費額の増加」との選択を迫られることになるだろう。その場合、住宅という財から得られる限界効用が逓減していることを、この実証分析結果が意味しているという可能性はないだろうか。

田中・中嶋論文(「子育て支援政策が居住地選択と出生行動に与える影響について」)は、地方自治体が行なう子育て支援政策が、出生率に及ぼす影響を検証したものである。
少子高齢化の本格的な進展に対して、中央政府はさまざまな政策を講じているが、地方政府も自地域の若い住民を確保するという観点から、独自に子育て支援政策を展開している。しかし、このような移動可能な資源に対する地方政府の分権的な関与は、地方政府同士が若い住民を奪い合うことになって、全体的な効果は相当に減殺されるというのが、理論が予想するところであろう。
このため、田中・中嶋論文においては、自治体間の子育て支援政策の違いが、家計の居住地選択行動に与える影響を考慮して、出生への影響を子育て支援政策の「正味の」効果と、居住地選択による「奪い合い」効果に分解した分析を展開している。具体的にはOLS に基づいて出生確率を推定するとともに、居住地選択確率の推定を通じて、妻の就業の内生性と居住地選択バイアスを取り除いた推定を行なっている。
その結果、子育て支援政策の効果は、既存の子供の有無や家計所得に依存して異なりうること、つまり、既存の子供がいる低所得の家計ほど、地域子供・子育て支援政策が有効に作用するものの、既存の子供がいない高所得の家計ほど、母子保健が有効に作用することが明らかになった。また、田中・中嶋論文の最も重要なファインディングとして、居住地選択を明示的に考慮することで、地方政府が行なう子育て支援策の正味の効果が、大幅に低下することがわかった。このことは、今後の子育て支援政策に、重要な示唆をもたらす。
今後のさらに発展した研究を行なう際には、政策の実態をより忠実に反映した実証分析を求めたい。通常、最も重要な子育て支援策として指摘されることが多いのは、保育サービスであろう。しかし、田中・中嶋論文では一人当たりの行政支出が、説明変数として採用されている。このため、需給関係のアンバランスが反映できない実証分析となっているように思われる。有意なものとして推定されている地域子供・子育て支援政策は、情報提供、相談、一時預かりなどることを期待したい。

沓澤論文(「コンパクトシティが都市財政に与える影響」)は、都市構造のコンパクト化が、都市財政の効率性に与える影響を、実証的に分析したものである。
人口減少、少子高齢化を受けて、地方自治体の財政は、将来的に大きく悪化することが予想されている。そもそも地方自治体が行なう行政サービスには、資本集約的なサービスと労働集約的なサービスが存在するが、前者には規模の経済が働き、後者については集積の経済が働くと考えられる。将来の地方自治体の財政を持続可能なものとするために、規模の経済と集積の経済を活かすという観点から、コンパクトシティは大きな注目を集めている。
沓澤論文では、「市町村別決算状況調」(総務省)のデータを用いて、都市構造が一人当たり歳出額に及ぼしている影響を検証している。その際、市町村同士のスピルオーバー効果を考慮するために、空間的自己相関モデルによる推定を行なっている。
その結果、中心市街地への人口集中は、教育費、衛生費、消防費、老人・児童福祉費などを中心に、一人当たりの歳出額を抑制する効果があることを実証している。また、近隣の地方自治体の財政支出も、土木費、商工労働日、民生費を中心に、影響を与えているということも判明した。
効果のマグニチュードとしても、DID 地区の面積が不変として、同地区の人口が自治体全体の人口に占める割合が 割上昇した場合、一人当たり歳出額が1.7%程度削減できるという結果を得ている。これらの結果は、地方都市において、かなり明確な政策的な方向性を示唆するものと考えられよう。ただし、沓澤論文はコンパクトシティ化のコストも含めて慎重な政策的議論を促している。
なお、沓澤論文ではコンパクト化の効果を、DID 地区の人口割合から、面積割合を除いたものによって計測している。このような相対的な集中度合が、行政サービスの効率性に影響を与えていることは間違いないが、人口密度の絶対的なレベルも効率性に影響を与えていると考えられる。また、近隣自治体からのスピルオーバーを、人口および直線距離によってウェイトづけされた変数によってコントロールしている。
しかし、近隣自治体との関係は、同じ都市圏に属している中心都市、郊外都市関係を考慮に入れた、都市圏ごとのデータセットに集計しなおすことによって、より機能的な関係を考慮することが可能になるのではないだろうか。政策的に非常に重要なテーマであり、より研究が進化することを期待したい。
(M・N)
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